作品タイトル不明
血みどろファシーがいっぱい遊んであげるから!
ユニバンス王国・王都北門の外
『姉さん。ごめんなさい……』
その声を耳にし、ラミーは脆く崩れ始めている自分の足が完全に砕け散ったかのような感覚に陥った。
一瞬呆然とし、それから視線を巡らせ自分の足を確認する。
ボロボロだがまだ足は存在していた。
「そうレミー……先に逝ったのね」
それは双子ゆえの共感覚だとも言えた。
何故か昔から心が気持ちが通うような時があり、遠くに居る存在に気持ちが伝わることがあった。
最後に謝る妹は何を気にしていたのだろうか?
良く良く思い出せば……それに気づいた。
ヤーンの一族に売られた時に誓い合ったことを。
『死ぬ時は2人一緒に……』と、確かに誓ったのだ。
「そうだったわねレミー」
崩れてしまいそうな頬を動かし、柔らかく笑う。
「でも大丈夫よ。私もそろそろ逝くから」
呟き……動かしていた足を止めた。
「あ~っはは~!」
高笑いとは違う狂気の笑いだ。
ただ笑い楽し気にその存在は踊るように腕を動かしていた。
どんな原理で魔法を使っているのかは分からない。けれど腕を振るうたびに亡者たちが斬られ消えていく。
「くひひ……楽しいのっ! ねえ! 凄く楽しいの!」
愉快そうに笑う存在は、何故か二足歩行した猫に見えた。
耳と尻尾が存在している少女ぐらいの大きさの猫だ。
「だからもっと遊ばせてよ?」
前髪に隠れる相手の目が自分を見た気がした。
ラミーは背筋に流れる冷や汗を感じながら、震える足で前に出る。
「邪魔をしないで」
「邪魔? どこが?」
可愛らしく笑う猫が首を傾げた。
その仕草は愛らしいが腕を振るうと亡者が消え失せる。
相手は化け物だと……ラミーは理解した。
「私は遊んでいるのっ!」
「遊ぶ?」
「ええっ! だって今日は大好きなアルグスタ様が好きなだけ遊んで良いって!」
両手を広げ猫の姿を模した少女が『くひひ』と笑う。
「責任は全て彼が取るから存分にして良いって! だから遊ぶの! 大好きな人の言葉だもの! 逆らうなんてできないし……何より私も遊びたいからっ!」
また笑い亡者たちが消え失せる。
こんなにも狂った化け物を操る『アルグスタ』という存在にラミーは純粋に恐怖した。
「全部殺してあげるの! 目に見える全てを殺してあげるの! 私が味わった痛みを教えてあげるの! 痛いのはとても辛くて苦しいの! それをみんなが知れば……みんなが知れば……」
全身を震わせ、少女は半円にでも見えるかのように口を開く。
「誰もが子供を、弱者を、弄ぶような酷いことはしなくなるから……だから私は全てに痛みを教えてあげるの!」
「……それが貴女の正義だとでも?」
問われた言葉に少女は首を傾げる。
「違うよ」
「えっ?」
素のトーンでラミーは聞き返していた。
物凄く良いことのような言葉を聞かされた気になりつい質問をしたのだが、まさかそれをあっさり否定されるとは思わなかったのだ。
「そう言った方が聞こえが良いでしょう?」
「えっあっはい」
ラミーの心の内を覗いているかのようにそう告げられる。そして、
「本当は私が好きなの!」
「……好きとは?」
満面の笑みで言う相手に聞き返さなければいけない何かしらの圧力を感じラミーは問うた。
「相手が苦しむ姿を見るのが大好きなの!」
顔を上げ前髪に隠れていた相手の目がその姿を覗かせる。
キラキラと輝いて見えるそれは……本当に楽しそうだった。
ユニバンス王国・王都内上空
『おねえさまがうれしそうです』
楽し気に伝えてくる感想に上空に居る刻印の魔女は、半眼になっている目元に指をやって軽く揉んだ。絶対に何かがおかしい。具体的に言うとあの狂った存在もそうだが、それを受け入れてしまう狂った兄と妹たちが特におかしい。
