軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あれは……みんなの

ユニバンス王国・王都内スラム廃墟

「むぅ」

殴っても殴っても湧いて出て来る存在にノイエは嫌な気持ちを抱えていた。

経験上……これは抱えない方が良い気持ちだと知っている。

これが集まると黒くなる。

黒くなると嫌なことが起こる。

そうするとみんなが居なくなる。

失いたくないものが多くなったノイエとしては抱えたくない。

いつものようにドラゴンを殴る方が良い。

あれを殴れば殴っていれば、周りは決して黒くならない。明るくて優しい白になる。

それが良い。それが良いのに……。

「むぅ」

視線を向ければ彼と姉が遊んでいた。

いつものように地面に座り身を屈めている彼の頭を姉が踏んでいる。

凄く楽しそうだ。出来れば一緒にしたいのに……あっちの方が明るくて白いから。

「むぅ~」

軽く唸って少し強めに力を振るう。

目に見える嫌な流れを強引に正そうとするが、ふと“不安”になる。

姉たちは今殴り飛ばしている存在と同じ色と形をしている。彼の内にある色も同じなのだ。

「む~!」

全力はダメだ。

力任せに流れを正したら、もしかしたら“みんな”が消えてしまうかもしれない。

誰も居ないのはもう嫌だ。嫌なのだ。

よくよく見て確認をする。

彼の方は良く分からない。たぶん大丈夫そうな……怖いからやっぱりダメだ。

ユーは平気そうだ。何と言うか色が濃い。形もはっきりしている。

が、お姉ちゃんはもう消えてしまいそうだ。少し触れたらたぶん消えてしまう。

だから甘えたいのに凄く怖い。触れたら消えてしまうかと思い怖い。これが怖い?

「アルグ様」

「……ちょっと待ってね」

「むぅ」

声をかけてみた。

こんな時はいつも彼がどうにかしてくれる。

でも今はダメだ。彼はまだ姉と遊んでいる。

姉がグリグリと頭を踏んで、ユーがそれを止めようとして殴られた。頭が飛んだ。

ジタバタと地面で暴れる彼は凄く楽しそうで……3人でズルい。

「アルグ様」

「もうちょっと!」

「……もう止めた」

みんな遊んでいるのに自分だけ混ぜれないのは面白くない。

ノイエは殴るのを止めて3人の元へと軽い足取りで向かいだした。

「ノイエがこっち来てますから!」

「煩い! ノイエをあんな風にして! 私のお尻も触って!」

「大変に癒しの効果のある良いお尻でした! ありがとうございます!」

「開き直るな~!」

激高した彼女が後頭部に押し付けていた足を振り上げる。

その隙を伺っていたのだよ!

慌てて頭を動かすと、義姉の足があり得ない速度で降って来た。

本気だ。本気で殺しに来ている。

「助けてユーリカ! ……ちっ」

使えない姉だな? 頭を探して彷徨わないでくれるかな? どんなコントだよ?

ウロウロとしているユーリカは使い物にならない。ならばやはりここは愛しい人だ。

「ノイエっ!」

「はい」

何か危ない気配を感じて僕はその場を離れる。

とても楽しそうにアホ毛を震わせたノイエが、彼女の足の裏が、地面を強く踏んだ。

僕の居た場所をだ。

「ノイエさん?」

「私もする」

「遊びじゃないから!」

「……違うの?」

「正解よノイエ。さあ一緒に」

「義姉~!」

姉妹揃って僕を踏もうとするその精神に苦情を申したい。

正式に抗議をと思い立ち上がろうとしたら……僕の目にとても嫌な物が。これがトラウマか?

「何であれが居るの~!」

思わず絶叫した。

何故ならばいつぞやの三つ首のキング様の姿が見えるのです。

ただあれには足が無かった。故に現在は地を這いこちらへとやって来る。

ボロボロになった羽では飛べないらしい。

それは良い。問題はあの姿を見たら僕の全身が震えるのです。

「キング様怖いっ!」

頭を抱えて蹲る。

嫌な記憶が……あの地獄のような4日間が頭の中をオーバーラップするのです。

怖い。怖すぎる。あれが姿を現したと言うことは、残りの3つもか? もう嫌だ!

「大丈夫」

「ノイエ?」

そっと頭を撫でられた気がして顔を上げると、ノイエが右手を握り拳を作っていた。

「アルグ様が嫌なのは全部消す」

「ノイエ~!」

やっぱり僕のお嫁さんは最高なのです。

僕はノイエと死ぬまで一緒に居ます。死が2人を分かつまでずっと一緒なのです!

