軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いい歳ですしね

ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室

「あと6日です~。その日に行うと決まったです~」

「お~。勝手にやってくれ」

「何を言ってるです~! 昨日ズル休みしたおにーちゃんが~です~!」

本日は少し遅れて登城したら、僕の執務室で待ち構えていたチビ姫が突進して来た。

腕を伸ばして相手の頭を掴んでつっかえ棒とする。

ブンブンと腕を回して……疲れ果てた様子のチビ姫が動きを止めた。

「今日はこれで許してあげるです~」

「だが暴力を振るわれた僕が許さん!」

「不条理です~!」

捕まえたチビ姫を脇に抱えて躾をする。

ペシペシと尻らしい部分を叩いていたら、ポーラたちがようやくやって来た。

「なふ~。誰です~?」

躾をされていても質問する君も大概だな?

最後に大きな音が出るように叩いたら、ぐったりしたチビ姫を……ソファーに投げ捨てる。

「ぐえぇっ」

「こらこらチビ姫よ。王妃たる者がそんな声を出すんじゃありません。恥ずかしい」

これを叔母様に見られようものなら僕の躾以上の罰を受けるぞ?

メイドさんたちはチビ姫を見たくないのか、全員が部屋の入り口に目を向けている。

ポーラの手を借りてこの部屋を訪れたのは、目を閉じた柔らかな感じの女性だ。特徴は長い銀髪かもしれない。この国で銀髪って珍しいんだよね。一部の地方で見られるらしいが。

「あの~アルグスタ様?」

「本日の勇者はクレアか」

「何ですかそれは!」

髪を纏めて頭の上に鳥の巣のような髪型を作っているおチビが吠えた。

「その御方はもしかして?」

「世間では歌姫と呼ばれている人だね。何かグローディアと喧嘩したらしくて僕の屋敷に家出して来ました」

今回の言い訳はそう言うことにした。

「あの馬鹿な義姉は敵を作りすぎるのだよ」

「……そうですね」

何だね君のその同種の何かを見るような蔑んだ眼は? 今日のケーキを無しにしてやろうか?

さては昨日僕が休んだからケーキが食べられなかった恨みか? 心も胸も小さいヤツだな。

セシリーンを案内するポーラはソファーに邪魔な存在が居るのに気づいて引っ張って床に落とす。一瞬待機しているメイドさんたちがギョッとしたが、全員が視線を逸らして見なかったことにしたらしい。

恭しくポーラに勧められてセシリーンがソファーに座る。

何故か妹様はセシリーンの横に座って周りをけん制しているように見えるのは何故だろう?

「ポーラ」

「はい。にいさま」

僕が呼ぶと彼女は嬉しそうにやって来る。

ウリウリと頭を撫でてから、ミネルバさんから飲み物を尋ねられている歌姫さんを一緒に見る。

「何でポーラは歌姫さんに懐いているの?」

「はい? ふぁしーねえさまがいってました。うたひめさまはたいせつなひとだと」

「納得」

ファシーに懐いているポーラとすれば、そのファシーが懐いているセシリーンは彼女の母親のような存在にすら見えるのかもしれない。

ファシーとセシリーンはほぼ近しい年齢らしいけれど。気にしたら負けだ。

「ならセシリーンに付いててあげてね」

「はい」

弾んだ声で返事をしてポーラが王妃らしい存在を蹴飛ばしてソファーへと戻った。

「はっ! 何故かお尻を蹴り飛ばされた夢を見たです~」

それは夢ではない。事実だ。だが夢だ。

起き上がり床の上に座っているチビ姫が、ソファーに座る歌姫を見上げた。

「誰です~?」

「初めまして。私の名前はセシリーンと申します」

「……おにーちゃんの知り合いでは珍しく礼儀正しいです~!」

驚くのはそこか? それはそれで失礼だろう?

