軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの異世界魔法は彼の切り札だ!

ユニバンス王国・王都内スラム廃墟

「にょっは~!」

「む」

地面からワラワラと伸びて来る腕は収穫前のもやしのようだ。

そう表現していないと耐えられない。正直言って嫌がらせかただのイジメだ。

必死に回避する僕の横で、表情を無にしたノイエがタップを踏むように回避している。

「アルグ様」

「なに?」

「楽しい?」

「楽しくない!」

どうやら僕が遊んでいるように見え、自分がやってみたけれどつまらないっていう不満か?

ああ。面白くないわっ!

「ノイエ!」

「はい」

「僕を抱えて一時離脱!」

「はい」

スッと移動して来たノイエが僕をお姫様抱っこする。

どんどんヒロイン属性が増している気がして来た。お嫁さんにではなくて夫である僕の方が。

トンットンッと瓦礫を足場に逃げ出したノイエは、廃屋の上に降り立った。

「ほほう。今度は逃げると?」

「うっさいわい!」

僕らの一時避難に枯れた爺が非難してくる。

「それよりも……そちらの化け物は不可思議な魔法を使う様子。異世界の物かね?」

「ちょっと待て? 誰が化け物だって?」

反射的に言い返していた。と言うかイラっを通り越して殺意しか湧かない。誰が化け物だと?

抱きかかえられていたノイエの腕から離れ廃屋の上に立つ。

嫌な顔して笑う枯れ木に僕はゆっくりと顔を向けた。

「もう一度聞く。誰が化け物だって?」

「貴殿の横に居る白い異形ですとも。私は亡者を扱うが、貴殿は異形の化け物を操る。下に恐ろしきはその方法かと? どうすればそのような化け物を作り出せるのか知りたい物ですな」

クツクツと爺が喉の奥で笑う。

「色で扱う魔法を制御しているのですかな? 先ほどまでの黄色は中々に厄介でしたぞ」

「……」

「何ですかな? どうも最近は耳が遠くて」

わざとらしく自分の耳に手をやる爺に対し、僕はスゥっと大きく息を吸った。

「お前も亡者のお仲間だから同情して亡者たちが従ってくれているだけだろう? 大した魔法でもないくせに偉そうに……死んで出直して来いよ。この三下が!」

「……ほう。笑わせる」

相手の表情から笑みが消え、ただ静かにこちらを睨んでくる。

「なら一族最強と呼ばれし力を見せてくれようぞ」

ガッと両手を胸の前で組んで爺が何やら踏ん張りだす。

便所だったら他所でしてくれ。

「お前もその横の化け物も呆れるほどの亡者たちを引き連れている。特に恨みの強い者たちを呼び出し……そしてその者たちの怒りで死ぬが良い!」

辺りにひんやりとした空気が広がり、僕はただそれを見ていた。

今居る廃墟をグルッと囲うように亡者たちが立ち揺れている。

たぶんこれがヤーンの一族の最強の魔法なのだろう。

「笑わせる」

「アルグ様?」

呟く僕の手をノイエが掴んだ。

「心配いらないよ」

だって僕は何度も見ている。

「所詮はただの幻だ」

「なはぁ~」

「なに逃げだしてるのよ!」

「むり~」

戻って来るなり床に延びたシュシュは……そのままコロコロと転がる。

飛んできたレニーラは空振りした自分の足を見つめ、逃げた標的に目を向けた。

「旦那君とノイエに何かあったらどうするのさ!」

「でも~無理~」

「逃げるな~!」

ダンダンと音を響かせレニーラはシュシュを踏もうと追い回す。

床を転がるシュシュの回避は見事な物だ。コロコロと転がり全てを避ける。

しばらく2人は追いかけっこを続け……並んで壁に寄りかかり、座って外の様子を見始めた。

「ここではいつもあんななのかねぇ~?」

「ええ。騒がしいでしょ?」

「それで済ませる歌姫も大概だと思うけどねぇ~」

今見たことに呆れながら、ティナーはノイエの目が見ている世界を見つめる。

ノイエを化け物と呼ばれ怒ったらしい彼があのハルクと正面切って言い争っているのだ。自分の祖父が決して戦うことはするなと言っていた相手とだ。

「彼は勇猛なのかねぇ~?」

「旦那様?」

「そうだねぇ~」

「違うわよ」

即答して来る歌姫にティナーは視線を向ける。

彼女はふと自分の足に手を伸ばし……何もない所を撫でてからその手を止めていた。

「いつもと違うと違和感があるわね」

苦笑しセシリーンもティナーに顔を向けた。

「彼は基本臆病よ。ただノイエへの悪口を決して許さない」

「……愛しているんだねぇ~」

「ええ。聞いてて恥ずかしくなるくらいに」

クスクスと笑いセシリーンはその顔を外の世界へと向ける。

「それと彼は自分の『家族』への暴言も許さない」

「ノイエ以外にもぉ~?」

「ええ。つまり私たちに対する暴言よ」

「……」

言い切る歌姫の表情は何処か柔らかく、まるで恋する女性のそれにも見えた。

「だから彼はもう止まらない。どんな恐ろしい魔法を相手が使ったとしても止まらない」

「……それで臆病とは信じられないねぇ~」

「そうね」

クスッと笑い歌姫はまた顔を動かし、見えはしない目を向ける。

壁際に存在する平べったい意志のような物の上につま先から人の足が姿を現した。

足から腰へ……そして上半身と姿を見せ、最後は栗色の髪で顔を隠した少女の様子な存在が浮かび上がった。

「おかえりなさい。ファシー」

「……なぁ~」

何処か恥ずかしそうにひと鳴きした……確かに猫に見える存在は、トコトコと歩いて歌姫の傍で蹲った。

帰宅途中で魔力が切れてファシーは強制帰還して来たのだ。

宝玉の方は主人の代わりにリスたちが運んでいる。本当に有能なファシーの手足たちだ。

「あら? 私の足を枕にしないの?」

「……いい、の?」

今にも泣きだしそうな声を出す彼女に対し、セシリーンはポンポンと自分の太ももを軽く叩く。

「ここに何か居てくれないと私の手が撫でるものを求めて空振りするのよ」

「……」

無言で床を這って近づいたファシーは、セシリーンの太ももに頭を預ける。両手を太ももに回し抱き着き甘える仕草をしめす。

「いっぱい楽しめた?」

「……足ら、ない」

「あらあら。いつからこの可愛い猫はそんな欲張りさんに?」

手を伸ばしセシリーンは彼女の頭を撫でてやる。

スリスリとその手に頭を擦り付けるファシーは甘えん坊の一面を強く見せる。

「次は、頑張る」

「そうね」

クスクスと笑いセシリーンは外に顔を向けた。

「彼の胃に穴が開かなければ良いけど」

「だい、じょうぶ」

「ん?」

甘える猫が楽し気に口を開く。

「リグが、居る、から」

「……彼が死ななければ良いけど」

胃の中を舐めるのは、この場所でしかできない治療だろうと歌姫は純粋にそう思った。

「煽りすぎだ!」

語尾の気怠さを忘れティナーが吠えた。

「あの異世界魔法は彼の切り札だ!」

思わず立ち上がったティナーは展開される魔法を見た。

ただノイエの目は……斜め後ろからずっと自分の夫の顔を見ている。

不敵に笑う自分の夫の顔をだ。

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