「ダメ」

「はい?」

「ずっと一緒」

クルっとこっちを向いたノイエが真っすぐな目で僕を見る。

「死んでも」

「了解です」

当たり前だ。僕は絶対にノイエと一緒のお墓に入るのです。

「……もうお姉ちゃんは要らないのね」

「お姉ちゃんも一緒」

「ノイエ~。我が妹よ~」

ギュッとノイエに抱き着い義姉が、無造作に投げ捨てたモノに僕は視線を向ける。

あの叔母様がようやく倒したにゃんこだ。尻尾がたくさんあるにゃんこだ。それの顔が背中に向いた状態で動きを止めている。

この義姉もおかしなくらいに強い気がします。

「ってあっちにでんでん虫が~」

ルッテを殺そうとした独楽のようなでんでん虫が!

だいぶ腐っていますけど……ちょっとノイエさん? ワンハンドで掴んで……投げたね。で、卵のようにグチャッと潰れた。動いているけど殻を無くしたでんでん虫って気持ち悪いな。

何よりこの姉妹は最強か?

「お姉ちゃん」

「なに?」

「放して」

「嫌よ」

「ダメ」

「どうして?」

「……消えちゃう」

すると義姉がこれでもかとグイグイと妹を抱きしめた。

「平気よ。ノイエがこの状態でおまじないを使わなければ」

「……本当?」

「本当よ」

「分かった」

「分かっちゃダメ~!」

流れるような会話に思わずツッコミを入れていた。

主力のノイエが行動不能になったら誰があれを倒すのさ?

「邪魔するなら潰すわよ?」

「ノイエの生きがいを奪わないで~!」

身の危険を感じて、失ってはいけない場所を両手でガードする。

ノイエの姉たちと敵対すると自然とガードが下がるのはどんな仕様でしょうか? ボクシングなら僕の顔は殴られ放題だよ?

「ダメ。お姉ちゃん」

「どうして?」

「あれは……みんなの」

ノイエさんノイエさん。あれってどれですか? もしかして僕のことを指してますか? 本日の君は中々にぶっちゃけてるよね? 実は意外と不満が積み重なってましたか?

そうでしたね。姉たちが遊んでノイエさんは満足してなかったんでしたね。

頑張りますから! 僕の本気をノイエに注ぎますから!

ブルッとアホ毛を揺らしたノイエがやる気に満ちた目をした。あれはそう言う目だ。決して貪欲な肉食獣の目ではない。ホリーとは違う。絶対に違う。

「だから潰すのはダメ」

「……分かったわ」

義姉さん義姉さん。その物凄く残念そうな表情は何ですか? 渋々な感じが半端無いのですが?

ただ1つ分かったのはノイエの仲裁のおかげで潰されることは回避された。

「お姉ちゃん」

「なに?」

「ずっとは嫌」

「そうよね~」

問題を回避したはずが、何故か姉妹の視線が僕を見る。

背後に何かあるのかと頭を動かすけれど……彷徨う頭部無しのユーリカが居た。あれですか?

「ユーリカ。もう少し右」

「なぁ~! 踏んだ! 自分の足が自分を踏むところを見た!」

それはとても貴重な体験だろう。そんな奇跡が出来るのは亡者ぐらいだ。おめでとう。

「で、2人してどうして僕を?」

視線を戻したら2人の視線は僕を見たままでした。

諦めよう。どうやら僕らしい。

「アルグ様」

「はい」

「あれ止めて」

「……」

主語が無いのに何かが伝わった。

「出来ないの?」

義姉の脅迫が追い打ちでやって来る。

阿吽の呼吸と言うかこの畳みかけは姉妹だからなせる業か?

「止めるって……術者が死んだら普通止まるんじゃないの?」

「止まってないわね」

「だったら術者が死んで無いってことだ」

大変簡単な答えでした。

「ノイエ~」

「はい」

「あそこに向けてそこの迫りくる大きいのを投げられる?」

「出来る」

「なら宜しく」

自重に耐えられず体の半分を失って迫って来るウルトラサウロスに接近したノイエが、簡単に持ち上げて投げ飛ばした。

「おまけの魔法で!」

腕のプレートを発動させ、飛んでいく半身に重力の魔法を付与する。

ビックリな落差を見せてウルトラサウロスが瓦礫だらけの場所に落ちた。

ズドン! と地面を震わせて……これでもまだ生きてたら笑ってやるぞ? あの爺。

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