軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

若い者が先に逝こうとするでない

《どうして?》

一方的な暴力にさらされどうにか身を守る人形……レミーは考える。

相手が両足に付けていた装備を外したら格段に動きを変化させた。

恐ろしいまでの速度と踏み込み。

迎え撃つことが追い付かなくなる速度で一方的に蹂躙されるのだ。

「……本当に嫌になりますね?」

首から上が吹き飛びそうな拳を頬に受け、レミーは相手の声を聴いた。

務めて真面目な表情を浮かべているが口の端……口角が僅かに緩んでいる。

笑いをこらえていることが見て取れた。

「先生からは戦いを楽しむなと強く言われているのですよ。私は攻撃をし続けると興奮が止まらなくなる質なので」

「そウか」

ならば攻撃を止めてやるとばかりに腕を振るう。

しかしレミーの目論見など最初から理解している様子でメイドは短剣を回避し、彼女の胴体に蹴りを入れて来た。

「そうそう。私は少し品位を欠くので足も出ます。お気を付けを」

「余裕ダなっ!」

叫びレミーは持てる力の全てを注ぐ。

どんなに殴られ蹴られても攻撃の手を止めない。少しずつだが相手に短剣が届きじわじわと傷を与える。

近距離からの殺し合いは、ミネルバの前蹴りで間合いが離れようやく止まった。

「それは何ですか? 薬ですか?」

肩で息をするメイドに、人形はジッと自分の手を見る。短剣を握ってはいるが指は砕けボロボロだ。

「ある意味デ薬ダ」

「魔法ですか?」

「ある意味デ魔法ダ」

遠まわしで両方を肯定し、レミーは相手を見つめた。

「私ハ魔法デ薬ニ成れナカった屍ダ」

「屍?」

「ソう」

ボロボロに砕けている頬を動かしレミーは笑う。

「ゾンビパウダーとイう秘薬にナレなかっタ……落ちコボレだ」

「お父さん」

「案ずるなナーファ」

そっとキルイーツは窓の外を見つめながら抱きしめる我が子……と思い育てている姪の頭を撫でてやる。

住居兼治療院の外で繰り広げられる2人の殺し合いの音に目を覚まし、それから2人で様子を見守っていた。

「ゾンビパウダーとはな」

「知ってるんですか?」

「ああ。昔にな」

外から聞こえてくる声にキルイーツは頭を振った。

その魔法と言うか秘薬については知識があった。まだ魔法学院に通っていた頃、ある夜酒場で出会った異国風の人間が酒に酔い語っていたのだ。

どこから与太話かとも思ったが、何が切っ掛けで行き詰まっていた魔法の作成のヒントとなるか分からない。だからキルイーツは相手に酒を奢り話を聞いた。

彼は北の地に存在する集落から逃れて来たと言っていた。

その集落には死者を用いる魔法が存在していて、死者を作り出す方法として『ゾンビパウダー』なる物が存在しているとも語ってくれた。

どれもが眉唾物の話であったが、相手が嘘を語っているようには見えなかった。酔ってはいたが。

だからこそ覚えていた。術者を材料に作り出す異端中の異端の魔法を。

「本当に存在しているとは思わなかったがな」

もう一度姪の頭を撫でてやる。

「……怖いです」

恐怖に震える姪はずっと顔色を悪くしたままだ。

「案ずるな。この国のメイドは強いからな」

「でも……」

「心配するな。お前は私が守ろう」

「……」

叔父の腕に抱かれ少女は思う。

自分の両親もこうして恐怖から守ってくれたのだろうかと。

「それにもうそろそろで終いだろう」

キルイーツの告げた通り背を向けているメイドの蹴りが奇麗に決まり、動く屍は両足を砕かれ地面に伏した。

《姉さん》

地面に激突したレミーは、ふとそれを思った。

自分とは違い才能があった姉は無事に秘薬となった。

今頃はマスターの命に従い大群を連れてこの国の王都であるこの場所に向かっているはずだ。

それなのに落ちこぼれな自分は最後まで何も出来ないでいる。マスターの命令も守れずにだ。

「あハハ……アはハ……ハははハ……」

「気でも狂いましたか?」

「そンナ物は最初カラ狂ッテいる」

笑いレミーは地面を叩く。ボロボロの手で、指で激しく殴る。

「姉さンだけが砕ケテ消えルダナんて変じャなイか?」

「何を?」

相手の異変を感じてミネルバは後方に飛び身構える。

「私ハ怖かッタ。ずっト怖かッタ」

同じように集められ学んだ姉を含むすべての孤児たちが、薬の材料となるために最終試験に臨んだ。1人また1人と薬になれず死んでいく様子を見つめ……レミーは恐怖した。恐怖してそして躊躇した。

結果が今だ。自分は薬にもなれず、中途半端な生きる屍になった。

「あノ日……みなト同じヨウに死ヌ気でヤレば」

そうすればもしかしたら自分も姉と同じように薬になれたのかもしれない。

そうすれば……姉と同じ命令を受け、彼女の横で一緒に役目を果たせたのかもしれない。

全ては愚かで臆病な自分の弱さが原因だ。踏み出せなかったからこうして1人で居るのだ。

「もう良いでしょう。消え失せなさい」

不穏な気配を感じミネルバはグッと腰を下ろし……相手の頭を踏み割ることにした。

「消えルサ!」

笑いだした。

人形が笑いだし……そして顔を上げてミネルバを見た。

「薬ニ成れナカッた者は、全員消えルノダから!」

笑いレミーは自分自身に命じる。『薬になれ』と。『ゾンビパウダーとなれ』と。

一度失敗した異世界の魔法を今一度自分の身に対して発動する。

成功などするわけがない。失敗は目に見えている。けれどレミーはそれを実行した。

姉と同じように消え失せたかった。薬となって一緒に消えたかった。

だから望んだ。それを……強く望んだ。

「弾ケテ終わルノが私ニハお似合イだ」

笑いレミーは自分の相手を見る。

本当なら医者を殺すはずだったが、この強い人間が居なくなれば姉が作り出す亡者たちが食い殺してくれると信じて。だからこそ迷わずに消滅を望んだ。

一瞬ミネルバは反応が遅れた。回避することが正しいことだと本能では分かっていた。

けれど自分の背後には命じられた保護対象者が居るのだ。

故に逃げられない。彼らを守るのが、命を賭して守るのが……主人に命じられた『簡単なお仕事』だからだ。

全てを受け止め食らう覚悟で、ミネルバは両足で踏ん張り両手を広げた。

「馬鹿者が」

背後から背を叩かれミネルバは動けなくなる。

自分の横を過ぎて前に出たのは……名医と名高い人物だった。

「若い者が先に逝こうとするでない」

笑いながら彼はミネルバとレミーの間に立つ。

「お逃げください!」

動かない体を諦めミネルバは相手に声を向ける。

「案ずるな。私はあの術式の魔女と戦い生き残った者ぞ?」

ニヤリと笑い彼は肩越しでメイドを見た。

「何かあれば元王子に任せる。それぐらいの我が儘ならあの馬鹿者とて聞くだろう」

「キルイーツ様!」

声を発したミネルバは弾け飛ぶ人形を視界に収めながら、彼が呟くのを聞いた。

『もう1人の娘にも会いたかったがな……』と。

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