軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ですが面白いですよ?

王城内・国王私室

「本当にあの馬鹿は……」

珍しく“弟”を罵る夫に対し、妻である彼女はクスクスと笑う。

普段の自分の立ち振る舞いから会議室に行くのは似つかわしく無いと理解し、こうして彼の部屋で大人しく待っていた。

どうせ今日も楽しませてくれる“義弟”が張り切って貴族たちを不幸のどん底に叩き落とすと思っていたが……これは想定の範囲外だった。より一層面白いことをしてくれる。流石だ。

「笑っていられるお前が羨ましいぞ?」

「そうですか? 面白いと思いますが」

地である性格を封印し、彼女……キャミリーは王妃に相応しい姿を振る舞う。

「ですが良い案だと私は思います」

「……その理由は?」

「はい。ある意味で主犯たるグローディア様だけをお許しになっている現状は『王家の血を引いているから』と国民というより遺族たちの反感を買っています。ですから全てを許しその恨みを拡散するのです」

「だがそれでは遺族たちは主犯を狙うだろう?」

問いにキャミリーは頭を左右に振る。

「遺族の恨みの矛先は頂点には向きません。それをすれば反逆罪となりますから。ですが直接手を下した者たちに復讐をしても罪は『殺人』のみです」

「実行犯だけが裁かれると言う訳か」

努めて冷静に冷徹に判断を下す自信の伴侶に、国王たるシュニットは背筋に冷たい汗を浮かべた。

その殺人が請負でなければだが、殺人罪であれば実行犯の身が裁かれる。だが王家の血を引く者への殺人行為は『反逆罪』となる。この罪は重い。

実行犯の親兄弟と言った一族にまで罪が及ぶ。過去には親戚にまで罪が及んだことがある。

「それにシュニット様」

「何だ?」

「この国でノイエ様を殺めることが出来る人は居るのですか?」

「……」

問われてシュニットは答えに詰まる。

可能性があるのは彼女の夫であるアルグスタぐらいだろう。ただそれらは彼女が呼び出せる存在を知る前の話だ。正直『不可能』だとシュニットは判断している。

「だがそうなると恩赦を出せば遺族が騒ぐこととなるだろう?」

家族を殺めた者が生きているという事実に心を穏やかにさせていられる者がどれほど居るか?

