軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

にゃお~ん!

ユニバンス王国・王都北門の外

「にゃ~ん」

「「おおぉぉ……」」

「なぁ~ん」

「「があぁぁ……」」

可愛らしい鳴き声が響くたびに亡者たちが薙ぎ払われて無残な姿を晒す。

追い打ちで繰り出される愛らしい動作の猫パンチが、頭部や上半身を失った亡者たちを完全に塵へと変える。圧倒的な王者がその場に顕現していた。

大の大人が蹲ったぐらいの大きさの石に飛び乗り、少女ほどの大きさの三毛猫が吠える。

「にゃお~ん」

自分が支配者だと語るその声に包囲する亡者たちが一歩後退する。

残っているのか分からない知性や本能が彼らに囁く……『逃げろ』と。

けれどゾンビパウダーにより生み出されたその体が亡者たちの意識とは別に勝手に動く。

『あの少女を襲って食らえ』と……絶対に不可能であろうことを命じ実行させるのだ。

「にゃお~ん!」

石の上でひと吠えした猫は、軽く自分の顔を洗うと……その狂気を宿した目で亡者たちを見つめる。

自分に向かいモゾモゾと寄って来る愚かな存在は、猫からすれば格好の遊び相手でしかない。

そう今日は存分に遊んで良いと言われている。微かに残るその言葉がまた猫を動かす。

「なぁ~ん」

振るう腕に埋め込まれているプレートを暴発させ、不可視の爪を作ってはそれで獲物を狩る猫。

その様子を震えながら見つめていた北門を守る兵たちが後に語ったことから……『血みどろファシーは猫と化して襲い掛かって来る』と言われるようになったのは仕方のないことだ。

これ以降ユニバンス王国では猫が神聖化されとても大切に扱われるようになった。

もし猫を傷つければ猫の姿をしたファシーが……と言う都市伝説と一緒にだ。

「ふにゃ?」

一定の時が過ぎ獣化が解けたファシーは辺りを見渡す。

沢山いた亡者たちは完全に消え失せていた。

「……消えた」

だが一心不乱に腕を振るい亡者を狩った彼女は不満げに癇癪を起し、辺りの木々や石などに八つ当たりを繰り返す。

折角得た機会を存分に楽しむはずが、気づけば遊び相手がすべて消えていたのだ。

許せない。許せるわけがない。

「くひひ……だったら」

ゆらりと振り返り閉ざされている鉄の門を見る。

いつの間にかに住人の収容を終えて北門を閉ざしていたのだろう。

ただ今のファシーにはそれは自分の楽しみを邪魔する壁でしかない。

ゆっくりと魔法語を発し彼女は綴る。

使う魔法は攻撃力だけなら術式の魔女が扱うどの魔法よりも強いと言わしめた両腕のプレートの正しい使い方……千切だ。

魔法語を唱え終えファシーは迷うことなく魔法を放つ。

自分の上に……真上に向かい全力でだ。

「ダメ。私は、出来る子、だから……アルグスタ、様との、約束は、絶対だから」

荒れ狂う自分の心に封をして、ファシーは小さく息を吐く。

すると素足である右足に温もりを感じた。

自分が使役しているリスが、何故か仲間を連れて甘えていた。

「……増えた」

しゃがんでリスを撫でる。

すると普通のリスたちが彼女の体を登り肩に座る。

「みんな、来る?」

返事は無い。ただリスたちが甘えてきて離れようとはしない。

行きたいとかそういうことではなく、一緒に居ると言う感じを覚え……ファシーは今一度固く閉ざされている門を見る。

たぶんあれが自分に対する人々の評価なのだ。

悪いことをした自分は許されることは無い。だから拒絶される。

「帰ろ、う」

クルっと体を動かしファシーは歩き出す。

門へではなく北へ……自分の大好きな人が住まいとしている屋敷に向かい。

固く閉ざされた門の中に帰る気などファシーには最初から無かった。

自分が帰る場所は彼の所だと決めている。

あの暖かな家族の元へと決めている。

ひとり歩くファシーはもう振り返らない。

自分の家に向かい真っ直ぐ足を動かして。

ユニバンス王国・王都内下町

「そっちは」

「もう少しです」

「遅い」

師である人の治療を無事に終え、治療院のベットに運んだ2人は……それからやって来る患者の治療を開始した。

恐ろしいほどに怪我人がやって来る。それを追う化け物も来る。

怪我人は自分たちが受け持ち化け物はボロボロになり怪我まで負っているメイドが引き受ける。

「こんなことではポーラ様に叱られますっ!」

メイドは何か叫びながら化け物を殴り飛ばしているが、よく骨が折れている腕で殴れるものだと感心する。一応板と包帯で固定はしているが、治療はそれだけで痛み止めも使っていない。