「ねえ? 我が弟子?」
『はい。ししょう』
「あれが嬉しそうって感じに見えるの?」
『はい。うれしそうです』
「確かにね。笑ってるし大興奮だし……でもお姉さんとしては口にしている言葉に少し気を向けて欲しいかな?」
『ことばですか?』
師である者の存在から言われ、内に居るポーラは耳を傾ける。すると『足を潰してのたうち回るところをジワジワと刻んでいくのが凄く楽しいの!』と言って亡者相手に実践する。して見せる。何なら良く見えるようにと複数体同じことをする。
『ゆうげんじっこうです』
「難しい言葉を覚えたわね。って違うから!」
『なにがですか?』
「刻んでるから! 言って本当に刻んでるから!」
ブンブンと腕を振って刻印の魔女は眼下を指さす。
狂った存在が亡者たちを刻んですり潰して消滅させていた。
「あれを見て何とも思わないの?」
『……がんばってます』
「感性! その感性が変だから!」
むきぃ~と箒の上で発狂し、刻印の魔女は肩で息をする。
もうこの弟子は色々と終わってしまっているのか不安にすらなって来る。
『ししょう』
「何よ?」
『てきをたおすことはわるいことですか?』
「……」
弟子に問われて刻印の魔女は冷静になった。
確かに発言は色々と問題ありだ。行為もお子様には見せられない物ばかりだ。
ただ……彼女はその狂気と凶器を全て亡者に向けている。人には一切向けていない。
逃げ遅れた者が居ると気付けば亡者を切り刻んで道を作り逃している。
余りの恐怖で腰を抜かして動けない者には、馬がやって来て咥えて運んでいく。
暴れ出してからと言うもの彼女が使用している魔法は操作系の“主従”だけだ。
上と下を明確にし、相手を従わさせる魔法を馬に対して使ったのみだ。それは人を逃すために。
「……何か嫌になるわね」
『なにがですか?』
箒の上で頬杖をついて刻印の魔女は嘆息した。
「自分の見立てが意外と甘かったという事実に気づいて自己嫌悪に陥ってるだけよ」
才能のある存在が多く居る魔眼の中で、あの狂った存在は『使えない』部類に割り振っていた。
性格もそうだが、使い勝手の悪い魔法など……高い才能を無駄遣いしている存在だったのだ。
けれど“あれ”は、そんな存在に自由を与えることで思う存分働かさせている。自分では思いつかない方法でだ。
「何か嫉妬するわ~」
『なにがですか?』
「こっちの話よ」
答えたら負けな気がして刻印の魔女は話を終える。
「ただあの攻撃はズルいわよね? どこの世に魔力を流したプレートの暴走を制御をして扱う魔法使いが存在するの?」
『おねえさまはすごいのです』
「……凄いで片付けちゃいけない気がするんだけどね」
ぶっちゃけあれはチートの領域だ。
ただ精神が狂っているから簡単に制御することはできない。
「貴女のお兄様って本当に人ったらしよね~」
『にいさまをわるくいわないでください』
「言いたくなるわよ。本当に」
これはあんな化け物が心の底から愛されているので使える奇跡だ。
普通ならあり得ない。あっちゃいけないのだ。
『だから私はい~っぱい遊ぶの! このファシーが! 血みどろファシーがいっぱい遊んであげるから! だって今日はアルグスタ様が許してくれたから! いっぱい遊んで良いって言ってくれたから! だからいっぱい遊ぶの!』
自分が放ち実行した魔法は本当にいい仕事をしている。
この王都中にあの狂った存在の声は響き渡っていることだろう。彼の耳にも届いているはずだ。
結果として……少しだけ刻印の魔女は彼に同情した。
こんなに酷いことになるとは思わなかった。
だから同情はした。ほんの少しだけ。
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