軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あれはまだそんな隠し玉を?

「満足満足」

「おか~えり~」

「ただいまっ」

戻って来た状態のままで上機嫌でポーズを決めるレニーラに対し、壁を背に座っていたシュシュが両腕を伸ばしてプルプルと手を振る。

クルっと踊りながら無気力な魔法使いに近づいた舞姫は、そっと彼女の手を取り立ち上がらせる。

「あれ~。踊りは~苦手~だぞ~」

「シュシュは才能あると思うけどね」

「あは~。決まった~型で~踊るのは~苦手~なんだ~ぞ~」

「なら自由にっ!」

外であれほど踊って来たというのに……ただ疲労は残っているらしい。肉体よりも精神的な物なのか、レニーラの足取りが普段よりも重い。シュシュの方が遥かに軽やかだ。

自由に踊る2人の足音を聞きながら、セシリーンはリグの背を撫でる。

ただ撫でる場所を気を付けないと、不意に全身を震わせてリグが悶え苦しむ。

もう何日と経過しているはずなのだが、あの魔女の拷問……手慰めは強烈だったらしい。

「セシリーン」

「何かしら?」

「旦那君と魔女が話してたみたいだけど、どんな悪だくみしてたか聞こえた?」

「ええ」

「何で聞こえるの? どんな耳?」

驚く相手に歌姫は笑みを浮かべる。

「ノイエが常に彼の居る方を気にしているからよ。だからすごく簡単なの」

「は~。本当にノイエは旦那君が大好きなんだね」

「そうね」

大好きというよりも愛し過ぎているくらいだ。

ただノイエは自分のその感情を理解していない。故に迷い暴走し続ける。

踊りながら質問して来る舞姫に、今度はセシリーンが口を開いた。

「彼はどうしても貴女に踊って欲しいみたいよ」

「そう言われてもね~。気乗りしないよ~」

シュシュの手を取りクルクル回りながら、レニーラは本当に気乗りしていない様子でそう告げる。

「嘘つき」

「ん~?」

「旦那様が『お願い』って言ったら踊るんでしょう?」

相手の心音から答えを察している歌姫に、レニーラは軽く舌を出した。

「それも気分かな~」

「あら? 貴女は旦那様に従う忠実な妻だと思っていたけど?」

「あはは~。確かにそう言うのも憧れるね~」

でも踊りだけは誰にも命じられず自由にしたいのがレニーラの本心だ。

故に自分の想いを捻じ曲げても……その信念だけは出来るだけ変えたくない。

「でもきっと貴女は踊るわよ」

「ん~? どうして?」

はっきりと断言する歌姫に、レニーラは足を止め彼女を見た。

気を付けながらリグの背を撫でている彼女は、いつも通り目を閉じて緩んだ笑みを浮かべている。

「あの魔女が貴女が踊る最高の舞台を準備するって」

「……へ~」

ニヤリと笑い、レニーラは大きく背伸びをする。

それが本当ならかなり……断然興味が湧く。今までに踊ったことのない舞台が準備されそうだ。

「もしそれが本当なら、踊っても良いかもね」

「ええ。だから貴女は踊るわよ」

クスクスと笑い、セシリーンはゆっくりと瞼を開いて物見えぬ目を相手に向けた。

「私と違って貴女は踊れるのだから……舞姫が舞台を前に逃げたりしないでしょ?」

「あはは~。これでも一度は逃げたんだけどね~」

改めてシュシュの手を取り彼女は踊る。

付き合わされるシュシュはもう息も絶え絶えだ。

「む~り~」

「そんな体力だと旦那君を満足させられないよ?」

「良いよ~。私は~旦那ちゃんと~濃厚な~1回で~満足~できる~女~だから~」

「あはは。1回なんてもったいない。複数回した向こう側に信じられないくらいの気持ちよさが待っているんだよ!」

「本当~?」

「本当本当」

「ん~」

レニーラの言葉に首を傾げつつシュシュは何やら思案する。

そんな2人の様子を眺めながら……歌姫は今度頑張って複数回やってみようかと思った。

「ふなぁ~!」

「あらごめんなさい。リグ」

思考がそれたせいでセシリーンはリグの背中を強く触ってしまった。

余程敏感になっているのか、リグは吐息を吐きながら身を丸めて……何かを我慢するように耐える。

「ねえリグ」

「……なに?」

「一度外に出て彼にして貰ったら?」

もう何日と我慢しているリグはどう見ても準備万端にしか見えない。

「……嫌だ」

「どうして?」

何度か外に出ることを提案しているのだが、リグは頑なにそれを拒否する。

最初はノイエに嫌われるのを恐れてかとも思ったが……どうも違う理由に思えてならない。

現にレニーラがこうして外に出てノイエの許可を貰ってきた以上、あまり出すぎなければ彼女から嫌われることは無いはずだ。