先ほどまで執務室にやって来ていた貴族たちの中にも『復讐の許可を』と申し出る人物が居た。

南部で暴れた“パーパシ”なる者を恨む貴族は多い。

ノイエと貴族の殺し合いを想像するシュニットに対し、キャミリーは愛らしい笑みを浮かべたままだ。

今の問いに対する返事はもう準備が済んでいる。

「そこは無理を言い出した人物に責任を負わせれば良いかと」

「なに?」

「だからアルグスタ様に責任を負わせれば良いのです」

クスリと笑い王妃は椅子から立ち上がった。

「陛下がお許し下さるのなら私が全て処理しますが?」

「良いのか? お前の嫌いな貴族たちの前に出ることとなるが?」

「構いません」

椅子に腰かけている夫の首に腕を回してキャミリーは自分の唇を相手の耳に寄せた。

「たまには私も特等席で見たいのです。アルグスタ様の駄々を」

「あれを駄々と言うか?」

「はい」

愛らしい笑みを浮かべキャミリーは夫から離れる。

いつか見た舞姫のような軽い足並みでクルクルと回り、軽くスカートの裾を手に恭しく一礼した。

「是非とも休憩後の話し合いに私の参加をお許しくださいませ」

「分かった。鎮魂祭の責任者として参加し、」

クスリとシュニットは妻に対して笑みを見せた。

「負け知らずで調子に乗っているアルグスタを懲らしめてやれ」

「畏まりました陛下」

頷いたまま返事をし、王妃は軽く咳払いし顔を上げた。

「おもいっきり楽しむです~」

屈託のない笑みを浮かべ彼女はそう宣言した。

王城内・近衛団長執務室

「あの日の資料は全てアルグの馬鹿が抱えて逃げているんだよな?」

「はい。前王の許可を得て全て手にしています」

「あの親父は……」

この展開を読んでいたのか、それとも別の意志か……一番詳しい資料が手元にない都合、ハーフレンは嘆息しながら片手で顔を覆う。

「アルグの所から持ち出せないか?」

「無理です。どうやらお屋敷に全て運び込んでいるようで」

「あの屋敷は……護衛はミネルバか」

前メイド長の秘蔵の弟子と名高いメイドの攻撃力の高さは有名だ。

ハーフレンは自分の部下であれに匹敵する存在をリストアップするが、筆頭である暗殺者は現在帝国に向かい移動中だ。

「誰かアルグの屋敷から盗んでこれないか?」

「正直に言って無理でしょう」

「……少しは言葉を選べ」

「無理ですね」

あっさりと告げて来る長身のメイドにハーフレンは再び息を吐く。

普段王妃キャミリーの元に居るメイドは、スタスタと歩き紅茶の準備を進める。

「レイザ」

「何でしょうか?」

グルっと首を回し背中に顔を向けたメイドに執務室で警護に当たる騎士たちが目を剥く。

見慣れているメイドたちは気にもしないが、流石にハーフレンは咳払いをして軟体を通り越しているメイドに見えるように自分の首を軽く手刀で叩いた。

「その動きに気を付けろと言ったはずだぞ」

「楽なので」

「この馬鹿者は……」

頭の位置を正し、レイザと呼ばれたメイドはゆっくりと振り返る。

「それで?」

「そろそろ近衛に戻るか?」

「……ご遠慮いたします」

「おい」

思わず声を荒げる“主人”にメイドは、眉1つ動かさない。

「本音を言いますと、あの王妃様を日々観察するのは実に楽しくて……そのささやかな楽しみを奪わないで欲しいのですが?」

「王妃を娯楽の道具にするな」

「ですが面白いですよ?」

紅茶を淹れて戻って来た彼女からカップを受け取り、あまりの熱さにハーフレンは静かに机の上に置いた。

「もう少し人間らしく振る舞え」

「何かご不満でも?」

「この熱さを素手で持てる人間は居ない」

「……そうでしたね」

納得してメイドは待機位置へと戻る。

深い息を吐いて……ハーフレンは視線をメイドへと向けた。

「お前ならミネルバに勝てるか?」

「はい。城内であれば勝てるかと。ただ王都内では互角でしょうか? 王都を出れば勝てません」

他者が聞けば不可思議な言葉であるが、理由を知るハーフレンは納得した。

「厄介だな。お前のそれは」

「仕方ありません」

「まあ良い」

不可能なら後手を踏むだけのことだ。

「アルグの馬鹿を狙う貴族がまた出て来るのは間違いない。仕事続きで全員苦しいだろうが、もう少し頑張ってくれ。そうすればあの馬鹿は帝国に行くからな」

自嘲気味に告げるハーフレンを尻目に長身のメイドは顔を動かし歩き出した。

「チビ姫が動いたか?」

「はい。ですので失礼します」

現王妃の護衛である長身のメイドは、恭しく一礼すると近衛団長の執務室を後にした。

王城内・大会議室

「さあおにーちゃん! 責任者な私を忘れて勝手な話を進めていることを後悔するです~!」

「ケーキは無いぞ? ノイエが全部食べた」

「酷いです~! おにーちゃんの血の色は何色です~!」

貴族の血の色は青いとか日本に居た頃に聞いたな。意味は知らないけど。

プンスカ怒る馬鹿姫から視線を逸らしてお兄様を見る。

『何で居るの?』と非難がましく眺めると、陛下は軽く笑ってみせた。

「キャミリーは今回の鎮魂祭の責任者だ。その場で行われるとを知る権利があるだろう?」

そう言われると納得か?

まあチビ姫が参加したぐらいで僕の圧勝は揺るがないけどね!

そう思った時もありました。

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