軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歌姫や舞姫が存命なら……

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

気を失い運び込まれたドラグナイト家当主の治療を行うべく、末妹ポーラは医者を招いた。

その存在が知られていることを配慮し、露骨に隠ぺいなどはしない。馬車から降り立った医者の姿を誰もが確認できたことだろう。

小柄だが一部だけ大きい……異国民の女性をだ。

「……ノイエ邪魔」

「出来る」

「無理だから」

「どうして?」

「君は治療魔法が使えないだろう?」

「教えて」

「無理だから」

「どうして?」

「ボクだってこうして全身に術式を刻んでいるから」

「……脱いで」

「無理だから」

「どうして?」

「これは刺青と言って……服を取らないで。皮膚を引っ張らないで」

「……取れない」

「無理だから」

「どうして?」

「そういうものなの」

「むぅ」

長い説得を終えリグは相手の傷口に舌を向けた。軽くひと舐めして舌で血を掬い魔法を使う。

その血から治す場所の正しい状態を確認し、全身の術式を発動して傷口を舐める。

ゆっくり丁寧に……相手が愛しい人だと思うと胸の奥がキュンとしてくる。

舐めながらそっと相手の頭に手を伸ばし、

「ダメ」

「……邪魔をしないで」

「それはズルい」

「だから邪魔を」

「大きいのはズルい」

「手を離してノイエ」

拗ねるノイエが背後から両手で掴んだ胸を開放してくれた。

すると丁度中間に居た彼の顔を左右からビタンと挟んで固定する。

「むぅ」

「仕方ないよ。まずは手当てが先」

「終わったら」

「ん?」

「終わったら私がする」

「……分かったよノイエ」

クスリと笑いリグは手当てを優先する。

表情が無く何を考えているのか良く分からないノイエだが、こんな風に露骨に拗ねたりする。

その様子が可愛いと思ったりもするが、治療の邪魔はして欲しくない。

丁寧に舐め続け……治療を終えたリグは魔法を解いた。

今日の治療では魔法を一回も使っていない。もしかしたらと思って温存しておいて良かった。

温存……医者としては間違っているのかもしれないが、でもリグは迷うことなくそれを選択した。

彼以外の異性に対して使う気が全く湧かないのだ。魔眼の中の仲間相手にも嫌だ。

大きく息を吐いて寝かされている彼の横に座る。

すると上半身裸……というか迷うことなく全裸になったノイエが彼に抱き着いた。胸で顔を挟むようにしてだ。

「傷口は触らないで」

「はい」

優しく頭を抱えるようにしているノイエは余程彼のことが大切なのだろう。

そんな様子を見ていると、納得する自分と嫉妬交じりの自分にリグは気づいた。

《ボクも人を好きになれるんだな……》

嬉し気に息を吐いて、リグは視線を巡らせた。

「君には無理だと思うよ?」

「むりですか?」

「あ~うん。ごめん」

上半身裸になっている小さなメイドが必死に左右から胸を寄せている様子が直視できない。

『持っている人には分からないのよ!』と何度も言われた言葉の意味が痛いほど胸を貫く。それと相手の……彼らの妹の冷たい嫉妬交じりの視線もだ。

「うらやましいです」

「……本当にごめん」

「わたしもおおきくしたいです」

「大きいのも……何でもないです」

また絶対零度の視線で見つめられリグはその口を閉じた。

「小さくても出来る」

「はい?」

声に振り返ればノイエが彼の顔から離れていた。

パタパタと胸元を仰いでいるのは、彼の鼻息で蒸れたのだろう。

「こうして」

「ねっ! ねえさまっ!」

妹を捕まえ持ち上げて彼の顔に押し付ける。

グリグリと……薄い胸を押し付けた。

「アルグ様、痛そう」

「ねえさまっ! わたしのむねのおくもいたいですっ!」

「大丈夫? ……ダメそう」

「どこをみましたか? ねえさま?」

「防御の薄い場所」

「じまんですかっ!」

ジタバタと暴れる妹をノイエはそっと抱き寄せる。

自分の胸で少女の顔を挟んで黙らせた。

「これぐらいは必要」

「やっぱりじまんだ~!」

「自慢じゃない。事実」

「うなぁ~!」

バタバタと暴れていた少女が不意に動きを止めた。

何事かと引き剥がしたノイエは、それが出来ない事実に気づく。

「あは~。美人の胸に包まれて死ねるなら本望!」

「……離して」

「嫌よ! この胸を堪能したいの!」

右目に模様を浮かべた妹にノイエはそれを引き剥がそうと腕を伸ばす。しかしぴったりと張り付いた妹は剥がれない。

しばらく醜い攻防を続けていた2人は動きを止めた。

「何かズルい」

「よね」

「……」

