作品タイトル不明
殺したらまた褒めてくれる?
王城内・大会議室
「アルグスタよ」
「何でしょう陛下?」
「それらの名前を出した意図が分からない。今は何故セシリーンが舞台で歌わないのかを話し合っているのだ。その理由のみを告げよ」
余計なことを言うなというお叱りを受けてしまった。
でもごめんね~。今日の僕は喧嘩しに来ました。喧嘩と言うと語弊があるけどさ。
「陛下。実はこれは歌姫が歌えない理由の一端なのです」
「……」
睨むな睨むなお兄さん。一国の王でしょう? あのグローディアですら僕の意図を聞いたら大暴れして喧嘩になったけどね。あの馬鹿は次に会った時を命日にしてやる。
「さてと。どうしてセシリーンが歌えないのかは簡単です。彼女が罪の意識に苛まれているからです。自分が愛しその人生を賭して歌と向き合っていた彼女がその歌で人を殺めた。結果として彼女は歌えなくなりました」
事実を語るが馬鹿な貴族たちは納得しない。
人殺しを何とも思っていないのか……まあそんな馬鹿たちを黙らせる必要がある。
「これは前にも語りましたが『あの日』とは、とある“神”だか“魔竜”だかを信仰する一団が用いた異世界の力が発端となり起きた出来事です。
その力に触発されグローディアがこの地で異世界召喚を実行し、余波で一定の年齢の者たちが暴れたのです。いわば彼らは被害者です。
ただ実行犯のグローディアは必要ならば、もう一度処刑台に上げて処刑しても良いと思います。残念なことにあれは一度死んだということで全ての罪が帳消しになって王族に復帰してます。本当に残念なことですが」
僕が悲しんでいると会議室の空気が凍った。
前回無双を見せたグローディアの恐怖を皆様は覚えているらしい。が、僕には関係ない。
あの馬鹿は今度会ったら鼻の穴に溢れんばかりにピーナッツでも詰め込んでやる。
「ちょっと話が脱線しましたが、セシリーンたちはあの馬鹿と違って本当に被害者なんです。そんな被害者である彼女たちが罪の意識に苛まれて生きていることを僕は許せません」
本当にふざけるなと言いたい。
「そこで僕は信の置ける人物と話し合ってあることを決めました」
「それは何だ?」
陛下の言葉に僕は笑顔を見せた。
『術式の魔女アイルローゼ』
『鉄拳のカミュー』
『死の指し手ホリー』
『血みどろファシー』
『吸血のリグ』
『首切りレニーラ』
『封殺のシュシュ』
『破壊魔ジャルス』
『崩壊のユーリカ』
『絞殺魔ミャン』
『童貞殺しのパーパシ』
『魔剣使いスハ』
『墓漁りのティナー』
『遠殺のローロム』
『穴穿ちのニキーナ』
『紅手のアイラーン』
『氷柱のチミリ』
『毒の息吹ファナッテ』
『浄化のミジュリ』
『爆殺のシューグリット』
『灼熱のロッジ』
『剛腕のラジー』
等など……僕はその名を噛まずに告げた。
頑張った。もう一度は絶対に嫌だ。
内心で満足してたら、お兄様と馬鹿兄貴が改めて頭を抱えていた。理由は分からん。
「今告げた人物の内何人かは、ノイエを触媒としてこの場所に呼ぶことのできる者たちです。その者たちもまた『あの日』と呼ばれる事件の被害者たちです」
「「……」」
詳しく知らない者たちがまず僕を見る。次いでノイエに視線を向ける。
クルクルとアホ毛を回しているノイエは何も理解していない。ある意味平和だ。
「ちなみに何故ノイエが彼や彼女たちを呼び出せるのかは良く分かっていません。
が、やって来る者たちはノイエを実の妹のように想い深く愛しています。それは夫である僕ですら身の危険を感じるほどの深い愛情でして……本当に危ないんですよね」
笑顔をキープ。だってこれは楽しくて愉快な 脅迫(せっとく) なのだから。
「アイルローゼは不機嫌だと直ぐに終末魔法とか呼ばれている大魔法を撃とうとするし、ホリーは生粋の殺人鬼なので自然と人を殺そうとします。ファシーは詳しい説明は要らないでしょうし、他にも場所場所では名の知れた者たちも居るはずです」
王都で有名なのはレニーラかな。舞姫というネームバリューが尾を引いた。
地方だとパーパシとかニキーナ、ファナッテ辺りかな? シュシュとかは被害の割には意外と知名度が低い。
と言うかパーパシの2つ名って酷すぎない? 童貞殺しって余程遺族の怒りを買うことをしたのかな?
