軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

凄くすご~く悪い魔女だもの

ノイエの魔眼・左目

「んふ~」

指先に爪先まで……全てに意識を向け、レニーラは体を動かしていた。

まだ鎮魂祭で踊るとは決まっていない。自分を説得する材料を見てしまうのは面白くないからと、最近は魔眼の中枢から離れ過ごしている。

もし彼が自分をその気にさせるほどの舞台を準備するのなら……それだったら踊っても良い。でも踊る時になって踊れる状況でない自分が居たとしたら、それは許せない。

だから毎日ずっと準備を繰り返してきた。たぶん十二分に仕上がっている。

「ん~」

全身から汗を滴らせ動きを止めたレニーラは、パチパチとやる気のない拍手を送る者に目を向けた。

「それが全力?」

「まだよ。ただの準備体操」

「……今のが?」

相手の言葉に見学者……グローディアは目を丸くした。

ただの皮肉のはずだった。

心を揺り動かされた踊りに、何よりプルンプルンと動く胸に対してイラっとしてわざと皮肉を言ったのだ。

「調子は万全だけどね。でも踊りは私だけがするものじゃないから」

「……そうなのね」

一応嗜みで踊ることはできるが、グローディアは踊り自体好きではない。

だからこそ相手の言葉を理解することが出来なかった。

「まあ良いわ。ちょっと出て来るから」

「……どこに?」

また準備運動を始めようとしたレニーラは動きを止める。

「決まっているでしょう?」

「また右目?」

「止めてよ。あんな地獄……思い出したくもない」

一度魔眼の右目に送られたグローディアには、あの場所での日々がトラウマになっていた。

右目は、左目とは違いとにかく不便なのだ。

ノイエの目を介して外を見ることも出来ない。何も聞こえない。外で事件が起きていてもグローディアはそれに気づけない。

だからこそ焦った。

焦って焦り続けて……必死に部屋からの脱出を目論んだ。けれど脱出することが出来ない。

焦りがピークに達する頃、魔女が小間使いとして使う赤服の白髭の人形がやって来た。

『マダ出来ナイノカ。情ケナイ』

定期的に来てはそうやってグローディアを罵っていく。本当に腹が立って腹が立って……怒りの余りに何体か破壊したけれど、それでもやって来るのだ。

もう嫌だ。あんな生活には戻りたくない……それがグローディアの本心だった。

「それに噂だと右目にはホリーが居るんでしょ?」

「みたいだね。魔女に攫われたってセシリーンが言ってた」

「……右目に行けばホリーも少しは勤勉になるわよ」

セシリーンの真面目なところをグローディアは高く評価していた。

時折術式の魔女で遊ぶ時もあるが、基本歌姫は真面目だ。だからこそ中枢に置いておいても悪さをしないと信じている。その言葉に嘘は無いと信頼している。

「ならどこに行くの?」

「外よ」

「はい?」

らしくない言葉にレニーラの動きが完全に止まった。

目をスッと細めたグローディアは、腰に手を当てて真っすぐ舞姫を見る。

「あの馬鹿を気が済むまで殴って来る。それだけよ」

「あはは……目が本気だ~」

心の中で『頑張れ旦那く~ん』と祈りながら、レニーラは巻き込まれないようにその場から逃げ出した。

ノイエの魔眼・右目

「ふんっ!」

バラバラに刻んだ物を見下ろし、胸の前で腕を組んだホリーは留飲を下げた。

人を馬鹿にするにもほどがある。舞台の運営なんて片手間でやれる。それなのにどこかの魔女は自分を攫って右目の一室に閉じ込めた。

唯一の出入り口には見張りが居て……その見張りをたった今、斬って捨てたのだ。

「見るなと言われればそれは見ろってことよね?」

長い髪を軽く撫でつけ、ホリーは閉じ込められている部屋を出る。

魔女はこの場にホリーを投げ捨てた時にこう言い残して行った。

