作品タイトル不明
憎い……とにかく憎い!
ユニバンス王国・王都内スラム廃墟
何が起きたのか分からない。
彼は必死に手足を動かそうとして、全身に燃えるような痛みを覚えた。
「はに、は……」
声を発しようとして気づく。
顎がガクガクとして動かないことに。
《何が……?》
理解できないままに彼は動く。
視界が全く開けない。
顔に何かか乗っているのか重さを感じる。
だが生きている。
生きていればまだこの場を逃げることが出来る。
《そう。逃げられさえすれば》
必死に足掻く彼は全身を震わせてとにかく光を求める。
と、不意に全身に圧を感じた。
上から圧し掛かって来る激しい圧だ。
「わらひは~!」
「潰れたかな?」
ウルトラサウロスの上半身がエグイ惨状を作り出した。
あれで生きていたら誉めてやろう。
多分生きててもトラウマものだ。グッチョリとしている。
「ノイエ?」
「はい」
「都度セシリーンに確認取るのも意外と厄介なんだよな」
歌姫であるセシリーンは魔法使いではないので、簡単にノイエの体を使うことはできない。舞姫のレニーラも同じ問題を抱えている。
ただ舞姫である彼女が外に出てきても僕からの搾取に燃えるので回数が少ない方が嬉しい。
ん? レニーラ? 舞姫?
「ん~。そろそろ~魔力が~旦那ちゃ~ん?」
「シュシュか。ちょっと待ってて」
僕の脳裏に何かしらの何かが浮かんだんだ。
「無理~」
クルっと回って僕の前に来た黄色のノイエがキスをしてくる。
「まだ~生きて~るって~」
スッと色が抜けて本来のノイエに戻る。で、迷わずキスして来た。
「グギギッグギッ! 憎い……とにかく憎い!」
遠くから恐ろしい歯ぎしりが。怖い。怖すぎるって。
「ノイエ。義姉さんもキスして欲しいって」
「はい」
お子様には見せられないような表情で悔しがる姉の元に出向いたノイエが、両手で頬を包むとその唇にキスをする。
親密度なのか良く分からないけれど、基本ノイエは親しい人が相手だと唇に行くな。
「はわっ!」
「もう一回?」
「はむっ」
狼狽える姉を逃さずノイエが追撃をかけた。
再びのディープだ。今度は首に腕を回して貪っている。
あれはあれで眼福である。
美人2人のキスシーンとか最高だと思います。
「はわわ~」
完全に腰を抜かした義姉に抱き着いてノイエが、チュッチュッとキス魔と化した。
それは良い。今は……なるほどなるほど。あとでホリーと相談だな。
「よし纏まった! で、まだ生きているらしい!」
ならば潰すしかない。何故なら視線を向けないようにしているが、僕のトラウマが地面を這って接近して来るのだ。どんなイジメかと!
「ノイエっ!」
「なに?」
振り返った彼女の様子に軽く戦慄した。
恍惚とした表情で跪いている義姉の頬に手を当てて……君は何をしているのですか? お義姉さんが女というより雌っぽい表情になっちゃってるよ?
それを見て喜ぶのは同性愛者で有名なミャンぐらいですから!
「お義姉さんと仲良くしてないで、あっちのあれをさっきと同じ場所に投げてくれる?」
「今はダメ」
まさかの拒絶ですと?
「何で?」
「お姉ちゃんがもっとって」
余りの衝撃発言に視線をお嫁さんから義理の姉へ。
ぼ~っとした様子で中空を見ていた義姉が、ハッと気づいて慌てて立ち上がった。
「違うのよ! ちょっとノイエと最後の記憶をって!」
「……最後がそれで良いんですか?」
「…………ごめんなさい」
相手の気持ちは微塵も理解できないが、最後に妹と仲良くするのは悪いことじゃない。きっと悪いことじゃない。
変な性癖に目覚めたっていいじゃないか……人間だもの。
「おかしな方向で納得しないで!」
「大丈夫です。僕は色々な方向に理解のある男ですから……ええ」
「違うの~!」
必死に自己弁論する義姉からお嫁さんに視線を向ける。
「ノイエ」
「はい」
「義姉さんは何て言ってるの?」
「……きもち、もごごっ」
咄嗟に動いた義姉がノイエの口を塞いだ。
「何でもないから」
「そう言われても?」
「何でもないから!」
「分かりました」
視線で人を殺しそうなほどの凶悪な何かを向けられたのであっさりと降参しておく。
からかうのも命がけとはこれ如何に?
