軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグスタとはそういう人間なのだ

ユニバンス王国・王城内国王夫妻寝室

「らら~です~」

「上機嫌だな」

「はいです~」

クルクルと回る王妃は舞姫の真似をしているのだろう。

今日の舞台で舞姫が、全く軸を動かさずに高速スピンを披露した時は、何人の踊り子が絶望したことだろうか。

思う存分にその高すぎる技量を披露した舞姫の人気はうなぎ登りだ。

『あの日』と呼ばれる日に殺人を犯した咎人に関することは全て王家の管轄としてある。

おかげで鎮魂祭が終わってたら山のように舞姫の問い合わせが殺到した。『是非彼女と話がしたい』と。

本来なら舞姫の元に殺到する願いが、国王の元に来たのには理由がある。舞姫たちを含むドラグナイト家の関係者たちが会場から忽然と消えたのだ。

殺到する貴族たちを宥め唯一理由を知って良そうな王妃に問えば、彼女は笑顔で種明かしをした。その顛末を聞かされたシュニットは苦笑する他ない。

彼女たちが会場から無事に逃げ出せたのは、アルグスタが事前に準備していたからだ。脱出用に転移魔法を仕込んでいたのだと言う。

おかげでシュニットは、最高であった舞台の余韻を味わうことも出来ずに『対応』と言う現実に叩き落とされた。

夜も更けて来たことを理由に詰め寄る貴族たちには『舞姫が身を寄せているドラグナイト家当主に後日確認を取る。今日はもう帰宅せよ』と命じ追い払った。

今夜ぐらいはのんびりしようと仕事を減らしておいたが、代わりに明日からの仕事が増えた気がする。

「シュニット様~」

「何だ?」

疲労が滲む顔を向ければ、彼女は上機嫌で笑っていた。

「私も歌を習いたいです~」

踊りから歌へと変化した王妃に……そっと夫である彼は遠くに目を向ける。

「キャミリーよ」

「はいです~」

「お主には歌の才は無いと思うが?」

「夫でも許せない言葉があるです~!」

クルっと振り返り突進して来た相手をシュニットは確保し、膝の上に乗せる。

全力で首に抱き着いて来る王妃は、それを不満に対する抗議にしたらしい。

「プンプンです~」

「悪かった」

「です~」

ひと通り甘えて気分を入れ替えたキャミリーは、夫の膝に座り背中を預けて甘える。

「私もノイエお姉ちゃんのように歌いたいです~」

「そうか」

たぶんきっと不可能であろうが、シュニットは王妃の好きにさせることとした。

「それにしてもノイエお姉ちゃんは歌が上手でした。です~」

「そうだな」

上手と言うよりも他の追随を許さない歌声だった。

本当にあれが“あの”ノイエなのかと誰もが目を疑うほどにだ。

「歌姫の弟子と言う話は本当であったらしいな」

「です~」

クスクスと笑い王妃は小さく咳払いをし、増々背中を相手に預けた。

「陛下も大変な1日でしたね」

「そうだな。まあ手柄と言うか美味しい部分を掻っ攫った感じにはなったがな」

舞姫と歌姫の弟子。

その共演が無事に終わってから、シュニットは舞台に立った。

跪く2人に対し、と言うよりも国民に対し……シュニットは国王として宣言した。

『調査の結果……あの日の出来事は全て、異世界魔法を使用しこの国や周辺国に騒ぎを起こそうと企て実行した者たちの犯行である。

あの日暴れた者たちの多くは被害者である。

被害者をいつまでも罪人にしておくことはできない。よって本日この時をもってあの日罪を犯した者たちに対し恩赦と言う形でその罪を無くすこととする』と。

その宣言は舞姫の踊りもあって好意的に受け入れられた。

ただしやはり反発もある。親しい者を殺された人たちは、『加害者が被害者である』と言う言葉を受け入れられないのだ。

これからも混乱は生じるだろう。その混乱の窓口は全て弟に丸投げすることになっている。

「いい気味です。アルグスタ様は少し苦労を学ぶべきだと思います」

「お前がそれを言うのか?」

「はい。これでも私は結構苦労しているんですよ?」

「……そうか」

日々楽しんで生きているようにしか見えない王妃の言葉を、シュニットはどうにか飲み込んだ。

「何よりあの人は秘密を抱え過ぎです。それを問題視する貴族は増えるでしょう」

