作品タイトル不明
第何夫人かはもう分からないけど
「死者が蘇る?」
上気させた頬を紅に染め、ノイエがうっとりと微笑む。
凄く魅力的で妖艶な雰囲気だけれども……もう勘弁してください。僕はもう夜の営みに関したらホリーには逆らえない気がして来た。ビックリするほど簡単に2回搾られた。
我慢って何ですか? 彼女を前にしたらそんなの砂上の城でしたよ?
脱力しつつも助言を得ていた僕は彼女に問うた。『死者が蘇る』と。
「ホリーなら分かるって」
「ええ分かるわよ」
何故分かるの?
「最近中でティナーがそんなことを言って騒いでいたのよ」
「ティナー?」
ノイエの姉候補でその名前は……該当者有りだ。
「もしかして『墓漁り』のティナー?」
「正解」
クスリと笑いホリーが褒めてくれた。
「彼女の祖先は北の地方……大陸の北に存在する諸国連合よりも南に位置するギリギリ共和国の支配範囲内に存在する山に住む一族の出なんですって。名前はヤーンの一族」
「ヤーン?」
何かそんな名前を聞いたな。馬鹿賢者が言ってた名前か!
「その一族って?」
「ん? 何でも召喚の魔女に呼び出された一族みたいよ。アルグちゃんも知るあの西のドラゴンスレイヤーの一族みたいな感じ」
サツキ家とその愉快な仲間たちか。
つまり召喚の魔女は集落単位で大量召喚していたのか? やりすぎだろう。
「その一族は死者を扱うのに長けた一族らしいわ」
「死者?」
「ええ。何でも『ネクロマンサー』と呼ばれているとか」
良く分からんが確かに死者の扱いに長けていそうだな。
ネクロマンサーか。何か前に馬鹿兄貴からそんな名前を聞いたな……思い出せない。
「前にそんな人たちが悪さしなかったっけ?」
「したわね。ゲートを通って1人でやって来て死者を使って国を滅ぼそうとした事件が歴史書に刻まれているわ」
流石ホリーお姉ちゃんだ。良く知っている。
「それをこの国でも?」
「ん~。ティナーが言うには違うみたい」
足を横にし女の子座りをしたホリーが手を伸ばし僕の頭を捕まえる。
そのまま彼女の太ももに頭を乗せると膝枕の体勢となった。
「どう違うの?」
「そうね……何でももう準備は終わっているらしいわ」
「はい?」
「だから準備が終わっているそうよ」
「それって?」
「ん~。アルグちゃんが言うことが正しいのならもういつでも死者が蘇るってことね」
危機感のない口調でホリーがそう告げてくる。どうしてそんな対岸の火事的な空気なの?
「危ないよね?」
「どうなのかしら?」
ホリーが首を傾げる。
「幽霊が溢れ返っても……何か問題があるの?」
「はい?」
どうも会話が嚙み合わないような?
「えっと幽霊が溢れ返るの?」
「違うの?」
キョトンとした可愛らしい表情でホリーが僕を見つめて来る。
「……ティナーさんは何と言ってましたか?」
「ティナー? あれが言うには『亡者が溢れ返る』って言ってたわね」
それはダメなヤツでは?
「……お姉ちゃん。亡者って知ってる?」
「亡者って幽霊みたいな物でしょう? 違うの?」
物知りなお姉ちゃんが亡者を知りませんでした!
「違うから」
「違うの?」
「亡者って言うのは……動く死体って感じのヤツなの。人を襲う」
「動く死体? 襲うの?」
軽く首を傾げたホリーがその表情を正す。
冷たい感じを発するが、思考する彼女の表情はいつもそんな感じだ。
「……少し簡単に考えていたわね」
苦笑いを浮かべホリーが右手の親指を口に運ぶ。軽く爪を噛んで1点を見つめた。
「今回はかなり不味いわ」
「と言うと?」
「主力が動けない」
「はい?」
まだ1点を見つめたままでホリーが口を開く。
「グローディアは刻印の魔女から召喚の魔女の遺産を餌に呼び出されたまま戻っていない。カミーラは刻印の魔女が呼び出した練習相手を倒して魔力切れ」
おひっ!
