軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなの決まっているでしょう?

ユニバンス王国・王都郊外北側街道

「あ~なんて可哀想なノイエなのかしら~」

「……はい」

レニーラよ、そう焚きつけるな。ノイエも便乗するな。

2人揃って僕をイジメようとするとは、何て意地悪なことをするのか?

僕が何をしたという。ただ商売脳になっていただけではないか?

ノイエに抱き着いたレニーラがこれでもかと視線を寄こしてくる。

何かイラっとした。後で絶対に泣かす。

舞台の視察を終えて僕らは馬車で自宅へと向かっていた。

今日のお仕事はもう終わりだ。なんか違った意味で疲れた。と言うか現在進行形でまだ疲れている。

「で、レニーラさんや」

「何よ?」

「あの舞台はどんな感じだった?」

「ん~。悪くないかな」

ノイエを抱きしめたままでレニーラが顔を動かす。

こちらを向く前にノイエの頬にキスするとはいい度胸だ。後でやっぱり泣かす。

「元々は中央にあった舞台を移設した物でしょう? せり出した部分は新しかったからまだ少し石が硬かったけど、ちゃんと靴を履けば大丈夫なはずよ」

硬いって何さ?

「何よその表現は?」

「ん~。そうとしか言えない?」

出た出た感覚系の人間の不思議な言い回し。具体的に言えと思う。

「踊ることに問題は無し?」

「別に踊るだけならどこでも踊れるし~。ねぇ~。ノイエ~」

「はい」

「誰も見てくれないのは寂しいけどさ~。ねぇ~。ノイエ~」

「はい」

何故かまた拗ねだした。だからノイエを引き込むなと言いたい。

「はいはい。本番は特等席で見るよ」

スポンサー権限で陛下の次に高い席を確保してあるのだよ。

金持ちを舐めるなよ! 大半はノイエの稼ぎですけどね!

「なら舞台は問題無しってことで」

「舞台はね」

何か引っかかる物言いだな?

「何か問題でも?」

「問題って言うか……目新しさの無い舞台だなって」

レニーラのテンションがだだ下がりだ。

「それはホリーとその相方さんの頑張り次第かな」

「無責任ね。ホリーとこくっ」

咄嗟に手を伸ばして馬鹿の口を塞ぐ。

その名を口にするな。外にはミネルバさんが居るのだよ!

必死に視線で念を押していたら、レニーラの馬鹿は頬を赤らめる。何を考えているのかを述べろ。そしてどうして頬を膨らませて僕に抱き着こうとするのですか? ノイエさん?

「舞台の方は分かったけど、音の方はどうなの?」

レニーラの口から手を離すと、軽く咳払いをして彼女が真面目にそう聞いて来た。

「王都に住む音楽家を集めてます。楽曲は選定中らしいけど逆にホリーから何か聞いてないの?」

「何も聞いてない」

「そうっすか~」

ホリーさん。ストレス貯めすぎて暗黒面に落ちる前に出て来てくれないですかね? 僕が死ぬか

ら。

「まあ楽曲なんて何でも良いんだけどね」

「大した自信だね」

「あはは~。これでも私は舞姫らしいから」

ギュッとノイエを抱いてレニーラが寂しそうな表情を作る。

「だから普通の音なら私の踊りが勝ってしまう」

「凄い自信だな」

「あはは……唯一の自慢だしね」

今にも泣きだしそうな表情に変化した。

「もう……セシリーンの歌で踊れないんだね」

「今回は無理だろうさ」

改めて手を伸ばしレニーラの頭に置く。

グシグシと撫でて……僕は笑った。

「心配するな。いつかあの歌姫を歌わせてやるよ」

「出来るの?」

「やりますとも」

だって僕はセシリーンの歌を聞いたことが無い。

それにそれほどのものならば、僕は彼女に約束通り歌って欲しい。

子守唄を、ね。

「セシ、リーン。大丈夫?」

「平気よ」

「う、そ」

そっと手を伸ばしファシーは彼女の頬に手を触れた。

涙で濡れた頬をそっと拭うが、意味をなさない。何故ならば次から次へと涙が続いて流れて来るからだ。

「ファシー」

「は、い」

「どうしてかな? 涙が止まらないの」

「は、い」

小さな手を相手の背中に回し、ファシーは正面から歌姫に抱き着く。

優しくしてくれる彼女を抱きしめ返し、セシリーンは胸の奥から溢れて来る言いようの無い息を吐き出すと、自然と全身が震えた。

「本当にレニーラは……昔っから変わらないんだから」

自分の歌を『最高』と評価してくれる人は数多く居た。ただ1人だけ違った。

『あは~。今日は引き分けだからね! 次の時は私が絶対に勝つから!』

初めて共演した時……別れ際に舞姫はそう言っていた。褒めたたえる人の中で、彼女だけが『自分と同じぐらいだから』と言ってくれた気がした。普通の人として扱ってくれた気がした。

正直嬉しかった。本当に嬉しかった。

「たぶんレニーラの勝ちよ。私は彼女のように振る舞えない」

勝敗で言うならそれが答えだとセシリーンは思っていた。

「違う、よ」

「ファシー?」

ただ思いがけない声が耳を打つ。

猫の姿をしたファシーからだ。

「セシリーンは、負けない」

「でも私は歌えないから」

「それでも」

ギュッと小さな体で全力で相手が抱き着いて来る。

「だって、レニーラは……馬鹿、だから」

「……うん。そっちに関しては負けない気がするわ」

本当にそっちのみなら負ける気はしない。

「それに、セシリーンは、まだ、休んでる、だけ」

「休んでる?」

「は、い」

思いがけない言葉だった。

「休んで、いるから、歌わない、だけ」

「違う。私は歌えないだけで」

「違う、よ」

またもファシーは歌姫の言葉を遮った。

「セシリーンは、歌える、から」

「……」

「ただ、歌わない、だけだ、から」

違うと否定したかった。けれどセシリーンは出来なかった。

だって自分は歌いたいのだ。そう。歌おうとしているのだ。

その度に何度も窒息死しては生き返っている。それでもまだ歌おうとしている。

「そうか……そういうことね?」

「は、い」

コクンと胸に顔を押し付けているファシーが頷いた。

ようやく分かった気がする。ようやくそれに気づけた気がする。

自分は『歌いたい』のだ。何故か? そんなのは決まっている。

《私は歌うことが好きなんだ。それしか無かったから……だから歌で人を殺めてしまったことを許せなかった。愛していたから。歌を》

深く深く愛していたから凶器にしてしまったことが許せなかった。

けれどそう思ってしまうほどに自分は愛しているのだとセシリーンは理解した。

「セシリーン」

「なに?」

相手の胸から顔を離したファシーは、そっと彼女の白濁とした目を見つめた。

「歌と、彼なら……どっちが、好き?」

「そんなの決まっているでしょう? ファシーと同じよ」

「いゃん」

恥ずかしそうな声を発して猫がまた甘えて来る。

可愛らしい猫を撫で、セシリーンは小さく笑う。

実に簡単なことに今日気づけた。そんな気がしたのだ。

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