軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大声でこの馬鹿が!

王都郊外・ドラグナイト邸

ノイエに次いでホリーも出かけた。

護衛と言うか案内をミネルバさんに頼んだのだけど、ポーラが朝から行方不明なので彼女の情緒が不安定なのです。

何気にポーラは『先輩』とか呼んでミネルバさんを慕っているのに、そんな先輩を弄んでいやがる。

正しいメイド遊びとも言えなくない高等技術を……なんて羨ましい。

オロオロしながらソファーをひっくり返してポーラを探す彼女に『ちょっとグローディア絡みで秘密の仕事を頼んだからそのうち戻るはずだよ。だから安心して仕事してて』と説明したら、納得して仕事を始めた。

仕事と言ってもホリーの案内だ。ホリーは今回、舞台の袖で演出の指揮を執る。

問題はチビ姫には知らせていないが、陛下宛の手紙をしたためているのでどうにかなるだろう。

「で、レニーラはどうした?」

朝食を終え、セシリーンの手を取り応接室へと移動した。

彼女をソファーに座らせ、縋りついて来る手を回避して向かいの席に座る。

我が家のメイドさんたちの前でとはいえイチャイチャするは問題ありです。だから泣きそうな顔をしないでください。

「レニーラは基本真面目だから、まだ準備しているのだと思います」

「……あれが真面目?」

「はい。踊りに関しては」

「納得」

悪友たるレニーラさんは、踊りに関しては真面目だからね。踊りだけは。うん。

「ん~」

「どうかしましたか?」

「何だろう。僕は今回観客なんだけど、舞台裏と言うか色々を知っているので変に緊張しちゃうのです」

「あら? 旦那様が?」

「セシリーンは緊張しないの?」

歌姫と呼ばれて舞台に上がり続けて来たから、やはりセシリーンの肝は太いらしい。

「します」

するんか~い!

「今回は自分が歌うのではなくノイエが歌います。だから余計に心臓がバクバクとして……確認しますか?」

「しません」

「……」

悲しそうな顔してこっちを見ないの。

「とりあえず僕らは夕方まで待機かな?」

「あら旦那様? 本日はお城に向かわないのですか?」

フラグを立てないでよ。凄く怖いから。

「お昼過ぎたらお城へ向かいます」

「はい」

王都内・鎮魂祭会場

「おにーちゃんのサインです~」

「そう言ったでしょ?」

「最初に説明していないおにーちゃんが悪いのです~」

朝から会場準備を進めていたキャミリーは、ドラグナイト家の馬車に乗ってやって来たドレス姿の女性と話していた。

彼女の名はホリーと言う。『死の指し手』と呼ばれた有名な殺人鬼だ。

そんな人物が白昼の元、出歩いていられるには訳がある。

彼女の犯罪行為を知る者が少ないからだ。

『あの日』と呼ばれる日の前に行った犯罪の全ては完全犯罪であり、目撃者など1人も居ない。そして当日は出会う者たちを全て斬り殺した。彼女が罪に問われたのは死体の山の中で独り佇んでいたからだ。

