軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの叔母様がノイエの親族ですと!

ユニバンス王国・王都内貴族区王弟屋敷

「ヒルスイット家に生まれたスィークは、才女として名高い優れた娘であった。彼女には年の離れた兄が居り、兄妹仲良く暮らしていたとも聞く。ただ兄はとても凡庸な人物でな……それ故に時の当主は兄を廃嫡し、スィークに優れた婿を取ろうと画策していたのだ」

初めて聞くメイド長スィークの過去に、幼子を抱くリチーナと誰よりも興味津々なフレアが居た。

2人の様子を眺めながらウイルモットはまた話を続ける。

「だが知っての通りスィークはあの性格だ。令嬢として屋敷に収まる訳がない。成人する前に家出をして……彼女は王都で武を学んだ。手当たり次第に騎士に襲い掛かっては自分を鍛え続けた」

思い出せばあの頃の王都にて『人狩りが居る』と呼ばれ、騎士は決して1人で出歩くなと言われた。

腕に自信のある者は1人で出歩き怪我を負う。頭のある者は策を巡らせ……その上を行く対処に遭って怪我をする。人気のある者は集団で出歩きまとめて怪我をする。

近衛まで動員して狩りたてたが、それでもあれは全てを狩ってみせた。

「本当に容赦のない女であったからな……おかげで王都の治安が良くなり、軍の規律が正されたがな」

結果論でしかないが、あれは天性の掃除上手だったらしい。

「大半の者が倒されあれが最強と呼ばれるようになった頃、ウイルアムが不意に儂の護衛としてあれを連れて来たのだ。もうそれからは滅茶苦茶であった。敵味方問わず、敵対する者は力尽くで駆逐する。気付けば王国最強の警護人の地位を得て……それから何故かメイド修行も始めた」

「「……」」

過去の話であるはずだが聞いている2人は、何処までが実話なのか考えてしまう。

昔からやはりあの人物は滅茶苦茶だったのだ。そう結論を出すしかない。

「ただウイルアムの細君とは仲が良くてな……どれほどスィークが暴れようが彼女が姿を現し命じれば、国王の指示でも受け付けないあれが大人しくなる。本当に不思議な関係であったよ」

懐かしむようにその当時のことを口にし、ウイルモットは笑みを浮かべ続ける。

「ラインリアが妊娠した頃からか、あれはメイドの育成を始めていたな。まあ当初はメイドの姿を密偵や護衛、暗殺者などではあったが」

今にして思えば現在のハルムント家の原型があの頃から出来上がりつつあったのだ。

そう考えるとあの化け物はいったいいつ頃からこの国のメイドたちを支配する気でいたのか……ウイルモットは考えるのを止めた。

「ただ流石のあれですら思いもしない出来事が生じたのだ。生家であるヒルスイット家が思いもしないことを画策したのだ」

苦い笑みを浮かべウイルモットはティーカップに手を伸ばそうとする。

スッと歩み寄って来たフレアが彼の手を止め、新しく紅茶を入れ直してウイルモットに渡す。

「済まんな」

「いいえ」

本来なら息子の嫁であるフレアはやんわりと一礼し、ソファーに腰かけているリチーナの後ろへと移動する。

何かの機会に我が子を取り戻そうとしている気配を漂わせているが、リチーナは動じない義理の娘を抱いたままだ。離す気配が微塵も無い。

「まああの件は……スィークが悪い訳ではない。儂らも気づいていなかったのだからな」

「何があったのですか?」

話を進めてとばかりにリチーナが口を開く。

『あはは』と笑い、ウイルモットは軽く頷いた。

「ヒルスイットはラインリアの生家を騙したのだよ。結果としてリアの両親を含む家族は全員殺されることとなった」

「「……」」

予想もしていなかった話にそれを聞く2人は言葉を失う。

「リアは本来の家族を失ったのだよ。ヒルスイット家のせいでな」

ユニバンス王国・王城内控室

今回過去の出来事を知り、部下にヒルスイット家の調査を命じたハーフレンだが……調べれば調べるほど納得いかない報告が上がって来る。

けれど目の前の化け物……スィークから話を聞いて納得した。目の前のメイド長は、本当に掃除が上手だったと言うことだ。

「我が愚かなる親はラインリア様のご両親を騙しました。ラインリア様の生家は国軍内で派閥を保持していたティルツーム家。ウイルモット様が国王になるのに渋々協力した上級貴族でした」