「と同時に言い寄る者も増えるだろうな」

事実クロストパージュ家を中心にした貴族にその動きが見える。

アルグスタと友誼を結び甘い蜜を啜る……王家に忠実である貴族家だが、それでもあの一族とて貴族だ。決して忠実な犬ではない。

「彼がそんな揉み手ですり寄り相手にどうにかされるとでも?」

「逆に無理難題を吹っ掛けて……交渉ごとに関してはアルグスタは昔から優れているからな」

本来の彼はルーセフルト家で育てられ、あの天才エルダーの下で多くを学んだ。

特に学んだのが交渉だったらしい。なぜ彼がその部分を学んだのかは謎のままだが。

「あれほどの力を持つ者が交渉上手だと厄介だぞ?」

「ご心配いりません」

「その自信は何か?」

「はい」

柔らかく笑い王妃は自分の気持ちを正直に口にする。

「アルグスタ様は決して家族を裏切りません。たぶんそれは彼の本質なのだと思います。だから私たちが彼に対し敵対的な行為を取らなければ彼はいつまでも味方です」

そう断言する妻にシュニットは大きく息を吐いた。

「人を信じないお前がそれを言うのか?」

「はい。人を信じていないから人を良く見ているのです。その観察眼がそう結論を出しました」

「ならば王妃はドラグナイト卿を信じると?」

「はい。彼は信用できる人材ですので」

クスクスと笑い王妃は夫の顔を盗み見た。

「問題は彼がどうもあの者たちに振り回されているような気がしますが」

「御せていないと見えるか?」

「はい。じゃじゃ馬に振り回されているようにしか見えません」

「そうか」

シュニットとしては、弟に対して『頑張れ』としか言いようがない。

この国の女はどうも夫である者を振り回す傾向が強くなるように見える。

それで平和な時が続くのであれば悪くはないとシュニットは思っているが。

「それはアルグスタに頑張ってもらうとしよう」

「そうですね」

笑ってキャミリーは小さく咳払いをした。

「大好きなおにーちゃんです~。これからも助けてあげるです~」

「……本音は?」

「おにーちゃんに何かあったら美味しいケーキが食べられなくなるです~」

「……」

「シュニット様? ぐっ」

首の後ろを掴まれ猫持ちされたキャミリーはそのままベッドに運ばれた。

「キャミリーよ」

「何です~?」

「最近お前がケーキを食べ過ぎていると報告が?」

「何も聞こえないです~」

枕を装備し頭を隠したキャミリーはそう言って現実逃避をした。

王城内・アルグスタ執務室

「るる~」

書類の束を抱きしめてクレアはクルクルと回る。

一昨日の夜に見た舞台は本当に素晴らしかった。

上司であるアルグスタを尋ねに来ていたあの女性が、本当に本物の舞姫だった。

二度とお目にかかれないような素晴らしい時間を過ごせた。それも夫と2人でだ。

おかげで昨日はたっぷりと自宅で休むことになった。

お互い興奮していたのは誤魔化しようのない事実だ。きっと昨日は仕事を休んだ夫婦や恋人たちが多く居たことだろう。

「んふ~」

上機嫌でクルっとクレアは回る。

若干腰に違和感が残っているけれど仕方ない。

お城の中ではトントンと腰を叩く女性は多かった。

「ドーンです~」

今日も元気に壁の隠し戸が開かれ、王妃様が姿を現す。

キョロキョロと辺りを見渡してから首を傾げた。

「あれ~です~? おにーちゃんは~です~?」

「昨日は公休で、今日は来てません」

「はい?」

もう一度首を傾げてキャミリーは彼の部下を見る。

上司の自由に慣れ切っているのか、クレアは何処か半笑いで言葉を続けた。

「今朝方ミネルバさんが手紙だけを届けてくれました。読みますか?」

「読むです~」

机の上に置かれていた手紙を手にしてクレアはそれを王妃に手渡す。

受け取ったキャミリーは便せんを広げて中身を読んだ。

『僕にだって限界はある』

ただそれだけが走り書きされていた。

「意味が分からないです~」

「アルグスタ様ですから」

「納得です~」

仕方がない。アルグスタとはそういう人間なのだ。

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