「術式の魔女は……色々とあってしばらく動けない」
「先生も? 何があったの?」
「……」
何故か思考を止めたらしいお姉ちゃんが笑みを向けて来る。
輝かんばかりにピカピカとした楽しそうな笑顔だ。
「アルグちゃんも何度も見たのでしょう? アイルローゼは普段あんなことを言っているのに、1人でアルグちゃんの名前を呼びながらこっそりと楽しんでいる痴女なのよ」
ニッコリと笑う彼女に告げられた。
確かに何度も見ましたね。先生のあれは……しばらく忘れられないと思います。
「恥ずかしいとか言いながら陰であんなことをしていて、とんだ痴女よね?」
「えっと……」
コメントが難しいんですけど? もし先生に聞かれたら物凄く怒られそう。
たぶん爪先で踏まれて……あの足でならご褒美なんだけどな。決してノイエの足も悪いというわけではない。ただ先生の足がノイエ以上に素晴らしいのが悪い。
「先生も色々と我慢しているのでは?」
「そうよね。だから1人で発散していたのよ。隠れてこっそりと」
揚げ足を取らないでください。ホリーさん。
「で、アルグちゃんにその姿を見られたと知ったあれはね……何か自殺しちゃった」
「はい?」
「だから自殺。自分に腐海を使って液体になって飛び散ったみたい」
サラッと凄いことを言ってくるのです。お姉ちゃんが。
「つまり先生は?」
「復活するまでしばらくかかるんじゃないかしら?」
「……」
誰の陰謀だ? そう考えると何故か小柄なメイドが僕の頭の中で踊るのです。
両手でお子様ランチのご飯に立てる爪楊枝の国旗を持って……どうしてその国旗がブラジルとジャマイカなのかを問いたい!
ノリか? ラテンのノリで踊っているのか?
ポーラの体を使い悪の限りを尽くす馬鹿賢者めっ!
「死なすぅ~!」
今度ばかりは堪忍袋の何かが切れた! 絶対にあの馬鹿賢者を許さん! 国のピンチに何してくれてんだ! あの馬鹿は!
「許せんよ! 許さんよ!」
「……」
立ち上がろうとする僕の肩に白い手がかかる。
グイっと押し戻されて頭はお嫁さんの太ももに。
「……アイルローゼだとそんなに怒るのね?」
クルンと目を回したホリーお姉さまから危ない気配が。
「違います。国の危機に馬鹿をしている刻印の魔女が許せないだけで……」
「へぇ~」
とても冷ややかな返事だ。返事ですらない。
「落ち着こうかホリー?」
「何を言っているの? 今の私は落ち着いているわよ。ええ……恐ろしいぐらいに」
冷静とは思えない黒くて深い闇のオーラが彼女の背後に見える。
ええい! 国の危機に対して身内が足を引っ張るとは! 僕が何をした?
絶対絶命のピンチがまさか夫婦の寝室で迎えることになるとはっ!
ゆっくりとノイエの手が僕の首へと回って来る。
絞めるの? 絞殺ですか? ってノイエの体で僕に対して酷いことが出来なくなるって言う仕様は何処に行ったの? 実はノイエも同意しての行動ですか? 姉に対して劇甘ちゃんだな!
だが緊急事態だ。こうなれば仕方ない。
「分かった。ホリー」
「……何かしら?」
後ことは後で考えよう。こうなれば最終手段だ!
「ホリーは僕のお嫁さんだよね?」
「……ええ。第何夫人かはもう分からないけど」
ギュッとノイエの手が僕の首を絞めてくるぅ~!
「それはひとまずこっちに置こうね」
除けることは大切です。ここでその地雷は火に油です。
問題は出来るのか? この問題は……ホリーに丸投げしよう。頑張れ最高の知恵者!
「ノイエが赤ちゃんを欲しているのは知ってるよね?」
「知ってるわよ」
ワラワラとホリーの背後で蠢く青い髪が怖い。
恐怖の余りに逃げ出したくなる。
「でもノイエは赤ちゃんを作れません」
それは彼女の祝福が原因だ。
だから僕は最悪養子をとることも視野に入れていた。けれど……
「だから手段はまだ分からないけど、ホリーに僕との子供を産んで欲しい! そうすればノイエはお姉ちゃんの子供と一緒に暮らせるし、何よりホリーだって幸せだよね? 違う?」
スッとホリーの背後で蠢いていた髪の毛がベッドの上に降りた。
「……私がアルグちゃんとの子供を?」
恐怖が去って頬を赤くしたホリーがモジモジし始める。
ノイエの容姿だから恐ろしく愛らしいです。
「うん。方法は謎だけど……ホリーなら解けないかなって? 無理?」
「無理じゃない。絶対に解くから!」
勢いづいてホリーが迫って来る。
「うふふ……アルグちゃんとの子供を……うふふ……私が母さんよ……」
抱き着いて妄想に耽るホリーが手を離してくれない。
しまった。逃げられない。
「なら今から頑張らないとね?」
「あ~。ほら……その体はノイエのだから」
「そうね。なら私の体で」
バンッ!
「ちょっと待った~!」
「ごめんなさいっ!」
「だぁ~! どんでん返しっ!」
飛び込んできた存在に、反射的にハリセンを投げつけたら命中した。
奇麗に顔面にハリセンを食らった存在が後ろへとひっくり返る。
出たな諸悪の根源? 今日は絶対に許さないからな?
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