軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恐ろしいほどに無策ですね

「火急の用と聞いたが?」

「申し訳ございません。イールアム様。このような時間に」

ハルムント家に馬車に乗り込んでみたものの……やはりここは不思議と非常識が通常運行のメイドランドでした。

おかしいから! どうして夜も明けていない時間からメイドさんたちが外で鍛錬しているの? そしてどうしてウチの妹はその姿を見て『頑張らないと』と拳を握るの?

ツッコミを開始したら10分としないで燃え尽きそうな気がしたから全部スルーした。

で、来客の理由を告げ玄関先で待つことしばし……屋敷の主人であるイールアムさんがやって来た。何故かちょっとお疲れのご様子だ。新婚さん特有のあれか?

僕の場合は現在進行形であれだが、先輩として心の中でエールを送ろう。頑張れ。

「スィーク叔母様にご助力を願いたい事態となりそうでしたので、失礼を承知でまかりこしました」

「それほどの理由があると?」

「はい」

頷く僕に、彼は軽く笑い屋敷の奥へと案内してくれた。

「お義母様が相手の話であるのなら私は不要でしょう。ここを使ってください」

「重ねて申し訳ございません」

別に聞いても良いんだけど踏み込むと地獄を見る話ではある。

僕並みの回避スキルを持っているらしいイールアムさんはそのまま去って行った。

通された居間で待つことしばし……今度はメイドさんたちの主任であるラーゼさんが来た。

イールアムさんの正妻なのにメイド服だ。メイドだ。ツッコミは玄関先に置いて来た。

「先生は間もなく来ますので」

「無理なお願いをして申し訳ございません」

「いいえ」

何故か僕の前に紅茶を置くラーゼさんの目が冷たいのです。

と言うか、喜んで逃げて行ったイールアムさんとその奥様のご様子から察するに……夜明けまで頑張れるとか意外と体力のある夫婦なんですね。

ウチの場合は気絶しても搾り尽くそうとするお嫁さんとその姉とか居ますけどね。

もしかして同じ類のあれですか? ユニバンス王国は女性が強い国なのですか?

冷たい視線を食らいまくりつつ紅茶を啜っていると扉が開いた。

夫を亡くしてから着るようになった喪服のような黒いドレス姿の叔母様が静かに歩いてくる。

「何でも急ぎの用があるとか?」

「はい」

立ち上がり挨拶をしようとする僕に対し、『そんな礼儀は不要』とばかりの視線による圧力を受け座ったままで言葉だけの挨拶する。

叔母様は僕と向かい合うように座った。と言うかこの人ほど女王って言葉が似合う人は居ない気がするんだけどね。もうこの国を支配したら?

「確定ではありませんが、夜明けと共にこの王都が攻撃されます」

「……続けなさい」

冷たく響く叔母様の言葉に促され言葉を続ける。

「敵は他国の傭兵。異世界の魔法を使う『ネクロマンサー』と呼ばれる者たちです。歴史の上ではゲートで移動し、1人で国を1つ滅ぼそうとしたとか言われています」

「それがこの国に?」

「はい」

スッと叔母様は視線をラーゼさんに向ける。彼女は頷いて部屋から出て行った。

「何処を襲撃するのか分かっているのですか?」

「何か所かは……ですが人手が足りません」

「それは何故?」

「はい。敵の攻撃目標にこの王都に住む『医者』があるのです。僕は全員の居場所を知らず何人居るのかも知りません」

叔母様が椅子に座り直した。

「……それで我が屋敷に来たと?」

「はい」

頷き相手を見る。正面からだ。

「つまりお前はわたくしの屋敷に属するメイドたちの手を借りたいと言うのですね? アルグスタ」

「はい」

ニヤリと笑い叔母様が小さく頷いた。

「その手伝いに見合う対価は?」

やはりそう来たか……叔母様が一番厄介な交渉相手だよ。

秘密を抱え過ぎている僕の手札は多い。だからこそ叔母様は自分から強請らない。こちらから出せる手札を見てから決めるのだ。

僕がどんな交渉材料を提示できるのかを見定めるために。

「破格の報酬を約束しましょう」

「破格ですか……ですがわたくしはその内容を聞き吟味したいのですよ」

「でしょうね」

選択肢は多いようで少ない。

僕が切って一番腹が痛くない対叔母様用の交渉の手札は?

「カミューの生存の是非でどうでしょうか?」

「……ほう。面白いわね」

表情を正した叔母様が僕を見つめて来る。

ぶっちゃけこれが一番僕的には痛くない。腹はと言う意味でね。

下手をしたら物理的に痛い目を見るかもしれないがこればかりは仕方ない。

「何でしたら前払いで支払いますが?」

「……本当に?」

「はい」

迷わない。と言うか苦しむが良いカミューよ!

「……分かりました」

熟考したらしい叔母様が大きく頷いた。

「払いは後払い。内容は『カミューの生存の是非』で手を打ちましょう」

「ありがとうございます」

「ただ」

「はい?」

叔母様の声に安どしかけた僕も思わず気の抜けた声が出た。

「ミネルバを使わせていただくとしましょう。宜しいですか?」

チラリと視線をポーラに向ける。

ミネルバさんは間違いなくポーラの護衛代わりに付けられている人物だ。ついでに僕らの様子も監視しているけれど。

彼女を借りるということは、意外と医者が多いのか?

「了解しました」

ここは応じるしかない。何より馬鹿賢者の発言が本当なら、今回のポーラは見学のはずだ。

「ポーラ」

「はい。にいさま」

「ミネルバさんにその旨を伝えて」

「かしこまりました」

一礼をし、ポーラは廊下で待機している彼女の元へと駆けていく。

あの人はこの屋敷に来ると一兵卒扱いになるから不思議だわ。

「それでアルグスタ」

「はい?」

少し気を緩めた様子の叔母様が気軽に声をかけて来る。

「今回はドラゴンが相手ではない様子。ならお前は何をするのです?」

「あ~」

実はノープランとは言えないよな。

「今回はノイエと2人で遊撃に徹しようかと。自分もまた命を狙われる身のようなので」

「隠れずにですか?」

「はい」

僕の発想に隠れると言う考えが浮かんでこない。

「下手に隠れればその場所が酷いことになるかもしれません。だったら僕らは正々堂々と相手を迎え撃つか来なければ適当に攻撃でもします」

迷いなどございません。だってそれが僕らですから。

「……恐ろしいほどに無策ですね」

気づかれたっ!

「ですが」

ニヤリと叔母様が笑うと静かにラーゼさんが歩み寄る。

僕と叔母様が挟む形で置かれているテーブルの上に紙を広げておく。精密な王都の地図だ。

「敵であるならば普通貴方たちが隠れると思うでしょう。ですからここに行きなさい」

「ここは?」

叔母様が指さしたのは王都の外周……貧民街と呼ばれるスラムが存在する場所だ。

「そこでしたら幾ら暴れても誰も困りません」

「えっと……誰か居るのでは?」

「そこは居ないのですよ。恐ろしい惨劇があった場所なので」

「惨劇?」

もう一度地図を見て頭の中で思い出す。スラムで惨劇と言えば……

「その場所は血みどろファシーが暴れ誰も寄り付かなくなった場所。ついでに全てを破壊して、更地にでもした方が人々に喜ばれることでしょうね」

「……そうですか」

やはりこの叔母様が一番厄介な相手だと思うよ。

何処まで気付いているのかは知らないけれど、その可能性を視野に探りを入れて来たか?

でも今回ファシーは外に出さない。だって彼女は優しくていい子だから……きっとまた心を傷ついてしまう。だからダメだ。

ダメなんだ。

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