作品タイトル不明
またあの人に喧嘩売ったの?
ユニバンス王国・王城内国王政務室
「呆れ返っている陛下に代わって言ってやる。お前は問題を起こすのが趣味なのか?」
「失礼な。陛下はそんなことを言いません。心の中で思っていても」
「……流石にそろそろ言いたくなって来ているがな」
まさかそんな!
椅子に腰かけ頭を抱えている陛下の様子に僕は戦慄した。
あり得ない。貴方は僕の味方だと信じていたのに。
「で、彼女が“あの”リグか?」
「ですね」
陛下の視線に僕も頭を巡らせた。
ソファーに座って静かにしているリグは……ケーキを頬張っている。
真面目な話があるからと執務室に置いて行こうとしたが、リグがそれを拒否した。何でも『あの2人の目が嫌だ』とか。過去に酷い目に遭っているから貧乳界の住人は苦手らしい。
仕方なく僕の後ろを歩いて来てもらい……ポーラと一緒に何食わぬ顔で陛下の執務室に突撃したけどダメでした。
ただファシーとは違い存在自体が問題にはならないので、今はああしてケーキを食べて貰っている。
「おねえさま。むねはおさらをおくばしょではないです」
「ん~」
ケーキに集中しているリグに聞く耳は無いらしい。
そして甲斐甲斐しく世話をするポーラの目に光がない。
両手がケーキで埋まっているリグは、皿を胸の上に置いている。凄い……乗るんだ。
「馬鹿兄貴のお嫁さんならあれって出来る?」
「出来るな」
「そっか~」
増々ポーラの目から光が消えた。
最近ブラをするほど大きくなったらしいが……まだ自分の未熟さを痛感したらしい。
ただ立って動けるだけ良い。離れた場所で、伏して絶望と床を友達いしている王妃様よりかはまだマシだ。もうあれはダメだな。
「リグは基本無害なのであのままにしておいてください」
「……キャミリーがあの様子だが?」
生まれたての小鹿のようだ。
「一部の女性と男性には強烈すぎるほどの衝撃を与えますが、基本無害です」
訂正してお詫びします。
貧乳界の住人には毒々しい存在らしい。そして一部の巨乳好きには大好評らしい。
陛下に呼ばれるまで僕の執務室に居たのだが、今日は入り口前を往来する男性の多いこと。チラリと室内を見て、また見るとかの二度見姿を何人見たことか。
あれは確かに視覚の暴力だ。レニーラと違って。
「まあ良い。お前が管理しているのならもう文句は言わん」
陛下が諦めて……何かを投げ捨てた感じだ。
それが良いです。僕だって実際管理できていないのだから。
「それで鎮魂祭の準備はどうか?」
「はい」
準備した資料を取り出し僕はそれを陛下の机の上に置く。
馬鹿兄貴は、ほれ受け取れと投げて渡す。
「ご説明を始めさせていただきます」
こうして学生だった僕には経験の無いプレゼンのような物を開始した。
「……王都中の音楽家を一堂に集めると?」
「はい」
「理由は?」
「ん~。簡単に言うと数で補わないとレニーラの踊りに霞んじゃうんですよ」
「なに?」
僕の言葉に陛下の眉がビクッと動いた。
「あれの踊りは見た者の何かを狂わせます。恐ろしいほどの暴力です。結果として全員の目を集めることでしょう。ただしそれだと面白くない。舞台とは視覚と聴覚を楽しませることが重要だと……とある人物が申しています」
「そうか」
指を組み机の上に肘を置いた陛下が深く悩む。
「それでこの舞台にかかる一切の資金はドラグナイト家が負担するとあるが?」
「事実です。満足できる舞台を作らないと踊らないっぽい我が儘な存在がいましてね……現在少しでもその気になるようにと試行錯誤を繰り返しています」
頭痛の種が減らないのですよ。
僕以上に頭痛持ちに見える陛下は目を閉じて押し黙った。
代わりに馬鹿な兄貴がニヤニヤと笑いだす。
「まあ一番金のかかる部分をアルグが負担するなら問題ないだろう?」
「言葉の節々に悪意を感じるぞ?」
「金持ちなら贅沢して散財しろ」
「してるって」
毎日毎日僕らはコツコツと高級ケーキを食べては贅沢しています。贅沢なのです。
その贅沢を堪能している人がいるでしょう? 見なさい。あそこに居るリグの姿を!
リグさんリグさん。バナナをどこに固定してケーキを食べているの? 何をどうしたらそんなビジュアルに? ってポーラの目が怪しく光ってる~! 湧いて出て来るな馬鹿賢者が! で、向こうでロープを輪にして何をしようとしているチビ姫が~!
