軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

老人の愚痴にも付き合って欲しい

ユニバンス王国・貴族区王弟屋敷

「リアは何処に?」

「その……」

「またか」

言葉に困っているメイドに前王ウイルモットは苦笑した。

自由奔放……不意に吐血して倒れる割には、彼女は行動的で困るのだ。

メイドたちも常に監視しているが、彼女が体に宿す力は常人では対処できない。

窓を開けて目にも止まらない速さで城へと向かうこともできるのだ。

ノイエ以外でそんなことが出来る人物の姿を見られると問題だからと、外に出る時は白いベールを被るようにと……どうにか結んだ約束はそれぐらいだった。

「城へ向かったのか?」

「たぶんですが」

恐縮しているメイドに落ち度はない。彼女が強引すぎるのだ。

あれを制することが出来るのは初代のメイド長ぐらいだが……それが訪れてから外出したと言うことはあの件が一因だ。

「……厄介ではあるな」

軽く頷き所在無げにしているメイドに腰かけている車椅子を押させる。

自室へと戻る途中で車椅子を押すメイドに、彼は片手を上げて止まるように指示を出す。

「本当にこの子は起きないのですね」

「はい。不安になるくらい」

「ラインリア様が毎日騒いでいるので慣れたのかもしれないですね」

「……それはそれで不安なのですが」

語らっているのは息子の嫁と……元婚約者であり愛人となったメイドだった。

「失礼するよ」

「これはウイルモット様」

慌てた様子で赤子を抱いたまま立ち上がったのは大きな胸を持つ女性……リチーナだ。

彼女の背後に控えていたメイドであるフレアは最初から気づいていたのだろう、慌てた様子もなく静かに頭を下げて挨拶を寄こしている。

「畏まらないで良い。儂はもう枯れていくばかりの男だ」

「ですが」

「前王などと言う位など忘れよ。公の場でなければな」

気軽に話ながら室内へと来た彼にリチーナは苦笑する。

この父親にしてあの夫だと思えば納得してしまう。

「公の場でなければここに居る者たちは家族であるからな」

リチーナとフレアは息子の正室と愛人。

故にウイルモットは気軽に接したいと思っていた。

王の地位を譲り隠居した身……何より地位に縛られない3番目の息子などは自由奔放で羨ましいとさえ思う。ただ厄介ごとに巻き込まれる資質があるらしく、何かあれば死にそうな目に遭っていると報告は届いているが。

腹違いの娘を抱えているリチーナは軽く頭を下げるとソファーに座り直す。

子を抱く仕草はもう一人前と言えそうだ。

何故か笑いだしながらウイルモットは視線を控えている2代目のメイド長に目を向ける。

「リチーナに我が子を抱かせるか?」

「その子は捨て子にございます」

「先も言ったが……家族で化かし合いなど不要だ。アルグスタならもっと気軽に答えるぞ?」

「……私にはあの御方のように立ち振るえません」

「もし立ち振る舞えていたらお前が正室になっていたと?」

「陛下」

キッと睨んでくるメイド長に彼は声を発して笑いだす。

「案ずるな。リチーナとて笑い話だと理解している」

「ええ。ですからこのまましばらくエクレアを抱きます」

「……」

可愛い我が子を人質に取られ、フレアの目が涙目となって前王を睨んだ。

笑い続けてそれを誤魔化し……ウイルモットは呼吸を整えるように息継ぎをした。

「リチーナにも子が出来たらもう立派に抱けるな」

「はい。ただ胸が邪魔をして……エクレアのおかげでだいぶ慣れましたが」

「そうか」

ウイルモットはその笑い話を思い出した。

妻であるラインリアから聞かされた話によれば、当初リチーナは上手くエクレアを抱けなかったという。何でも胸が邪魔をして、胸を抱いているのか胸に埋めているのか分からなくなるとか。