「その者たちをノイエは自分の意志とは関係なく呼び出すことが出来ます。僕はその内の何人かと交渉をして協力関係を結んでいます。あくまで対等な関係ですけどね」
そろそろ本題と行こうかな?
「で、今日は折角このような場所を得ましたので……皆様方にお願いしたいことがあります」
はい。笑顔笑顔。
「あの日に罪を犯した者たちに対して、今回の鎮魂祭で恩赦を与え欲しいのです。
彼らはあくまで悪しき力によって罪を犯した悲しい存在です。処刑台に登り罪も償ったはずです。ですから明日の鎮魂祭であの日の出来事を明るみにし、恩赦を与えて欲しいのです」
僕の提案に名ばかりの無能な貴族たちがざわざわと騒ぎ出す。
一度僕は椅子に腰かけて隣に座るノイエに視線を向けた。
詳しいことを知らなかったセシリーンは驚いて今にも泣きだしそうな顔をしている。
ノイエは良く分からずにそんな彼女を抱きしめて……僕を睨むんじゃありません。セシリーンをイジメているわけじゃないのです。
「ノイエ?」
「イジメちゃダメ」
「違うからね?」
セシリーンを離してノイエが僕の方へと体を寄せて来る。
「可愛い猫に会いたいな~」
「ん?」
「おまじない」
ノイエの耳元で囁いてしばらく待つ。
派閥ごとに馬鹿者たちが話し合いをし……まあ彼らの話が纏まることは無いだろう。
要注意は東の雄クロストパージュ家かな? 王家派閥の彼らは王家の害になる提案は飲めない。
で、その王家の中心人物であるお兄様は頭を抱えつつ部下たちに指示を出している。ちなみに馬鹿兄貴も頭を抱えながら部下に指示を出している。
何故2人揃って部下に指示を出す?
「ん」
「はい?」
ノイエが変な声を発したから視線を向けたら、彼女の髪が奇麗な栗色になっていた。
「いやん」
慌てて両手で顔を隠すとノイエがセシリーンに抱き着く。
ウチの可愛い猫は人前に出るのが恥ずかしいらしい。
突如色を変えたノイエにまた貴族たちがざわつき出した。
「突然どうしたの? ファシー?」
「「……」」
『さあ聞くが良い』とばかりに声を張り上げ、僕がノイエに声をかける。
ゆっくりとセシリーンから離れたノイエが、辺りを伺いながら僕に抱き着く。
「アルグスタよ」
「はい?」
頭を抱え続けている陛下が、心底疲れ果てた様子で僕に声をかけて来た。
「ノイエの髪色が変わったようだが?」
「はい。何故かファシーがノイエの体を使っているようです」
説明調で応えながら、ノイエの姿をしたファシーが逃げ出さないように抱きしめる。
「憑依と言うのでしょうか? この様にノイエの体に宿って姿を現すこともあります。もちろん実体で姿を現すこともあります。前回の彼女の活躍は知れ渡っているかと?」
「……にゃ~」
軽く脇をくすぐったら、ファシーが身をくねらして甘い声を発した。
猫っぽい可愛らしいノイエの声なのに、何故か馬鹿な貴族たち数人が悲鳴を上げて机の下に隠れる。
おうおう。その行動の意味を僕が納得できる言語で語れ。
納得いかなければ今日がお前の命日になると思え。分かっているんだろうな?
「にゃん」
ただくすぐった場所が悪かったのか、ファシーが抱き着いて来て甘えて来る。
止めるなファシー。僕は君の優しさを理解していない馬鹿に天誅を与えればならん。
「なぁ~ん」
何故か少し大きな声を発してファシーが僕を見る。そして馬鹿な貴族たちを見る。
「くひひ……。アルグスタ様? 誰を殺せば良いの? ねえ? 誰を殺せば良いの? そうしたら褒めてくれる? ねえ? 殺したらまた褒めてくれる?」
笑いだしたノイエに大半の貴族が机の下に避難する。
というかファシーさん。もう少し言葉を選ぼうか? 今の言葉だと僕が君に暗殺させているように聞こえるからね?
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