軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流石にもう許せなかった

ユニバンス王国・王城内控室

「今にして思えばあの愚かな親が王家打倒を画策したとは思えません。他国の調略かどこかの貴族が唆したのか……今後王家に妻を送り出す貴族には、財務状況や友人関係。出入りの商人に至るまで徹底的に洗い直す必要があるとわたくしは思います」

「その意見には激しく同意だな」

妻の実家がとある企みに加担していたことを後で知ったハーフレンとしては、スィークの言葉を拒絶することはできない。

今後は徹底的に調べ、安心安全な貴族家から伴侶を受け入れることになるだろう。

問題は貴族なんて多かれ少なかれ裏で何をしているのか分からない部分があるぐらいだ。

「ただそうなると……上級貴族の中からだとヒューグラム家ぐらいしか結婚相手を選べなくなるな。他国の姫なんて以ての外だ」

「そうですね」

ただしこれにもまた問題が生じる。

王家に対して忠実で有名なヒューグラム家は、スィークの曾祖母の生家だ。このままでいけば国の多くをスィークと同じ血を持つ者が支配することとなる。

もしこの状態になるように過去から動いていたというのなら、スィークの曾祖母と言う存在は恐ろしい女傑だったのだろう。

《挙句ノイエの母親がヒルスイット家の者だと?》

思い出し疑問に思う。

スィークが言うには、ヒルスイット家の一族は彼女を除いて亡くなっている。

「1つ聞きたい」

「何でしょうか?」

「ヒルスイット家の生き残りは、お前以外に居るのか?」

「……家名としては潰えているはずです。でも血筋と言うのであれば残っている可能性もあるでしょう」

問われた質問に、スィークは古めかしい記憶を引っ張り出す。

「わたくしには凡庸な齢の離れた兄が居ました。彼は愚かな親が決めた結婚相手と結ばれましたが、愛人と言うのでしょうか……どこぞの王弟様のように公に出来ない女性が居たのです」

