軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

両手に花

「両手に花ですかな」

「そう見える?」

「……子供をあやす父親にしか見えませんね」

この状態だと祖父にしか見えない相手が薄く笑って額を叩いた。

馬鹿兄貴の副官を務めているコンスーロの爺さんだ。

平民の出だけど実力で現在の地位まで登り詰めた叩きあげな武人さんだ。

今回は僕らと共に来た近衛の兵士たちの面倒を見て貰う。って……一緒に来た兵士さんたちがどう見ても新人臭いのよね。

「どうしてノイエの小隊の人とか連れて来れなかったのかな?」

「この時期はどうしても休暇などの都合もありますし、休んでいない者たちも待機所の工事の警護をしていますか」

「だからって新兵さんばかりで平気?」

僕の問いに爺さんは苦々しく笑う。

「大型のドラゴン相手では熟練兵とて見学しているしかございません。彼らはこの船とアルグスタ様の警護に居るようなものです」

「僕の警護は大丈夫なんだけどね」

「奥方がその様な状態でも?」

「……こんな状態でもノイエが護ってくれると信じているからね」

そっと彼女の頭を撫でる。

僕の膝を枕にして寝ているノイエの顔色は正直良く無い。

ついでに言うと、ルッテも隣で空を見上げてうすら笑いを浮かべている。

2人とも船酔いで完全にダウン状態だ。

「まあハーフレン様の心配りと思うて我々に警護させてください」

「文句を言ってる訳じゃないんだけどね」

こちらの気持ちを察してコンスーロの爺さんは静かに離れていく。

前回の襲撃事件の時の被害の数を僕は忘れられない。

先行していた20人の密偵と警護についていた騎士2人が亡くなっている。

生き残った騎士2人も1人は腕を失い、もう1人は片目を失っている。

それがこの世界の普通だと言われても胸に来る訳で。

サワサワとノイエの頭を撫でて気持ちを落ち着かせながらそっと空を見上げる。

完全武装とかしても僕の場合たぶんダメだろうな。ならやはり魔法の方をどうにかして自分の身ぐらい守れるようにしないとダメだ。

ノイエだって僕を護ろうとしていつ怪我をするか分からない。治ると言っても傷つく彼女を見たくない。

「帰ったら魔法の勉強するかな」

自然と口から出た言葉に……ノイエが片目を開いて僕を見ていた。

船旅は無事に終わった。

川を3・4時間下るだけのことだけど、帰りも船旅になるんだよね?

ってどうやって流れに逆らって上流に登って行くのかとても気になる。

船着き場には迎えの馬車が来ていた。

このまま海岸沿いの砦まで移動して、後はドラゴンが出て来るのを待つだけだ。

「ん~。とりあえず何も無さそうですね」

「そうなの?」

「はい。この馬車の周りも、あと海の方は……小さいのは居ますけど大型は居ないですね」

「ちょっとルッテ。行って呼んで来て」

「無茶言わないで下さいよ~」

片目を閉じて祝福を使っている彼女は、ボタボタと額から汗を溢す。

サウナにでも入ってますかと言いたくなるほどの発汗量だ。

「お菓子ばかり食べてるけど……水分とかは?」

「飲みますよ。一度飲み忘れて倒れてから気を付けてます」

よいしょとばかりに水筒を取り出して彼女は一気飲みする。

良く食べて良く飲んで……彼女の成長が著しい理由が分かった気がする。

ノイエの場合は良く食べるけど消費も激しいしね。

隣に座ってパクパクとお菓子を食べているノイエの頭を撫でる。

フルフルと足を振りながらお菓子を食べるのは行儀が悪いけど、ノイエが可愛いから大目に見よう。

「それで今夜は砦の方でご宿泊?」

「あれ? 違いますよ」

「そうなの?」

「はい。そっちは正規の予定ですね。私たちはこのまま砦の手前の別荘に直行です」

ポリポリと焼き菓子を食べていたルッテの言葉に僕は疑問符を浮かべる。

「また何か企んでるの?」

「違いますよ。ただ貴族の中には他国と繋がっている者がいることが判明しているので、念には念をとコンスーロ様が言ってました」

「なら良いんだけどね」

またあの大女の襲撃とか受けたら泣くよ?

流石に向こうも一度逃げ出しているから簡単に戻って来ないと思うけどさ。

「なら僕らはその別荘で宿泊するのね?」

「ですね」

「ふ~ん」

ん? 別荘?

「その別荘って誰の?」

「えっと……確か王家所有だったと思います」

「……」

「どうかしたんですか?」

「別に」

前回行った王家所有の別荘は温泉付きだった。

だからって今回も温泉があるとは限らない。限らないけど……ちょっと期待している僕が居る。

「ある意味徹底してるな」

フワフワと漂う湯気は間違いなく温泉だ。

ユニバンスの王家は、温泉地に別荘を作る決まりでもあるのか?

だが敢えて言おう。大いに許す!

「わちっ……意外とこっちの方が熱いぞ」

ゆっくりと温度に慣らしていく。

左腕には包帯を巻いたままだけど気にしない。そんな贅沢が許される立場です。

「あ~。やっぱり良い」

軽く右手でお湯をすくって肩にかける。

まだ皮膚が突っ張る感じがするけど背中の傷はだいぶ良くなった。

左腕の方も思いの外早く治っている。これってノイエが僕に施している術式が関係してるのかな?

本人に聞いても『分からない』の返事しかないし……まっ気にしないが一番か。

「あの~。アルグスタ様~」

「ん~?」

「隊長が裸を隠そうとしないんですけど」

「好きにさせて」

「は~い」

脱衣所から解き放たれたノイエがかけ湯をしてから僕の隣に来た。

(c) 2018 甲斐八雲