時折訪れるあのご年配の女性もそうだが、この国のメイドは色々と特殊な何かを得ているのだろう。

「考えない」

「あっはい」

疲労からが思考がおかしな方へ向いてしまった。

一度軽く自分の頬を叩いて少女……ナーファは怪我人の手当てを続ける。

とはいえ自分が出来ることは傷口を洗い、軟膏を塗ったりするくらいだ。

本格的な治療は出来ない。まだ1人では怖くて出来ない。

「痛い。痛いよ……」

「我慢する」

それに引き換え……あの女は自分とは違い圧倒的なまでの存在感を放っていた。

今も泣き叫ぶ少年の額を叩いて折れ曲がっているらしい腕を引っ張り素早く固定している。

何でも化け物から逃げる時に転び、そこを大人に踏まれたらしい。

治療院に殺到している怪我人の大半がそうした自滅じみたものばかりだ。

化け物に襲われて運び込まれた怪我人は多くない。大半が襲われた時に齧られ食われてしまったらしい。

ナーファは今一度息を吐いて額の汗を拭う。

もしこの場に自分1人だったらと考えると背筋が凍る。

どうにか治療を回せているのは、両親を殺した“姉弟子”のおかげだ。

小柄なのに一部だけ巨大化した物を震わせ怪我人の中を跳ねるように行き交う。

下着だけのような格好をして巨大化した一部分を震わせているのも腹立たしいが、治療の為に浴びた怪我人の血液を布で拭うことで清潔を保っている様子だ。確かに義理の父親もあんな風に服を脱いで治療していた時もあった。本当に色々と勉強させられる。

けれど決して許せない。だってあれは自分の両親を殺したのだ。

両親はあの女を我が子のように可愛がっていたと人伝に聞いた。けれどあの女はそんな両親を嚙み殺した。

絶対に許せない。許せるわけがない。

「手を止めない」

「はい」

こちらを見ても居ないの叱責が飛んでくる。

慌ててナーファは次の怪我人の元へ移動し、簡単な手当てをしていく。

裂傷ぐらいなら縫うことで傷を塞ぐことはできる。

ちょくちょくやって来るこの国一のお金持ちが気前よく支払ってくれるので、その時は肉を塊で買ってきては針と糸を駆使して見よう見まねで腕を磨いた。その甲斐もあって縫うことは出来る。

ただ目の前の怪我人の傷は酷い。腕が斬られ骨の一部が見えている。

「どうしてこんな怪我を?」

「元国軍だった男が化け物を斬ろうとして、誤って剣先が」

怪我人を連れて来た人物に事情を聴きながら、ナーファは傷口を洗う。

止血帯のおかげで血は止まっているが、長時間血を止めれば腕が腐る。

「こっちの人を」

「無理!」

あの女に助けを求めること自体癪だったが、間髪を入れずに断られるのは許せない。

怒りに任せて立ち上がり相手を見れば、彼女は腕を失った少年の治療をしていた。

半ばから噛み切られたのか痛々しい状況で暴れる少年を大人たちに抑えてもらい治療している。

「自分でやれ」

「そんな」

一瞬だけ向けられた視線にナーファは震えた。

患者相手に縫合したことはある。ただそれはどれも師である彼が横に居てだ。でも今は横に誰も居ない。

ブルブルと足元から震えが昇って来て、ナーファは泣き叫び逃げ出したくなった。

初めて怖いと思った。医者になることが、本当に怖いと思った。

と、自分の足を誰かが掴んだ。

腕を斬られた男性が、無事な腕を動かし掴んだのだ。

「先生。助けて……」

震えが増した。

自分は『医者じゃない!』と叫びたかった。

「逃げたければ逃げれば良い」

背中か聞こえて来た声にナーファは振り返る。

彼女はその顔を血で濡らしながらも迷うことなく腕を動かしていた。

「君が逃げればその人は死ぬ。簡単なこと」

「簡単……って」

「簡単だろう? 救いの手を差し伸べなければそもそも誰も救えない」

告げて彼女……リグは自分の顔を拭う。

「医者が患者に救いの手を差し伸べないのは人殺しと同じこと」

「……」

冷たく吐き出し、リグは大きく息を吸う。

「ボクはボクが殺してしまった人たちからそう教えられたよ」

「っ!」

息を飲みナーファは彼女を見た。

「だからボクは逃げない。患者を前に逃げることだけは出来ない」

リグの中に存在する決して折れることのない信念がそれだ。

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