「グサッと突き刺さる言葉だが、その女性とは?」

「はい。愚かな親がメイドとの戯れで生じた庶子だと聞いています。わたくしから見て腹違いの姉です」

「……」

つまり2人の関係は、腹違いの兄妹と言うことになる。確かに公には出来ない。

「ただわたくしは掃除に関して一切手を抜きません。抜きませんが……全ての関係者を始末することは出来ませんでした。出来たのは兄とその姉までです」

「それ以外は見逃したと?」

「殺し続けるとキリがありませんので」

「確かにな」

親や兄姉ぐらいまでで終わりにしなければ、それ以上となると横の繋がりが濃い貴族社会においていくつの家を潰すことになるのか分からない。

「で、兄と姉との間には? まさか子供が居たとか?」

「はい。聞いた話では娘が1人居ました。ただ兄の正妻は大変な潔癖で気性も荒く……ここまで言えば分かりますね?」

よく聞くどこにでもある話にハーフレンは苦笑した。

「存在自体を許さなかったのか?」

「ええ。ですから兄は人伝にウイルアム様を頼り、その伝手でわたくしは今のハルムント家と関わるようになったのです」

今度はスィークが苦笑し、手にしていたティーカップを置いた。

「モリーン様はお優しい人でしたからね。兄たちの子を人知れず隠し育てたと伺っています」

「その娘は?」

「生憎わたくしに知られると何かあった時に困るかもしれないからと言って……どうなったのかまでは知りません」

「そうか」

出来ればノイエの母親とは他人であって欲しい……それはハーフレンの願望であり、何よりその手の願いは断たれるために存在している。

「ただモリーン様より名前は伺っています」

ピクッと体を震わせハーフレンは前に座る人物を見た。

「スフィラと言うそうです。兄とわたくしの母親であるスーラに寄せて名付けたと伺っています」

「……そうか」

深く深く息を吐いてハーフレンは理解した。

どうやらそのスフィラがノイエの母親に間違いなさそうだ。そうなると彼女の現存する親族はただ1人。その1人が寄りにもよってあのスィークだと言うことだ。

「何かありまして?」

「……良く分からんがアルグの馬鹿を殴り飛ばしたくなってきただけだ。気にするな」

「左様ですか」

スィークは待機しているメイドに紅茶を求めた。

ユニバンス王国・王都貴族区内王弟屋敷

「ヒルスイット家はリアの実家にすり寄った。王妃と王国で有名になった警護人の実家同士だ。協力して国の安寧を……まあ最初はそんなことを言っていたのだと思う。

それからは簡単じゃ。ルーセフルトと言う明確な敵が居たからな。言葉巧みに騙し続け、最初は打倒ルーセフルトとしてことを起こすはずだった。

けれど準備を進める間に風向きが変わった。ヒルスイットはティルツーム以外には『王家を打倒する』と囁いていたのだ。

事が事なだけに内密にと……結果としてティルツームは引くに引けない状態にまで陥っていた」

後になってウイルモットはその事実を知った。

再三再四、スィークはラインリアに報告していたという。けれど妻はその報告に耳を塞ぎ、決して夫である彼の元に話を持って来なかった。

だから業を煮やしてたスィークがウイルモットに直訴したのだ。

ずっと王妃の影をしていた彼女は、表立って自分が集めた情報の全てをウイルモットに届けた。

「何度も思うたよ。あの時はな。『もっと早ければ……』と。

けれど遅かった。遅すぎた。儂でもどうにも出来ないほどことが進んでいた。こちらが動かねば危ういほどに」

大半の者たちがルーセフルトとの戦いを想定していた。そしてルーセフルトもその気配を察していた。内乱に突入する……そう思った矢先にあれが動いた。

「スィークが動いたのだ。あれが自身の生家を、一族を……奇麗に掃除した。ただそれとて遅かったのだがな」

ユニバンス王国・王城内尖塔

「本当に昔の私は馬鹿だったのよ。誰も傷ついて欲しくないと願い……何より家族のことを大事にし過ぎたの。きっと気づいて立ち止まってくれると願ったの。

もしあの時に実家に手紙を、『王家に全てが知られている』と届け出ていれば……最悪は回避できたと思う」

椅子に腰かけているラインリアは、年頃の娘のように自分の膝を抱く。

「けど私は馬鹿だった。何もしなかった。だから……先に王家の動きに気づいたヒルスイット家の当主は自分の身を守ろうとした。もしかしたらお父様はギリギリのところで思いとどまってくれたのかもしれない。それで両家の間で争いが生じたのかもしれない」

遠い遠い場所に目を向け、ラインリアは膝の上に頬を寄せる。

「ある夜ヒルスイット家の者たちが、 彼(か) の家に協力する者たちが集まり私の実家を強襲した。

屋敷の中に居た者たちは全て殺され、屋敷には火まで放たれた。その結果……私の実家は家族は居なくなってしまった」

ギュッと自分の膝を抱いて体を震わせるラインリアは、言いようの無い悲しみで胸の内を苦しくさせる。

思い出さないようにしていた苦い記憶は、失せることなく残っている。

こんな嫌な記憶から消えてくれば良いとさえ思うのだが。

「家族を失い泣き続ける私の元にスィークが来たの。彼女はこう言ったわ。『今回の元凶たる一族を掃除したいと思います。どうかご許可を』と。

他人の家であってもこれ以上家族で争う姿を見たくなかった。けれど彼女は決して引き下がらなかったわ。だから『メイドの真似事をしていても、メイドでは無い貴女が掃除だなんて変でしょう?』と言ったらスィークは『でしたらこれから一人前のメイドになるべく修行してきます』と……私はたぶん言葉を間違えていないと思うのだけれども、スィークは強引に掃除に行ってしまった」

そっと膝に預けていた顔を離してラインリアは辛そうに笑う。

「彼女は1人で掃除をした。そしてウイルモットの前に出頭して……自身も罪人として処罰するように求めたのよ」

深いため息を吐いてラインリアはまた涙をこぼす。

「流石にもう許せなかった。だから私が……」

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