本来ならば今すぐにでも牢獄に繋いでおくべき人物なのだ。

「それでおねーちゃんは何をするです~?」

「……今日の舞台の進行よ。それ以外には口出ししないから後はそっちで勝手にして」

「分かったです~」

王妃との交渉を無事に終えたホリーは、自分の胸に顔を埋めて抱き着いている存在を引きか剥がそうと手を回す。

相手が王妃であろうが容赦などしない。魔法を使わないだけ感謝して欲しいくらいだ。

「ウチの王妃様が失礼なことを」

音もたてずに姿を現した長身のメイドが、チビ姫の後頭部をワシッと掴んで強引に引き剝がした。

「怖いもの知らずで、自分の胸が薄い割には大きな胸を見ると抱き着いて甘える癖がありまして」

「……そうなのね」

視線で人が殺せそうな雰囲気を漂わせながら、ホリーは自分の胸を腕で覆い隠しチビ姫からメイドへと目を移した。

感じが似ていた。気のせいかと思ったが、魔眼の中で時折姿を見せる刻印の魔女が操っている人形たちにその雰囲気が似ているのだ。

《内も外も悪さばかりする魔女ね。本当に》

相手は三大魔女と呼ばれるほどの実力の持ち主だ。

好き勝手していてもどうにかなるのだろう。

「さあ準備をするわよ。手を貸しなさい」

「はい」

自分に付けられた『ミネルバ』なるメイドに指示を出しながらホリーは準備を始めた。

ただ彼女は知らない。

この日会場準備で駆り出されていた若い騎士や貴族の子弟たちが、彼女の姿を見て顔を赤くしては興奮し続けたという。

奇麗な顔に特徴のある胸で人気を集め、後日『舞姫派』と呼ばれるようになる一団と壮絶な勢力争いをすることとなった。

王都郊外・東部上空

「ル~。ルル~。ラ~。ララ~」

歌いながらノイエは空を飛ぶドラゴンを後ろ蹴りで首を狩る。落下寸前で胴体を掴んで、頭を失った部分を掴んで力任せに二つに裂く。

後は置き場と呼ばれる場所に放り投げればノルマが1つ達成する。

本当は血液も必要らしいので、ノイエは飛ぶものは二つに裂くことにしている。

地を走るのは飛ぶのよりも皮膚が薄いから頑張って鉈を振るえば斬ることが出来るからだ。

「ア~」

軽く声を張って、上空から前転気味に体を回してドラゴンの頭に踵を落とす。

地面に頭を激しくぶつけてドラゴンが絶命する。尻尾を掴んでポイっと……遠い場所に在る置き場へ目算で投げ飛ばす。

「うん。楽しい」

歌いながらのドラゴン退治はちょっと楽しいとノイエは学んだ。

良く分からないが体が動く。いつもより滑らかに動く。歌の調子が良いと特に動く。

《ノイエ》

「なに? お姉ちゃん?」

地面に降り立ったノイエの耳に屋敷に居る姉の声が届いた。

《もう少しお腹を意識して》

「はい」

《ならもう一回》

「はい」

命じられれば実行する。特に姉の命令は絶対だ。

ノイエは地を蹴り宙に舞うと、姉の言葉に従いお腹を意識して声を出す。

さっきよりも調子良く体が動いた。

「お姉ちゃんは凄い」

やはり姉の言葉は凄いのだと再確認し、ノイエは次なる獲物に拳を放った。

王都郊外・ドラグナイト邸

「もうノイエったら~。本当に可愛いわ~」

「……」

不意に立ち上がって窓際に移動したセシリーンが声を上げた。

貴女の目は使い物にならないのですよね? 耳ですか? その耳でノイエを捕らえているのですか?

本当に規格外だ。実はテレパシー的な物で会話してませんか?

ノイエのアホ毛が何かしらのアンテナだと言われても僕は納得するよ。

「良い声よノイエ~。出来あがってるわ~」

クネクネと腰を振りだした。らしくない動きをするな。

何ですかその腰は? 僕を誘っているのですか? だが甘い! 僕がそんな腰ぐらいで釣られると思っているのか?

彼女をソファーに案内するために立ち上がり、窓際に立つセシリーンの手を掴む。

「目が見えないわりには活動的なんだから」

「あら? 盲目だって私は1人で歩けるのですよ?」

「でも段差で躓いたりしたら怖いから止めてよね」

「ならちゃんと手を掴んでてください」

彼女は手を掴めと言ったはずだ。それなのに腕に抱き着いて来て……全力で甘えて来る。

もう色々とダメな気がして来た。これはそろそろカミングアウトして、屋敷内を治外法権にするべきか? 敵はミネルバさんだけだ。どうするか?

「セシリーン。そんなに抱き着かれたら歩きにくい」

「あら? ならこれで」

変わらない。何が変化したのか教えて欲しい。

「あ~! こんの歌姫~! 私の旦那に何しているのかを述べよ!」

「あら? 愛しい人に抱き着いて甘えているだけですが?」

「離れろ~!」

突進からのジャンピングにまで移行した悪友を、僕は呼び出したハリセンで迎撃していた。

大声でこの馬鹿が!

さあ……もうメイドさんたちを集めてカミングアウトしよう。

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