嫌われたくない。

あの可愛い妹に『邪魔』と言われるのは衝撃が大きすぎる。

ノイエ的には何気ない一言だとしても彼女を溺愛している者たちにとっては死の魔法だ。

「大丈夫よ。ノイエは怒らないから」

きっとあの優しすぎる妹は、少し頬を膨らませながらも受け入れてくれるはずだ。

「嫌だ」

それを理解していないリグではないはずだ。けれど頑なに拒否する。

「だからどうして?」

「……ホリーのようになりたくない」

呟かれた言葉に対し、セシリーンは見えない目を遠くに向けた。

「あれは特殊な例よ。あんな風に堕ちる女はそうは居ないわ」

魔力を回復させたホリーは、エウリンカを捕まえて人気のない場所に移動している。

脅迫と言う名の説得を重ね……何やらおかしな道具を作っているようだが、魔眼の中からどうやって作った物を外に出すのかはセシリーンにも分からない。

あの手の変態はそっとしておくに限る。

おかげでノイエの封印の究明などが後回しにされているが、ノイエ研究の第一人者である術式の魔女がまだ大半を液体化したままなので慌てる必要もない。

「大丈夫よ。旦那様の傷を手当てしたのだから、そのご褒美をちゃんと請求すれば良いのよ」

「……そうかな?」

「ええ。彼は正式な申し出であれば誠意をもって応えてくれる。普段はあんな風にだらけているけれど根は真面目な人だから」

「……もう少し我慢してみる」

「そうね」

クスクスと笑いセシリーンはまた相手の背を撫でる。

ファシーは戻って来てからまた深部の方に行ってしまったので、最近はずっとリグばかり撫でているのだ。そろそろあの愛らしい猫も撫でたい。

《尻尾と耳を動かす魔法なんて……誰か知っているのかしらね?》

彼がそれを望んでいると何となく告げたことでファシーは方法を模索しだした。

何度か液体化している術式の魔女の所に通っては、少しでも早く復活するようにと肉片を集めたりしている。

本当にファシーは一途な人間なのだと思い知らされ、それを思う歌姫は胸の内をキュンキュンとさせるのだった。

ユニバンス王国・王都貴族区内ハルムント邸

「ハーフレンがヒルスイット家はのことを調査していると?」

「はい」

メイドの報告にベッドの上で身を起こしたスィークは深く息を吐く。

医者に足の具合を見てもらう都合、下町へ徒歩で出向いたことが仇になった。

発熱し、ベッドの世話になってしまったのだ。

色々な報告が遅れ……そして遂にそのことが彼女の耳に届いた。

「何故あれがヒルスイット家を調べているのか分かりますか?」

「詳しくは現在調査していますが、その件に関しては全て密偵衆所属のメイドたちが当たっていて情報が」

「多少の無理なら許します。早急に調べなさい」

「畏まりました」

一礼しメイドがスィークの私室を出て行く。

こんなことになるのなら下町になど行かず城に行くべきであったと内心で後悔し、スィークは視線を窓の外に向けた。

横になった丸太が動いていた。

運動場として開放されている場所で、丸太を担いだミネルバが歩いている。

あちらこちら骨折していると報告を受けていたが、あんな無茶をするほど回復しているのなら、さっさとドラグナイト邸に戻りあの家の調査をして欲しい。

「ところで誰か」

「はい先生」

控えていたラーゼが歩み寄る。

「アルグスタの屋敷の方はどうなっていますか?」

「はい」

部下から報告書を受け取り、ラーゼは視線を走らせる。

「現在ドラゴン退治と並行して、王妃様と協力し鎮魂祭の準備を進めているそうです」

「鎮魂祭? 現国王の支持集めですか?」

「はい」

頷きラーゼは報告書に書かれているある文章で目を止めた。

「どうやら今回の鎮魂祭では『舞姫』の舞が披露されるそうです」

「そうですか」

クスリと笑いスィークは窓の外に向けていた視線を弟子へと向ける。

「あれはまだそんな隠し玉を?」

「そのようです」

「ですと……」

軽く思案して、スィークは決めた。

「急ぎヒルスイット家を何故調査しているのか突き止めなさい。きっとアルグスタが一枚噛んでいるのでしょうけど」

「はい先生」

重要度が増したと判断し、ラーゼは調査要員のメイドを増強する指示を出す。

「それと近日中に城へ参ります。アルグスタの動向を確認しておくように」

「つまり城で彼に会うと?」

「ええ」

穏やかな表情でスィークは弟子を見た。

「今回の手間を払っていただくとしましょう」

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