軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歌姫が歌うとでも?

「にゃん?」

日々の……と言ってもノイエの目から見える様子から判断し、活動しているので正確な時間は良く分からない。

けれど猫の姿をしたファシーは気にせず自分の体内時計を信じてその場に通っていた。

ジッと通路の角から様子を伺う。物音がした気がした。

「なぁ~」

物音の正体に気づいてファシーは駆け寄る。

こんもりとした山の上にそれが存在していた。半分ほど……という言い方であっているのか分からないが、それはぎこちない動きで片方しか存在していない目を動かした。

「アイル、ローゼ?」

口は無いから返事は無い。耳は片方だけ存在している。という顔半分ぐらいが存在していた。

「教え、て」

切々とファシーは自分の希望を一方的に伝える。

ただし返事は無い。口が無いから仕方ない。

「もう、少し……かな?」

語り様子を見てファシーはそう判断した。

だから普段通り血肉を集めて小山を作る。最初の頃とは違いだいぶ人間らしい部品が増えて来た。

「にゃ?」

せっせと手を動かしていたファシーは不意に気づいた。

自分の見間違いかと確認がてら手を動かす。やはり間違いではない。

今握っている何かしらの何かの部品が床に擦れると、半分しかない魔女の顔が苦痛に歪む。

「にゃん」

つい声を出し手を動かす。まただ。また歪んだ。

「なぁん」

もう一度確認して……確定した。やはりだ。

爛々と目を輝かせ猫は弱った獲物で遊ぶかのように手を動かす。

その度に半分しかない奇麗な魔女の顔が反応する。その顔を見ているとつい楽しくなる。

「ふふふ……あはは……」

堪えきれずに声を出し、猫は気が済むまで両手を動かし続けた。

仕方ない。猫とはそういう生き物だから。

遠くから聞こえて来る声にセシリーンは見えない目を遠くへ向けた。

今日も魔女の所へ行ったはずのファシーが何故か楽しそうに笑っている。きっと楽しくなる何かがあったのだろう。

あの場所には話を聞く限り液体となったアイルローゼが転がっているはずだが。

ただ見えない視線を動かしても、耳を動かしても……正直こっちも猫が居る方と変わらない。

「みぎゃ~! 何か割れる! 割れちゃうから!」

「大丈夫よレニーラ。今の私はとっても穏やかだから」

「意味が分から……ぎょ~!」

ギリギリとレニーラの頭蓋から悲鳴が上がる。

ただヒビが入る手前で調整しているのは流石だ。

そっと息を吐いて……セシリーンは覚悟を決めた。耳を向ける覚悟をだ。

外の時刻で言うところの深夜間近に、刻印の魔女に囚われていたホリーが戻って来た。

ボロボロで疲れ果てた様子の彼女は……戻るなりに笑いだし外に出ようとした。

だが実行されない。何故ならばノイエの視界にそれが映っていたからだ。

『お仕置きです。これはお仕置きです!』と最初は威勢の良かった彼だったが、途中から『今日はこれぐらいで勘弁してやろう。うん。もう良いよね? もう終わろうね?』となり、最後は『もう許してください! ノイエ~! ちょっと本気で助けてください!』となった。

