作品タイトル不明
本当に酷い目に遭ったよ
「判定は?」
「……まだ色々と甘いけど、年齢と経歴を考えれば合格で良いと思うわ」
「だぞ~」
たぶん分かっていないだろうが、フワフワと黄色い髪を震わせシュシュが揺れる。
うんうん頷いているレニーラは……たぶん理解していない。ただ頷いているだけだ。
そんな2人を見てホリーは息を吐いた。
体が凍り付いたかのように動かない。
ノイエの魔眼の中枢……小さな腰掛のような物に座っているホリーは、未だに魔法を解けずに魔力ばかり消費しているのだ。
「そろそろ辛いのだけど?」
「頑張れ~」
「だぞ~」
「……言った私が馬鹿だったわよ」
諦めて息を吐いてホリーは彼が抱く小さなメイドに目を向けた。
根性で顔の位置を少しだけ動かしたノイエも凄いが、そのおかげで外の様子が見えた。
彼が妹を抱えて悩んでいる。
敵が3つの行動を取ると言う予想は悪くない。ただホリーとしては4つ目を疑っていた。
確かに彼と言う存在は邪魔だが、それ以上に邪魔に思われている存在が居るはずなのだ。この国の貴族ではなく他国の王たちから……つまりノイエだ。
《アルグちゃんと一緒にノイエも始末したいわよね?》
そうすればユニバンスなど……しばらくは戦えるはずだが、後々が辛い。
「ホリ~」
「何よ?」
「妹ちゃんの作戦で足らないのは?」
「……純粋な火力」
フワフワと揺れるシュシュに並んで踊っているレニーラにそう返事をする。
何だかんだで最近この2人は仲が良い。
「北からの敵はドラゴンじゃない。何よりノイエは大群相手には向かないから」
「だね~」
「だぞ~」
踊りながら返事を寄こす2人にホリーは深く息を吐いた。
「……だから敵を滅する大魔法が欲しいのよ」
「アイルローゼは液体だね」
「そうね」
こうなると使える手は少ない。
深部に居る者に協力を求めるのは難しい。で、あれば打てる手は1つだ。
優しい彼はそれに気づいていても自ら口にしなかったが。
「ファシー」
「……にゃん?」
必死に視線を動かしホリーはその姿を見る。起きだした猫が身を伸ばしていた。
「外に出て戦える?」
「……」
返事は無い。
前回の共和国とは違い今回は人だった者を切り刻むのだ。無理もない。
「へい、き」
だが力強い返事が返って来た。
「本当に?」
「は、い」
ゆっくりと立ち上がったファシーは、その顔に泣き出しそうな表情を浮かべた。
「わたしは、悪い、子、だから」
熟睡は難しかったけど仮眠程度の睡眠はとれた。
目を開くと僕に抱き着いて眠るポーラの姿があった。
ギュッと胴体に腕を回して全力で甘えて来る様子に……ドキッとする。
娘ってこんな感じなのかな? 悪くないな。
軽くポーラを抱きしめて居たら白い手が伸びて来る。
「ダメ」
ノイエがポーラを掻っ攫って抱きしめ僕を見つめて来る。
雰囲気的には睨んできているような感じだ。
「妹を可愛がっていただけです」
「……」
女の子座りをしたノイエがそのままの状態で横移動して来た。
何をどうしたらシーツに皺を作らず移動できるのか疑問に思うが、ノイエはそれをサラッとやって見せる。
ピタッと僕に寄り添ったノイエが自分の頭を差し出してくる。
妹を可愛がるなら自分を可愛がれと言うことか……本当に可愛いな! このお嫁さんはっ!
軽くノイエの頭を抱きしめて額とアホ毛にキスをする。
「んっ」
「満足?」
「……はい」
フリフリとアホ毛を揺らしてノイエが立ち上がる。
と、何故かベッドの上にポーラを投げ捨てて大窓に移動するとそれを開いてベランダに出た。
「……ひどいです」
「まあまあ」
いつ目を覚ましていたのか知らないが、ベッドの上に捨てられたポーラが拗ねだした。
良し良しと頭を撫でてからベッドを降りてベランダに向かう。
外はまだ夜だ。東の空はかなり暗い。
「どうかしたの? ノイエ?」
「凄く嫌」
「はい?」
静かにベランダに立つノイエが僕の方に体を向けると、両手を自分の胸の上に運ぶ。
「ここがざわざわする」
「そっか」
するとノイエはまたピタッと僕に寄り添ってくる。
甘えん坊な部分が出て来たのかな?