真面目な話中なのでツッコミは全て脳内で処理する。
問題は……あっちはカオスだな。
「と言うか僕のことを狙っていた過激な貴族一派を排除して財産没収したんでしょ? 少しは財政が……拝見します」
言葉の途中で陛下が引き出しから紙を引き抜いて僕に寄こした。
受け取り見れば処罰した貴族たちから……思ったより貯め込んで無かったのね。貧乏だから他国の謀略に乗って小銭で国の情報とか売ってたのか。うんうん。可哀そうに。
「アルグよ。一番上の項目は見たか?」
「見ないように心がけていました」
ジトッとした2人の兄の視線に現実を直視し、指摘された場所を見る。
馬鹿兄貴は本当に空気を読まん。おかげで知ってしまいました。
今回敵対貴族が無くなり一番儲かった人……僕だね。
財産の没収と清算。この清算には借り入れている借金の返済も含まれている。
この王国で最も現金を動かせるとある貴族は、ちゃんと金利を支払えば収入と支出に応じてお金を貸すのです。そう。この金利が大切です。試験に出ます。
「いや~。お亡くなりになった日までの金利ですよ?」
「お前こいつ等には割増で貸してたろう?」
「敵対しているのに『金を貸して欲しい』とか言うからね。それぐらいの嫌がらせはします」
ただしこの人たちは月々の金利分だけ支払わなかった。原資は借りっぱなしで返済無しだ。
期日までにどうにかする腹だったのか、それとも僕を殺して借金その物を誤魔化す気だったのか……大半が亡くなっているので確認のしようがありません。
「整理次第、ドラグナイト家には全額返済される。無論金利込みでだ」
とても静かなお兄様の声に……僕の視線が泳ぐ。
遂にブチギレたチビ姫がリグの胸を両手で鷲掴みして、掴んで揉んで捏ねて……捏ね繰り回して泣き出した。
君は頑張ったよ。ただ相手が無慈悲なまでに圧倒的だっただけだ。
「分かったです~! これは偽物なのです~!」
鷲掴みして捏ねていたのに諦めの悪い。チビ姫がリグを無理矢理拉致して行こうとして、ポーラの姿をした悪魔が加勢に回った。
ケーキと果物を頬張りすぎて喋れないリグは、僕に向かって手を伸ばして来るが……ごめん。今の僕は無力なんだ。だって馬鹿賢者がにんまり笑ってこっちを見ているから。
邪魔したら後で面倒臭い。
引きずられていくリグを見送り……ようやく僕は視線を陛下に戻した。
「何か悪さするので適当に罰金の額を決めてください」
これが一番手っ取り早い。今から追いかけて行ってチビ姫を半裸に向いてその辺に吊るしましょうか? これは虐めや暴力ではありません。リグの胸を弄んだ物に対する躾です。躾なのです。
「まあお前のことだ。無理に罰を与えなくとも何かするであろうが」
もしもし陛下? それはぶっちゃけすぎてない?
「ただ今回の鎮魂祭に関しては、変な言い方になるが遠慮せずやって欲しい」
あら意外。そんなご指示がお兄様から出るだなんて。
「立場のある人物としては本心を口にはできないが……ある国の国王陛下は、とある弟が騒ぎを起こす度に国民から支持を失っていてな」
うごっ! 馬鹿兄貴の言葉のパンチで僕の心は大ダメージだよ!
ごめんなさい。本当に申し訳ございません。フレアさんの一件は馬鹿兄貴も原因なのでそっちに少しは恨みをぶつけてください。
「で、今回チビ姫がとにかくやる気なんだよ」
「……なのですか」
陛下は苦笑して居るし、ガシガシと頭を掻く馬鹿兄貴も笑みを隠さない。
王妃としての自覚とかは無縁そうなチビ姫だけど……まあやる気に満ちているならば仕方ない。
時折その勢いが脱線して大変なことになっている気もするけどね。
「でしたらこの国で最も有名な問題児たるこの自分の本気をお見せしましょう」
予定変更だ。今回はどんな手を使ってもレニーラを舞台に上げる。
必要ならば土下座だって土下座だって土下座だって辞さない。脅迫とかしても聞いてくれ無さそうだしな~。ここは最終手段、ノイエと一緒にお願いも使うか。
「では詳しい話を」
陛下がそう告げると扉がノックされた。
「失礼します陛下」
「何か?」
「はい」
やって来たのは陛下の専属メイドさんだ。
「ハルムント家の前当主スィーク様がお越しになられました」
「スィークが?」
チラリと僕に視線を寄こしますが、僕は叔母様と何も……前回のカミューのあれか? 支払いを求めに来たか?
思い当たる節はあるのですが、何故か僕の隣で馬鹿兄貴が激しく動揺しつつ頭を掻いています。
君……またあの人に喧嘩売ったの? 馬鹿なの? 死にたいの?
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