軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一番の変態なのでは?

「最近の王都?」

「はい」

「そう言われても……」

手を止めてネルネは小さく首を傾げる。

幼馴染は職業柄、やはりあっちの方に興味を抱くらしい。せっせとレイザの人形を洗うふりをして隈なく観察している。

ネルネも観察したことがあるが、あの人形は無駄に良く出来ている。

飲食も可で、口を通り胃の部分に存在する袋に全て貯まるように出来ている。そのまま袋をひっくり返し、“下”行きの管に接続すれば“下”の出口から排出できるのだ。

一番驚いたのは女性としての機能が備わっていることだ。それも取り外しが可能で、“使用後”は外して中身を捨てて洗えば何度でも使用できるという。

女性視点で見ていると何を目的に作られたのか考えてしまうが……それでもレイザのような両足を失った人間が出歩けるのだから凄い物なのだろう。

「そうね」

脱線した思考を戻し、ネルネは小さく頷く。

少なくとも自分は近衛の諜報に携わる者だ。この中で王都のことは一番詳しく知っている。

「変態が力を持ったわ」

「……」

質問した相手を間違えたのか疑問に思いながらもリディは耐えた。

耐える必要があるのか疑問には思う。何せ返事を寄こす相手も十分に“変態”だろう。

「くぅん……」

ネルネが抱いているレイザ本人が甘い声を発して全身を震わせる。

彼女はずっと洗われていた。湯船に浸かりネルネに捕まってから、ずっとだ。

「もう……許して……」

「聞こえない」

「ふあっ」

甘い声を発してレイザが激しく震えだす。

洗っているはずだ。両足が無く、片腕もない彼女を洗うとしたら胴体と頭がメインとなる。

だからネルネは丁寧に徹底的に胴体を洗い続けている。隅から隅まで、浅い所から深い所まで完璧にだ。

「変態と言う言葉には語弊があるけれど、でもあの人を表現するのならその言葉が一番なのよね」

「あの人とは?」

「地方でも噂ぐらい聞いているでしょう? 元王子様」

タクトを振るう指揮者のようにネルネは右手を動かす。

「アルグスタ様か」

確かに噂は聞いていた。あのドラゴンスレイヤーと結婚した人物だ。

彼の結婚式にリディは参加していない。式の為に公休となったノイエの代わりに、王都を外敵から守るために王都郊外でドラゴンたちと戦っていたのだ。

「私はあの日、王都内で外国の要人たちを見張っていたわ。レイザは?」

「……私はメイドですのれっ」

ビクビクと全身を震わせてメイド様はグッタリとする。

だがネルネの手は止まらない。容赦もない。

奇麗にすることは大切だ。何より“両方”を腰抜けにする技術は必要なのだ。

「イーリナは?」

「寝てた」

「……そうよね」

人形の関節部分を確認するイーリナの返事は適当だった。

ネルネは心底呆れる。安定の幼馴染だ。

あの日は非番など存在していなかったから、彼女はどこかで寝ていたのだろう。

本当に良く不敬罪で捕まって牢獄に……それはそれで幸せに感じるのかもしれない。

問題は差し入れと称して色々と我が儘な物品を要求されそうな気がする。

「イーリナ。出来たら捕まらないでね」

「良く分からないが分かった」

人形の足を大きく広げて何やら観察している幼馴染は心ここに非ずだ。ある意味平和だ。

「まあその王子様が本当に色々とやってくれるので、王都はこの1年で色々と様変わりしているわ。主に貴族の顔ぶれが」

「貴族たちの?」

「ええ」

苦笑してネルネはレイザの奥の方を洗う手を止めた。

流石にやり過ぎたかもしれない。若干白目を剥きだしている。

「王子様に歯向かって大半が返り討ち。最近だと……」

一度言葉を切る。

どこまでなら話しても大丈夫なのか悩むが、口の軽い貴族たちは『ここだけの話』と言って言いまわっている。

ならば情報に詳しい者たちはある程度知れ渡っていることだろう。

「先日の鎮魂祭で陛下がある人たちに恩赦を与えたの」

「恩赦?」

「そう。あの日と呼ばれる日に罪を犯した人たちにね」

王都に戻ったばかりのリディはその辺りの話に疎かった。

ネルネは掻い摘んで説明し……彼女は理解を示してくれた。

「だがその者たちは皆、処刑されたのでは?」

「それが生きているのよ。有名な所だとグローディア様かしら」