「ねえノイエ」
「はい」
「ドラゴンは?」
「……」
僕の胸に預けていた頬を離してノイエが軽く辺りを見渡す。
「居ない」
「居ないの?」
「はい。近くに居ない」
興味を覚えたのか、ノイエがベランダの手摺りに乗って辺りを見渡す。
「姿を隠している。寒い日みたい」
「なるほどね」
本能でドラゴンたちも何かを感じたのか?
「ノイエ」
「はい」
「嫌なのはどっち?」
「こっち」
迷うことなくノイエが北を指さす。
「こっち」
「はい?」
次いでお城の方を指さす。
「こっち」
「そっちも?」
「はい」
最後は王都の方向だけど何処か分からない。
「さて問題です」
「はい」
手摺りを降りたノイエが僕にキスしてからまた抱き着く。
「ノイエは何処に行きたい?」
「……」
アホ毛が奇麗な『?』になりました。
「今回の敵はドラゴンじゃありません」
「はい」
「なので僕は役に立ちません」
「はい」
迷わず頷かないで~。それはそれでショックだから!
「北の敵は亡者の大軍です」
「もうじゃ?」
「動く死体です。死んだ人が『う~あ~』とか言いながらやって来ます」
映画とかだとそんな感じでした。
軽く首を傾げたノイエは……スッとアホ毛を下げた。
「嫌」
「ですか」
心根の優しいノイエには無理だよな。人の形をした敵と戦うなんて。
「なら次はノイエにお勧めです」
「はい」
「王都内のお医者様を守る仕事です」
「……嫌」
「はい?」
何故かノイエが拒否りました。
「違う」
意味が分からないがノイエは嫌そうだ。
「そうなるとあとは王都で自由に遊撃かな?」
「……それも違う」
「はい?」
と、ノイエが僕の体に手を回してギュッと抱き着いてくる。
「一緒に居る」
「ノイエさん?」
「一緒に居る」
「……」
ノイエが離れない。つまり僕とポーラの考え以外の出来事が起こるのか? それとも……動く死体が相手だからノイエ的には戦いたくないのかな?
「分かった。なら一緒にね」
「はい」
ノイエがそれを望むならそれで手を打つしかない。
問題は北の大軍をどうするかだ。
「パンパカパ~ン」
「出たな諸悪の根源」
「あら酷い」
右目に模様を浮かべたポーラがクスクスと笑う。
「それでどうするのかしら? 頼りの魔女は戦えないわよ?」
「知ってるよ」
先生は色々とあって現在液体だ。
「さあどうするのかしら?」
その答えは現在色々と思案中です!
「頑張れホリー」
「だぞ~」
「無理よ。少し休むから」
魔力が尽きたホリーは壁際に移され、睡眠と覚醒を繰り返していた。
今もまた起きはしたが、あっさりと目を閉じて眠りに落ちる。
その場に居る者たちは使い物にならなくなったホリーを見つめ、『たぶんこれもあの刻印の魔女の企みの一環なのだろう』と理解する。
本当に嫌がらせに関しては格の違いを見せつける魔女なのだ。
「舞姫は出れそうなの?」
「無理だね」
歌姫の問いに、胸を張ってレニーラはそう返事をする。
元々持っている魔力量が少ないレニーラは比較的回復が遅い。故に回復力が増した現在でも外に出るのは容易では無い。
それに魔力が貯まれば喜んで外に出るので、魔力の貯金は常に無い。
「ならノイエの体を使って外に出れるのはシュシュだけかしら?」
「ん~」
歌姫の声にシュシュはフワフワと揺れる。
「私も~複数は~無理~だぞ~」
「それは根性で」
「無理~」
セシリーンの言葉にフワフワと揺れながらシュシュは困る様子を見せる。
「宝玉はファシーが使うしかないのよね?」
「だぞ~」
告げてセシリーンは自分の足を枕にしているファシーを撫でた。
強い覚悟を抱いているが、ファシーの心は激しく乱れている。
「ん~。そうなるとやっぱりシュシュが彼を守るしかないわね」
「……だぞ~」
やりたくないのか何なのか、シュシュはどうも逃げ出したい素振りを見せている。
自分に相応しくない指示出しをしているセシリーンは深く息を吐いた。
「出来たらもう1人ぐらい外に出れたら良いのに」
「誰が出るの?」
「……念のためにリグかしら」
身を丸くして寝ているリグにセシリーンは手を伸ばす。
最近自分の足が枕になっている気がしてならないが、悪い気はしないので好きにさせている。
と、歌姫は顔を上げた。
「あら? 珍しい」
「どうかしたの?」
「ええ」
見えない目を入り口に向けると、
「……本当に酷い目に遭ったよ」
そこには適当に頭を掻きながら……エウリンカが“歩いて”やって来た。
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