「じゃあもうキスしなくて良いならノイエさん」
「……はい」
「あれを向こうに、おや?」
遊んでいる内に無残な死体の間から何かが這い出してきた。
頑張るな爺? 今の君はモザイクが無いと見れた物じゃないよ?
「ふひゃけるはっ!」
はい? 顎でも外れたのか? 下顎がぶら下がって見えるんですが?
「ころひてやるっ!」
おーおー。意外と根性が座っている爺だな? 普通なら敵前逃亡だろうに?
だが爺はまた何やら力みだすと……もう飽きたな。
えっと……これで良いか。
足元に落ちている端材のような木材を拾い上げる。僕はさっき新しい何かを発見した。
問題は意外と魔力を使うから連発は無理だけどね。
「もう飽きたぞ爺!」
思いっきり振りかぶって端材を爺が居る方へと投げる。
と同時に腕のプレートに魔力を走らせて魔法を使う。
重力の魔法を得た端材は空中でクンッと向きを変えて下へと急降下する。
それも現役のプロ投手がビックリするほどの速度でだ。
「みぃぎゃぁ~!」
端材が爺の右足にヒットして膝を砕いた。
大絶叫で地面に伏した爺は足を抱えて……要モザイクの中を転がり回る。
「もう終わるとしようよ。いい加減疲れたし」
本日の僕は精神的にも肉体的にも限界です。
何よりこれからしばらくノイエだけを愛さなくてはいけないと言う一大事が待っているのです。
もう帰って寝たい。でもノイエとの約束って今夜からだっけ?
早く帰って休憩しないと死ぬ。で、やりすぎたファシー対策も必要だ!
回収した魔剣を手に転がり回る爺の方へと歩き出す。
途中ドラゴンゾンビが襲い掛かって来るけれど、エウリンカが作った魔剣は自動迎撃だ。
それに僕にはノイエという最強のお嫁さんもいるしね。何も怖くない。
「足がっ! 私の足がっ!」
「今更足の心配か?」
倒れた時に顎が戻ったか?
相手の胴体を踏んで動きを止める。
ビクッと全身を震わせた爺が恐る恐る僕を見た。
「……助け」
「断る」
答えは最初から決まっている。
この爺の魔法のおかげでたぶんこの王都内にも被害出ている。僕らが目立ち狙われやすくしていても絶対に被害が出ている。
王族だからとか、貴族だからとか、そんな気持ちは微塵もない。
僕が許せないのは昨日まで普通に存在していた生活を踏みにじった爺の行為だ。
「死んで亡者たちの仲間になれよ」
「……嫌じゃ~!」
大絶叫だ。
ここまで生き恥をさらすのは凄いな。
まあ僕もそっち側の人間だと自負しているけどね。
「殺せ~!」
「はい?」
爺の言葉に一瞬僕が躊躇った。死にたくないの後に殺せって……?
「アルグ様」
「はい?」
横に来たノイエがドンと僕を押す。
奇麗に吹き飛んで……要モザイクの海の中へ。
ただズドン! と何かが僕の立っていた場所に落ちてきていた。
最初に僕を追い回していた巨躯の亡者の拳だ。
それは良い。それは良いんだけどね?
本日のノイエさんはどうも日頃のうっ憤を大放出しているらしい。
押すにしても力加減を間違ってない? このままだと……ほらね?
ガツッと頭を崩れた建物の壁だった物らしき石にぶつけた。
意識が遠のくよ~。当たり前だけど~。
僕の意識は完全に闇の中に落ちた。
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