「……本当か?」

若干前のめりに詰め寄る相手にネルネは抱いているレイザを盾にした。

グッタリとして半ば気絶している相手を見て、リディは息を整え座り直した。

「全員とは限らないみたい。ただある程度の人材は生き残っていて、王家……厳密に言うとグローディア様とアルグスタ様が匿っているみたいなの。

それで現在貴族たちは会合を重ねて、たぶんこのままだと3つに分かれると思うは」

「3つに?」

「ええ。王家に協力し甘い蜜を啜る派と匿われている者たちをどうにか手に入れて自分たちで匿う派。それとその匿われている者たちを皆殺しにする派かしらね」

手の指を三本立ててネルネはクスリと笑う。

「大勢力は王家に協力する派閥ね。東のクロストパージュ家などこれに含まれる。

次いで横取り派閥。西のブルーグ家が中心になると思う。

最後が復讐派閥。南の貴族が集結すると思うけど、ミルンヒッツァ家が王弟様の後ろ盾をしているから大きく動けばそこから情報が王弟様の元へ流れる。だからたぶん小規模ね」

「……そうか」

頷きリディは軽く顎を撫でた。

この場に居る者たちはそれぞれ自己紹介をし、ある程度国の中枢に食い込む仕事をしていることが分かっている。

詳しくは語れないが、多少の情報なら提供しても問題にはならないはずだ。

「北はどうだろうか?」

「北?」

リディの声にネルネはまた手を止めた。

反応が薄くなったので小振りの双丘を弄び、『大きくなれ』と念じていたのだ。

「北は特に動かないと思うけど? あっちは国境の関係で上級貴族は置かれていないし」

「言葉が悪かったか。自治領の方だ」

「……」

問われてネルネは思考を走らせる。

「キシャーラ様の方は帝国と睨み合っている。だから簡単に動かないと思うし、何よりあそこはアルグスタ様との仲が良好と聞く」

「ならもう1つの方は?」

「ウシェルツェル様?」

彼は傀儡の自治領主として立てられた元共和国の国家元首の息子だ。

ただ自治領の成立はユニバンス王国の主導で行われた。人材の多くはユニバンスからの派遣であり、本国からの指示が無いとあの自治領は立ち回れないのだ。

「最近共和国からの人材が多く流れ込んでいるらしい」

自分の足で見て回って来た人物の言葉なだけにネルネの目が細まる。

「……そんな報告は上がってないわね?」

「ああ。たぶん身分を隠しているんだろうな」

「そうね。それなら納得できる」

身分を隠し移民として自治領にやって来る。

陳情と言うお題目で自治領主に面会を求め……いくらでも悪だくみをする方法はある。

「仕方ないわね。私の部下を大量に派遣して少し探りを入れようかしら」

もしかすれば大金星になりえる。

そう察したネルネは、自分の手駒を大量放出する方向に決めた。

「部下が居るのか?」

「ええ。非公式で、全て私の実家の所属にしてあるけど」

「それは凄い」

ネルネが中級貴族だと紹介を得ていたリディは素直に感心した。

部下を大量に雇える中級貴族はそう多く居ない。ハーミット家がその1家とは知らなかったのだ。

「ここも私の部下の待機所と言うか、養成所を兼ねたお店なのよ」

「そうなのか」

案内された時は裏口から入ったのでリディは自分が居る店が何なのかを知らない。

「ちなみにこの店は何を?」

「娼館」

「……はい?」

あっけらかんと答える相手に、リディは素で聞き返していた。

何故かレイザをグイっと抱き寄せネルネは笑う。

「娼館よ。私はこの店のオーナーなの」

「……」

「私は娼婦と言う間者を育てて、男相手に情報収集をしているのよ」

「そうか」

そういう人物も居るのだとリディは深く理解した。

「ただ私は男が大好きだから情報が集まらなくても良いのだけど」

「良いのか?」

「ええ。だってここは私が楽しむための私の遊び場ですもの……良ければ今日はこの後お店で働かない? 貴女のような力強い女性を好む人って一定数居るのよ」

「遠慮するよ」

「そう残念ね」

クスリと笑い抱きしめているメイドの頬を舐めるネルネは本当に楽しそうに見える。

改めてリディは思った。

目の前に居る存在が『一番の変態なのでは?』と。

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