で、明け方頃に完全に燃え尽き……今はベッドの上でノイエの抱き枕になっている。

昨日は着替えや今後のこともあって早くに外に出ていたレニーラは、それはそれは満足そうに戻って来て……で、ホリーに捕まった。

ワラワラと髪の毛を操り舞姫を拘束してからの拷問だ。

もう何時間と続いている気がするが、誰もレニーラを助けない。

鬼気迫るホリーの様子に尻込みするのだ。

まずシュシュがフワフワしながらやって来たが、中に入らずフワフワしながら通過して行った。

次いでリグが来たが、中を覗くなり『ゆっくり眠れない』と言って胸を揺らして去っていく。

最後にグローディアが来たが……『殺さないでね』とだけ言って帰って行った。

みんな自由だ。安易に動き回れるから本当に好き勝手だ。

「私は誰かの舞台を完璧にするためにずっと休みも貰えずに個室に監禁されてたのよ? 部屋の外にも出れずに毎日毎日……嫌になっちゃうんだからね?」

「何か本当にごめん! 謝るから~!」

「良いの。別に良いの。謝って欲しい訳じゃないんだから? ただね……許せないだけ」

「私にどうしろと~!」

レニーラの悲鳴は間違えていない。

本当にどうすれば良いか聞いているセシリーンにも分からない。

「ああ……この馬鹿の出番が無ければ指先から刻んで……指先ぐらいなら無くても大丈夫よね?」

「むぅりぃ~! 指先ほど重要なの!」

「ならこの胸でも?」

「止めて~! バランスが狂うから~!」

「もう……我が儘ね?」

「どっちが~!」

どっちもどっちだろう。

クスリと笑い。セシリーンは思う。

この場所には基本自分勝手の我が儘しかいないのだと。

「ねえホリー」

「何かしら?」

自分の目が機能していないことをセシリーンは久しぶりに感謝した。

呼びかけた相手が放って来る気配が尋常では無いのだ。

何と言うか……殺人鬼を前にした感じだ。ひと目見られると殺されてしまいそうな気になってしまう。

「レニーラが言っていたのだけど……このままだと踊りと舞台に音が負けるって。貴女の評価は?」

「……そうね。今のままだと音が死んでしまう」

大きく息を吐いたホリーの様子が一変する。

『キャン』と鳴いたレニーラはどうやら解放され、床に尻を打ち付けた様子だ。それぐらいなら触っている内に内出血の青痣も消えるだろう。

「この馬鹿の踊りが規格外すぎるのよ。それにあの舞台の設計をした刻印の魔女も容赦ないし」

怒って床に座ったらしいホリーが愚痴る。

「それをどうにかしようと思って音楽家の配置から何から色々と思考した。でもようやく絞り出した案だって及第点に僅かに届かずよ」

「それで貴女が解放されたと言うことは?」

「打つ手なし」

軽く両腕を広げホリーは素直に負けを認める。

当初は音楽家の数を集めて乗り切ろうとした。ただそうなると音が大きすぎる。大音量の音は見ている者たちを不快にしかねない。

そこからは果てしない想像の繰り返しだ。

音楽家の数を増やしたり減らしたり楽器を変えたり配置を変えたりと……あらゆる方法を模索し思考し続けた。

「レニーラ」

「何よ?」

軽く天井を見上げまだ尻を摩っているレニーラに、ホリーは声をかける。

「少し手抜きをしてなんて言ったら……貴女はどうする?」

「踊らない」

即答だ。

「それは踊りに対しての、昔から踊りを愛して心血を注いできた人たちに対しての裏切りだ。私は人殺しの罪人だけど裏切者にはなりたくない」

「……そう言うわよね」

普段はふざけが過ぎるレニーラだが、踊りに対してだけは真摯だ。故に手抜きは出来ない。

こうなると不完全だが、どうにか最低を免れる方法で決行するしかない。

レニーラのように音楽に対して真摯な音楽家たちはきっと耐えられず、その日限りで楽器を置くことになりかねないが仕方ない。

「ねえホリー?」

「何よ。歌姫」

静かな声音にホリーはその顔を相手に向けた。

「1つだけどうにかする方法があるの」

何処か自信ありげに言うセシリーンにホリーは苦笑する。

「……歌姫が歌うとでも?」

それは皮肉でしかない。何度もその手が使えればと願ってしまったホリーの本心だ。

だが歌姫は静かに首を左右に振るう。

「私じゃないわ。私のたった1人の弟子よ」

「……」

耳の奥に届いたその言葉にホリーの疲れ切っていた頭が動き出す。

その手があった。

完全に抜け落ちていたその発想は……今のノイエが歌う姿を想像できなかったからだ。

「歌えるの? 今のノイエが?」

「さあ? でもそれをどうにかしてくれる人が私たちには居るわ」

セシリーンは見えない目を外へと向ける。

「彼ならどうにかしてくれると私は信じているのよ」

最愛の妻に抱き枕にされている彼は……首を絞められ今にも死んでしまいそうな状況であったが。

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