何度か試行錯誤をし、少し前かがみで空間を作ることを学び抱けるようになった。

「次はリチーナが子を産む番か?」

「そうですね。早く子をなさなければシュニット様も大変でしょう」

子をあやしリチーナは視線を城へと向ける。

「王妃様があのように幼いから子をなさないと……口の悪い貴族たちが騒いでいるとか?」

「それを理由に我が子を側室にと画策しているのだよ。昔から貴族のすることは変わらん」

「そうですね」

だから現在王妃キャミリーが主導して鎮魂祭の準備を進めている。

王妃らしく振る舞えるようにとの配慮なのかは分からない。が、一生懸命に頑張っていると伝わっている。

「お前が男子を成せば少なからず後継ぎで揉めることは無い。アルグスタの所で生まれれば、色々な意味で揉めそうだがな」

「そうですね」

何とも言えずにリチーナは抱く子を軽く揺すった。

胸にあたって思いの外弾んでしまったが……幼子は起きない。スヤスヤと寝ている。

王妃でもないのに子を作ることのプレッシャーを感じ、リチーナは軽く唾を飲みこんだ。

と、肩に手が置かれ……それが誰の手かと顔を動かせば、真面目なメイドであるフレアの物だった。

「ウイルモット様。あまり奥様を追い詰めないように願います」

静かな声音でフレアは真っすぐ前王を見る。

「子供は授かる物です。作る努力はしますが、いつ授かるかは誰にも分かりません。ですが『子をなせ』と周りから言われるのはとても辛いのです」

「それは経験からの言葉か?」

ウイルモットの言葉にフレアの体が震える。

そして彼女は自分の手がリチーナの肩に置かれたままだと気付き、離そうとしたら出来なかった。リチーナが先に手を伸ばしフレアの手を掴んでいたのだ。

「そうです。私はハーフレン様の婚約者として育ち、何よりあの御方の妻となることに言いようの無いプレッシャーを感じていました。相応しい女性になろうとばかり考え背伸びをして、最後は足を滑らせて転んでしまい……地の底まで転がり落ちた愚か者です」

「そう自分を卑下するでない。お主は地の底まで落ちてはおらん」

「ですが」

言葉を続けようとするフレアにウイルモットは優しい目を向けた。

「何より転がり落ちるお前を掴み引き上げた者がおるであろう? その背後で暗躍していた問題児も居たと聞くが」

「はい」

全ての地位を捨てる覚悟で突き進んだハーフレン。

最悪を根底からひっくり返して見せたアルグスタ。

その2人が居たから、今のフレアは子供の頃に思い描いていた形では無いが夢は叶った。

叶って想いは形となって……リチーナの胸に埋まっている我が子は本当に起きない子だ。

「まあ儂の言葉も悪かったな。許せ」

笑ってウイルモットは場の空気を変える。

「今日はスィークが来て嫌なことを思い出してしまってな」

「嫌なことですか?」

フレアに代わりリチーナが相槌を打つ。

「ああ。本当に嫌なことだよ」

聞きたくもなかった家名を口にされたのだ。

「南部出身のリチーナは知らないであろうが、王都にヒルスイット家という上級貴族が居たのだよ」

「ヒルスイット?」

首を傾げるリチーナとは違い、フレアはサッとその顔から血の気を失った。

やはり知っていたかと……ウイルモットは苦笑する。

「その家が何を?」

「ああ。王家を打倒しようとしたのだよ」

「打倒?」

それが見つかれば、一族郎党の全てが処刑されることが決まった大罪だ。

現に有名なのは南部の雄、ルーセフルト家がある。

「それでその一族は……その」

「ああ。全て処刑した」

断言する前王にリチーナは抱いている幼子をギュッと自分の胸に埋める。

だが鋭い表情をしていたウイルモットの顔が緩む。

「ただ1人を除いてな」

「1人ですか?」

「ああ。1人だ」

深く深く息を吐き、ウイルモットはその視線を窓の外へと向ける。

「お主はラインリアの家名を知っているか?」

唐突な言葉だった。

だが問われてリチーナは義理の母親の出身を知らない。聞いたこともない。

「彼女の家はもう無いのだよ。彼女を残して全てな」

息を吐いてウイルモットは視線をフレアに向けた。

「茶を頼もうか」

「はい」

恭しく畏まるメイド長に、ウイルモットは言葉を続ける。

「それから老人の愚痴にも付き合って欲しい」

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