暴れる2人を尻目にリグは彼の腕に抱き着いて甘えていた。

ギュッと抱きしめて……その姿が見つかったのだ。

「大きすぎる」

「よね」

「……ズルい」

「ですよね~」

2人の様子に身の危険を感じたリグは寝たふりを止めた。

「胸は個人差」

「でもズルい」

「よね~」

「2人とも落ち着いて」

ワキワキと指を動かし怪しげな動きを見せる2人にリグは戦慄した。

危険を感じる。身の危険だ。と言うか貞操の危険だ。

「ほら? ノイエ。彼を胸で」

「自慢?」

「違うから!」

何を言っても効果は無いらしい。

身の危険を感じてギュッと彼の腕に強く抱き着いているのもマイナスらしい。

ゆっくりと腕を解いて……せめてもの想いで彼から離れる。

怪我している彼に何かあれば後悔してもしきれない。

グッと下唇を噛んでリグは覚悟を決めた。

と言うか言いたい。声を大にして言いたい。

「大きいことの何が悪い! ボクだって好きで大きいわけじゃない! 大きいんだから仕方ないじゃないか! 小さくて嘆くなら大きくする努力をして!」

言い切って満足した。もう悔いはない。

キョトンとしているノイエは言葉の意味を理解していないのだろう。だが隣に居る小さな妹は……完全にその目を逝かせてボキボキと指を鳴らしだす。

「良く言い切った。その根性に免じて」

ニヤリと笑う。

「死なない程度に加減はしてあげる。加減はね」

その日リグは最終的に腰を抜かした状態で魔眼へと戻って行った。

後日ノイエがおかしな技を身に着け……彼が死ぬほどの目に遭ったのは言うまでもない。

ユニバンス王国・王都王城内

「報告は以上か?」

「はい。陛下」

「分かった」

疲れ果てた様子で秘書官からの言葉を聞き終えた国王シュニットは、眉間に指をやり軽く揉んだ。被害は甚大だ。けれど最悪の事態は避けている。

どれもこれもあの厄介ごとに愛されている弟の事前の配慮のおかげだ。ただもう少し情報が早ければ……言っても仕方ない。

「兄貴。良いか?」

「……ハーフレン?」

挨拶も無しにやって来た弟に、シュニットは視線を向けた。

「人払いはしたよ。ずっと王様をしている方が疲れるだろう?」

「……そうだな」

で、シュニットは兄に戻り半眼となった。

弟が何故かぐったりとしている王妃を抱えていたからだ。荷物のように脇に。

「何かしたか?」

「ああ。アルグの所の若夫婦とウチの双子と一緒にな」

「……話を聞こうか」

椅子からソファーへと移動し、シュニットは弟から愛らしい伴侶を受け取り、優しく抱いて膝を枕にする。

無邪気に抱き着いて太ももに頬擦りする王妃は……彼の娘のようだ。

「これを企んでいたらしい」

「それは?」

弟が取り出した紙を受け取り……シュニットは微かに笑う。

「大規模の鎮魂祭か」

「ああ」

持参したワインをグラスに注ぎ兄の前に出してから、ハーフレンは瓶に口をつけてそれを仰ぐ。

弟が毒を盛るなど露ほど考えていないが、その手の配慮が出来るのが弟のハーフレンという人物だ。

「誰かが国王になってから大事がこれで三度だ。アルグを嫌う過激な貴族は一掃したが、王家を嫌う様子見している貴族は裏で手を回している」

「私が国王になったから騒ぎが続くと?」

「それと現王家が災いを呼び寄せているとな。まあ主な原因はアルグの馬鹿だが」

「言うな。あれはあれで最小限の被害に抑えようとしている」

自身が怪我を負っても最前線で厄介ごとと向き合える弟をシュニットは高く評価していた。

もう少し大人しければ文句は少ない。

「炊き出しと……」

王都民に振る舞う食事の手配など良くぞこの短時間でここまで計算したとシュニットは思う。

本当に王妃は優秀であるが……優しくシュニットは伴侶の背を撫でた。

「問題は鎮魂の目玉だな」

「昔であれば歌や舞いか?」

「ああ。歌姫や舞姫が存命なら……」

不意にハーフレンは言葉を止めた。

王妃たちも鎮魂の目玉にと色々な案を出していたが、どれも弱い。

本来なら歌や舞いが良いのだが、誰もが“天才”と呼ばれた者たちのそれを見てしまっている。故に下手な人物を舞台に上げられない。比べられてしまうからだ。

「兄貴。アルグがどちらかを隠している可能性は?」

「……あるかもしれない、な」

だからこそ王妃は目玉の部分を『アルグスタお兄ちゃんに一任です』とだけ記していた。

国家機密であるから何も伝えていないのにそれに気づいている王妃は本当に……。

「全てはアルグスタが復帰してからだな」

「ああ。でも準備は進めるぞ? 陛下」

ニヤリと笑い弟は瓶の飲み口を国王へ向ける。

グラスを手にしたシュニットは、軽くグラスの縁を瓶にあてた。

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