「渋々とは?」

「ティルツーム家の御当主様から見てウイルモットとか言う男は、箱入り娘にして愛でていたラインリア様を掻っ攫った憎たらしい野郎でしたから」

「……私と公の区別はついたみたいだな」

「ええ。大変に優秀な人でしたので」

腕を組んで話を聞く馬鹿……王弟に対し、スィークは過去の話を口にしていた。

今にして思えば闇に葬った話だ。

ヒルスイット家の悪事が表に出ることは決して許されない。仮に表に出たとしても全ての罪はヒルスイット家が被るように出来ている。

そうなるようにスィークは長い月日を費やし全ての掃除を済ませたのだ。

「ティルツーム家の御当主様は国を思う気持ちの強い人でした。国王がルーセフルトとの繋がりを強くするのを危惧し、そして嫁いだばかりの愛娘……ラインリア様の身を案じていました。ルーセフルトが当初正室としてトパーズを嫁がせようと画策していましたしね。

ですからわたくしがウイルアム様……の細君でありましたモリーン様の指示で、王家の守護をすることとなったのです」

結果としてスィークは『王の番犬』や『王家の番犬』と呼ばれ恐れられることとなった。

ただ本人としては主人の命に従っていただけであり、王家のためにという思いは微塵も無かった。

「周りの勘違いのおかげで、わたくしは王家に対し忠実なメイドと呼ばれるようになりましたが」

「忠実?」

「呼んでいたのは周りの者たちです。わたくしではありません」

納得だ。何より目の前の化け物は王家だろうが誰だろうが容赦ない。

あの馬鹿なアルグスタは、よくこんな化け物と付き合えると思う。きっと馬鹿だからだろう。

何よりまたルーセフルトだ。ユニバンスを祟る一族なのかとハーフレンは心底思う。

現にその血を引く馬鹿な弟は、この国に不幸を呼んでいる。

「それでわたくしは護衛をしていてある違和感に気づきました。王家に忠実なティルツーム家の動きがおかしいことに。ですからわたくしは素直にそのことをラインリア様に報告しました」

手に持つ空のティーカップを軽く弄ぶ。

らしくないスィークの様子にハーフレンは自然と身構えた。

ユニバンス王国・王城内尖塔

「私は実家を信じていたの。だからスィークからの報告に耳を塞いだ。結果としては……あの時夫に全てを打ち明けて調べていれば、実家が消えることは無かったと思う。降級や地位を失っていたかもしれないけれど、少なくとも全員が死ぬことは無かったのよ」

椅子に腰かけラインリアは言葉を綴る。

静かにそれを聞かされるミネルバは何とも言えない汗でずっと背中を濡らしていた。

自分が聞いてはいけないような話が気がして……とりあえず今日はこのまま話を聞いて、寝て忘れようと心に誓っていた。

「でも私は家族を信じていたのよ。信じていたの」

今にも泣きだしそうなほど声を震わせ、ラインリアは視線を遠くに見つめる。

「でも家族は私を愛していたの。幸せに暮らして欲しいと願っていたのよ。だからどんどん悪い方へ悪い方へと転がってしまった」

「ラインリア様」

涙を落としたラインリアに対し、ミネルバは歩み寄ってハンカチを差し出す。

受け取った彼女は、そっと目元を押さえた。

「涙腺が緩くなったわね。まだ若いと思っているのに」

「いいえ。ラインリア様はお若いです」

その容姿を他人に見せられないラインリアだが、その肌などは年齢の割にはとにかく若い。

年々『若返っているのでは?』と、言われるほどに若々しいままだ。

「あの頃にアルグスタが居てくれたら……どうにかしてくれたのかしらね?」

厄介ごとに対して恐ろしい対処を見せる義理の息子をラインリアは信頼していた。

何よりあの息子は家族を裏切らない。国よりも家族を選ぶであろうことが分かるほどに。

ユニバンス王国・王城内国王政務室

「アルグスタよ? 何故頭を抱えている?」

「……現在、想像を絶する難題を抱え苦悩しております」

あの叔母様がノイエの親族ですと! あり得ないから! と言うか、認めたくない!

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