軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この泥棒猫が~です~!

「あの日何かしらの理由があって狂ったとしても……彼女が犯した罪は消えない。そして国民が抱いた恐怖の感情もだ」

「それは分かっています」

確かに兄さんの言うことは正しい。

今回ファシーが頑張って北から来た亡者たちを全て駆逐した。けれどファシーの評価はむしろ下がった。原因は……あれ? この原因って馬鹿賢者のせいじゃない?

だってファシーは頑張って亡者たちを駆逐したのに……あれ? 頑張って? 物凄く楽しそうに笑いながら駆逐してたよね? 大虐殺と言っても良いくらいにだ。

ファシーのマイナス評価はマイナスになるべくしてなったのだと思います。

「こういう言い方はおかしいかもしれませんが、僕はファシーの評価を上げたいとは思っていません」

と言うかこれ以上下がらないでというのが本音だけどね。

「上げる気は無いと?」

「はい」

陛下が複雑な表情で僕を見る。

「だって無理でしょう? 仮にファシーがドラゴンをいくら倒しても人々の恐怖は増すばかりで消し去ることは出来ません」

笑いながらドラゴンを刻むファシーの姿に……マイナス評価が増大だろうな。

「だったら今のままで良いと思います。それにファシーも名誉挽回とか望んでいませんしね」

スリスリと頬を擦り付けて来る猫は、たぶん何も考えていないな。可愛いから許す。

「今のままで良いと?」

「はい。ただし僕が責任をもってファシーの刃が国民に向かないようにします」

「誓えるか?」

「何に誓えば良いのか知らないですけど、ドラグナイト家の当主としてシュニット国王陛下に誓います」

「言葉に重みの無い宣言だな」

苦笑して兄様が納得してくれた。

「アルグよ?」

「ほい?」

沈黙していた馬鹿兄貴が、膝に肘をついて前のめりでこちらを見る。

というよりもファシーを見ている。

「お前はいつからファシーを従えていた?」

「……」

いつからだろう? オーガさんに襲われた時にノイエの体を使って暴走した後にファシーが出来て謝ってくれたんだ。部屋の至る所を傷つけて、その様子に増々怯えて傷を増やして……生きた心地はしなかったけどね。

ただ魔法の暴走を止めてから話し合えば、彼女が物凄く臆病で引っ込み思案だと知った。あの頃はそう思った。

ビクビクオドオドしながら話すファシーの様子が可愛らしくて、ついつい頭を撫でたらファシーがされるがままになった。そのまま撫でていたら甘えるようになった。で、仲良くなった。

それ以降は時折出て来ては笑いだそうとして恐怖だったけど、慣れた。

色々あって今ではお嫁さんの1人だ。で、本性はドSだとも知った。

思考が脱線したけど……どう言い訳しよう?

「従えてはいないですね」

「従えていないと? それで?」

「……」

スリスリして来ていた猫は、抱き着いてギュッとしてきている。

猫は自由気ままな生き物だから好きにさせておく。これが正しい猫との付き合い方だ。

「可愛い猫が時折こうして遊びに来るぐらいです」

「……どう言えばいいのやら」

何も言わずにこの会話を打ち切れ馬鹿兄貴。

ジッと視線でそう念を飛ばしていたら、お兄様が手を叩いて待機しているメイドや護衛の兵たちを下がらせる。

メイドさんはポーラを残し退出し、護衛は渋っていたが国王陛下の命令には逆らえない。

全員が退出して扉が閉められた。

「これで話せるか?」

「そういう意味じゃなかったんですけどね」

ただおかげで言い逃れが楽になった。あとで僕の全力土下座を見せれば良い。

問題は対象である先生が液体化しているという話だ。

「アイルローゼに口止めされているんですよ。僕はあの人には逆らえませんから。だから前の時も居ないと言いました」

前回確認された時は否定したしね。

は~い。居ます。ノイエの中にファシーは居ますよ~。

「そう言うことか……あの魔女は何を企んでいる?」

「僕は何も言えませんから『知りません』としか答えられませんよ。ただ彼女は貴族の類を毛嫌いしているので、企みというより嫌がらせだと思いますけどね」

先生ごめんなさい。あとで土下座します。何なら頭だって踏まれます。

決してご褒美じゃありません。先生の怒りを身に受ける所存なだけです。

お兄様は納得したが、馬鹿兄貴はこっちを見たままだ。何なの? 粘らないでよ?