ファシーは猫か。レニーラは緊張し~か。あら不思議。セシリーンが唯一真面目だよ。

「セシリーンさんです~?」

「はい」

「似た名前を知っているです~」

「きっと同じ人物だと」

「同じです~?」

「はい」

「ふ~ん。です~」

何故かチビ姫がこっちを見る。僕の背後に誰か居たか?

振り返ったら窓があって、遠くでノイエの姿が見えた。つまりノイエに気づいただけか?

「おにーちゃん。またです~?」

どうやらこのチビ姫は僕を見ていたらしい。

「何がと問いたい」

立ち上がったチビ姫が腰に手を当てて怒った感じを見せた。

「あと6日です。もう変更は出来ないです~」

「案ずるな。変更など当日まで発生する物だ!」

「無理です~」

キャンキャン騒ぐなこの子犬。企画など予定通りに進む方が怖いのだ。

「だが歌姫に関する心配は無用だ。彼女は今回歌わない」

「……です~?」

首を傾げ、チビ姫が振り返って歌姫を見る。

「事実です」

「どうしてです~?」

事実を認める歌姫に、どうして君が粘るのか?

「私は今、歌うことが出来ないのです」

「です~?」

こっちを見るな。事実だ。

「勿体ないです~」

と、何故かチビ姫が走り出し隠し通路へ消えた。

あの馬鹿を野放しにするのは危険か? ただあの隠し通路は意外と狭くて子供ぐらいの背丈じゃないと走り回れない。この部屋だとポーラとクレアぐらいか。

「クレア! チビ姫を止めて来い!」

「……無理です」

何故だ! お前は我が家の可愛い妹様にあんな薄暗い場所を走れというのか?

「行って来い。上司命令です」

「……無理です」

プルプルと震えてクレアが今にも泣きだしそうに。何故?

「暗い場所はダメなんです」

「使えね~」

「どうしてよ!」

怒り狂ったクレアが吠えた。

「イネルは可愛いって言ってくれるもん! ギュッと抱きしめて……はぅっ!」

微笑ましい夫婦生活を暴露したクレアが机の下へと消えていく。

コイツは本当にギャグに生きているな。素晴らしい……尊敬するよ。

「にいさま? わたしがいきましょうか?」

「その状態で?」

「……」

ぬいぐるみ感覚でセシリーンに抱かれているポーラがどう追いかけるのかを知りたい。

メイドさんたちの暖かな視線を受けている歌姫さんは、その胸にポーラを抱いて大変穏やかだ。見た限り母親のようにしか見えない。

「最近凄く子供が欲しくなる時がありまして」

僕の視線に気づいたのか、セシリーンが微笑んでそう告げる。

「いい歳ですしね」

「アルグスタ様?」

あら不思議。セシリーンが笑っているのに恐怖しか感じないぞ?

とても自然な感じで地雷を踏みぬいてしまった。

でも僕の言葉は間違っていない。セシリーンたちの実年齢は、

「アルグスタ様?」

「何でもないです」

もっと恐ろしい気配を発するセシリーンに、ポーラが無言で僕に助けを求めている。

様子からして『もう何も考えないで!』とその目が雄弁に語っていた。

女性の年齢は考えてもいけないんだな。忘れよう。

「こうしていると気持ちが落ち着くんです」

ポーラを胸に抱いて落ち着いた様子を見せるセシリーンに……頑張れポーラ。僕の安全の為に。

まあ今日も仕事をしてのんびりと過ごそうかな。ポーラを預けておけば歌姫さんは静かだし、

「おいアルグ?」

「断るから帰れ!」

「やるのかこの馬鹿弟よ?」

僕の本音にバキバキと指を鳴らす馬鹿兄貴に、両手を上げて降参する。

「で、何よ?」

「あん? 兄貴が呼んでるんだよ。俺に使いっ走りをさせるな」

それは知らん。頼んだお兄様に苦情を言え。

喧嘩腰でこっちを見ている馬鹿兄貴の視線がソファーに座るセシリーンを見た。

「お前がこう立て続けに客人を呼ぶのが悪いんだと思うがな?」

否定はできないが、僕が呼んでいるわけでは無いと言いたい。

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