『見張りが居るからこの部屋から出ないこと。周りの部屋を勝手に覗かないこと。もし右目の秘密を暴いたら……とんでもないことになるから』と。

そんな餌をぶら下げられてホリーが黙っていることなどできない。

3日としないで脱出するはずが、舞台運営の段取りと国営の施策と言う餌も美味しくてついつい食べることに集中してしまった。

でも終わった。舞台運営に関して言えば、準備できた舞台を見てから微修正だ。

国営の方は……頑張れ国王様だ。あの夢物語を実現できればこの国は少なからず大きく繁栄するだろう。国を支配する人間が腐敗し、私利私欲に走らなければ。

一応外の様子を伺いホリーは部屋を出た。

まずは手近な部屋に入ると、酷い有様に目を覆う。

嵐でも過ぎたかのような……壁に綴られている呪いの言葉の筆跡は王女様の物だった。この場所に監禁されていたのだろう。

どうして普通に出入り口から出なかったのか疑問に思ったが、あの魔女が相手なら不可解な現象が普通だから考えるだけ無駄だ。

部屋を出ようとして……ホリーは足を止めた。

周りには誰も居ない。気配はない。だったら別に構わないはずだ。

クルっとその場で反転し、再度部屋の中に突入する。

散乱している紙や壊れた道具の破片らしき物を集めて掃除をしていく。自分らしくないとホリーは理解している。けれど汚いままなのは我慢できない。

掃除をし続けて部屋を奇麗にし、ホリーは額に浮かぶ汗を拭った。

「何してるんだろう?」

呟き苦笑する。

自分は家族だけが居れば幸せなはずだった。

それなのに家族を増やして……違った意味で幸せを求めた。

自分らしくないと理解している。けれどその違う自分も決して嫌いではない。

もう一度苦笑し部屋を出て……次なる部屋を探す。

進めど進めど壁と床と天井だけだ。ぼんやりと周りが明るく照明要らずなのは左目と同様だ。

本当にこの魔眼は不思議な場所だ。

どれほど殺されても死なない。睡眠も食事も必要としない。結果として排泄も無い。女性特有の月の物も無い。だから自分が子供を作ることが本当に出来るのかが分からない。

《厄介な問題よね……》

厄介すぎるし難解だ。でも報酬は破格だ。彼の子供を存分に産める。そうなれば毎年1人ずつ産んでも良い。産めなくなるまでずっとでも産んでいたい。

「突き当り?」

長く続いた道の終わりが訪れた。

ぽっかりと口を広げる入り口に、ホリーはゆっくりと足を踏み入れる。

「何よ……これ?」

目の前に広がる光景にホリーは絶句した。

あり得ない。あってはいけない。もしこれが事実なら、

「だから言ったのに……」

「っ!」

背後からの声にホリーは慌てて振り返ろうとする。けれど動けない。動くことが出来ない。

「知ってる? 好奇心は猫も殺すのよ」

静かに横を過ぎ刻印の魔女が室内へと足を進める。

自分の前にやって来た魔女をホリーは睨んだ。睨みつけた。

「そんな目を向けないで欲しいんだけど? 忘れたの? 私が何を望んでいるのかを」

彼女の望みは始祖の魔女の殺害だ。

だからってこんなことは許されない。許したくない。

「貴女ですらこの反応か。なら他の人たちには見せない方が良さそうね」

クスリと笑って魔女は宙に文字を綴る。

「安心して。ちゃんと記憶は消してあげるから、今見た物は奇麗さっぱり忘れられるわ」

トンッと綴った文字を押し出し魔女はそれを魔法とした。

「受け入れられる訳が無いか……」

床に伏した殺人鬼から視線を動かし魔女は室内を見る。

「でも必要だから仕方ないんだけどね」

クスリと笑い魔女は床に伏している相手に新しい魔法を放つ。

「だって私は……凄くすご~く悪い魔女だもの」

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