「言えないからね?」

「……ならフレアの一件の時にファシーの精神が操作されていたことは知っていたのか?」

らしくないほど真っ直ぐな言葉と眼差しに……熱血するなよな。

「知ってたよ」

「そうか」

頷き、今度はファシーを見る。

何かを感じたらしいファシーが僕に抱き着きながら、これこれファシーさん。口元が楽しげに歪んでいるからね? 笑っちゃダメよ? 君は可愛らしく甘えていれば良いのです。

顎の下に手を伸ばしてくすぐって誤魔化す。

「誰がファシーの精神をそうした?」

「知らないよ。本人もその時の記憶は無くしているっぽいんで」

「……そうか」

ようやく納得したらしい。

「ちなみに精神操作の魔法を気にする理由は?」

今度はこっちからの質問だ。答えろや。

「……あの日狂って人殺しをしたフレアが精神的に消耗した。そのまま命を絶ちそうな様子に見るに耐えられず、隠居していたバローズ様に頼んで精神を操作した。実際は上書きに近い物だったらしい」

答えが重すぎて……気づけばファシーも顔を上げて馬鹿兄貴を見ていた。

「俺はあれを壊してしまったんだよ。救いたい一心でな……本当に馬鹿な男さ」

「馬鹿でも良いじゃん。どうせ馬鹿なんだしさ」

ドSでもウチの可愛い猫は本当に優しいのですよ。

不安げな目をしているファシーの頭を優しく撫でて、僕は馬鹿兄貴を見つめる。

本当に馬鹿な兄貴だな。フレアさんも師匠に似て大変不器用な生き方してたけど……だから紆余曲折してこんな結びつきになるんだよ。まあ今が幸せならいいんだけどね。

あんなに可愛いエクレアを泣かしたら許さん。

「今が幸せなら過去が何であれ良いと思うのですよ」

「……そんなことを言うお前の方が馬鹿だと思うぞ?」

「気にするな。僕は賢い馬鹿だと自負している」

「言ってろよ」

苦笑する馬鹿兄貴はやはり馬鹿だ。

はい落ち着こうか? ファシーさん。あれの僕に対する悪口は挨拶みたいなものだから怒らなくても良いのです。ウリウリ……ここか? ここが良いのか?

笑いだしそうなファシーを宥めていたら、何故かお兄様がポーラを呼んでいた。

国王陛下に呼ばれたポーラはカチコチに緊張しながら、部屋を出て行った。

何事でしょう?

「アルグスタよ」

「はい?」

「お前に……というより魔女に確認したいことがある」

「あ~」

一番の問題が発生した。液体化している先生はしばらく外に出れない。

ファシーに確認したところ、吐しゃ物よりも水に近い状態らしい。

人間って……そんな状態にまでなれるんだね。

「アイルローゼに会えないだろうか?」

「はっきり言うとしばらく無理です」

「しばらく?」

「はい。ノイエの中でも色々とありまして……彼女はしばらく出て来ません。代わりに僕の警護にとこの子を呼んでくれたのです」

流れるような奇麗な嘘を! きっと僕の前世は詐欺師だったに違いない!

日本で高校生をしていたのは前世と呼んで良いのでしょうか?

「つまり出れないと? しばらく?」

「はい」

重ねて問われると辛いのです。

するとお兄様は顎に指をかけて考え込む。

「困った」

「何事ですか?」

「あれに口止めをされているお前では答えられないことかもしれんが……実は現在鎮魂祭を行うことを勧めている」

ちんこんさい? 一文字消すと物凄い祭りになるね。奇祭として存在してそうだけど。

「私が国王になってから大事が立て続いている」

「あ~」

それを言われると僕としても……ん? つまり僕が考えていたあれを実行できる?

「鎮魂祭って何をするんですか?」

「亡くなった者たちの祈りを捧げる物だ。炊き出しや催しを考えている」

つまり娯楽ですよね? この娯楽の少ない世界で娯楽を与えると?

全体的にどんよりしている王都に『笑顔を!』と考えていた僕の趣旨に持って来いな話じゃないですか!

「しつれいします。おうひさまをおつれしました」

「来たのです~」

控えめのノックからポーラがチビ姫を連れて帰って来た。

全体的に犬っぽいチビ姫は僕に向かい突進してこようとして……何故かファシーと睨み合った。

「おにーちゃんから離れるです~! この泥棒猫が~です~!」

「シャー!」

殴りかかって来たチビ姫に対し、ファシーが猫パンチを武器に迎え撃った。

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