軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……死のう

ユニバンス王国・王都貴族区内

「準備は整った! あと数日で我らの敵であるアルグスタを黙らせることが出来る!」

皆を集め彼は吠えていた。

時は夕刻。仕事を終えて合流した者たちに対し、彼はまた演説を始める。

遂にこの日を迎えた。あと数日であの憎き元王子が苦しみ悶えることとなるのだ。

あとは拘束し監禁してしまえばいい。そうすればあの化け物も手中に収め全ての富が手に入るのだ。

「私たちが苦しい日々を過ごすのもあとわずかだ!」

「「おおっ!」」

妄信気味に反応し声を上げている貴族たちの姿に彼……ヘイリーは呆れ果て苦笑していた。

本当に馬鹿共が総出で騙され騒いでいる。滑稽だが見苦しい。

「ご老人」

「何かね?」

騒ぐ馬鹿たちから離れ壁際で並んで立つ2人……ヘイリーは隣に居る老人へと目を向けた。

「ここまで段取りをしたがこの後はどうする気なのか?」

「ふむ……」

問われた老人……マスターと呼ばれるヤーンの一族の老人は自分の顎を撫でる。

正直言ってこの手の調略は専門外だ。

ただ雇い主が準備をしているからと聞いて適当に頷いただけだ。

結果として……まったく意味のない者たちが勝手に騒いでいる状況が出来上がっていた。

「ここに居るのはこの国の偉い者たちだと聞いたが?」

「ああ。それなりに地位を得ている者も多く居る」

「そうかそうか」

頷き老人は自分の後ろに居る女性に目を向けた。

「レミーよ」

「はイ」

「この場に居る者たちを全員殺せ」

「はイ」

マスターの命令は絶対だ。故に彼女は動きだし、手近な者を捕まえては殺していく。

突然の凶行に騒いでいた者たちは呆気に取られ棒立ちになった。

ただそれを彼女は見逃さない。動かない人など簡単に殺せる。

1人2人と死体を作ると、騒いでいた者たちは悲鳴を上げて逃げ出した。

レミーと呼ばれた女性は逃げ惑う者たちを追って殺していく。ただ殺していく。

「ご老人! これは!」

突然の凶行にヘイリーは慌てて老人に詰め寄る。

だが老人はキョトンとした顔を向けた。

「偉い者たちが集まっているのだろう? だから殺す。簡単なことだ」

「簡単……だと?」

思いもしない言葉に彼は愕然とする。

「そもそもこれは雇い主であるお前たちが勝手にしていたことだろう? 私たちはあずかり知らないことだ」

「何だと?」

「だから知らぬことだ」

告げて歩き出した老人を追いヘイリーはその手を伸ばした。

ガシッと老人の右肩を掴まれると、彼の枯れ木のような左手が肩を掴む手に置かれる。

「私に触れたな?」

「何を……?」

ゾクッと全身が冷たい水に浸かったような冷たさを覚えヘイリーは身を震わせる。

と、目の前に白い靄が見えた。一瞬何だかわからなかったが……しばらくするとそれが人の形をした何かだと気付いた。

「人と言う生き物は不思議と成長するごとに死んだ人の影を背負うようになる」

「ひぃっ! ひぃっ!」

語る老人は自身の体に纏わりつく何かを引き剥がそうと必死に腕を振るう男を見る。

「私の力はその影に命じ手助けすることだ」

「止めてっ! かあさんっ!」

必死に腕を動かし、彼は口から泡を吹くと床に崩れ落ち動かなくなった。

「手助けすると自然と人が死んでしまうのだがね」

クックックッと老人は喉の奥で笑う。

その日ある貴族の屋敷で大量殺戮が行われた。

だがその事実が判明するのは明くる日の朝であり、そしてその朝は……ユニバンス王国王都を襲う新たなる惨事が始まる時でもあった。

「ノイエさん?」

「……眠い」

「はい?」

「おやすみなさい」

ポスッと枕に向かい後頭部から倒れ込んだノイエがそのまま目を閉じた。

今夜はパターンからして襲われるかとビクビクオドオドしていたのにだ。

だって宝玉の魔力が回復しているはずだから誰か出てきてノイエと2人でって……それなのにノイエが寝た。と言うか『眠い』とか言ってノイエが寝るなんて珍しい。

「ノイエさん?」

ツンツンと頬を突っついてみるが反応はない。ぐっすりだ。何事か?

「待たせたわね!」

「待ってないから」

バンッと扉が開いて今日はちゃんと手で閉じた。

ただおかしなテンションなのは間違いない我が家の義妹様がクルクルと回りながらこっちにやって来る。右目に金色の模様が浮かんでいるから馬鹿賢者が出てきているのは間違いない。

「時は来たわ!」

「何の?」

「これよっ!」

ベッドの傍で立ち止まった彼女は頭上にそれを掲げた。

水晶っぽい材質のドクロだ。ドクロだね。あのドクロか?

「まさか……?」

「うふふ。そのまさか~」

未来型猫型ロボット調の声で彼女が認めた。

つまりそれはあの日の先生の足が、あの素晴らしい足を大量に撮りまくったドクロだと言うのか!

「偉大なる賢者様っ!」

「何かしら?」

「一生ついていきますっ!」

平服と言う名の土下座だ。今の僕は悪魔に魂の一部くらいなら売れる。

「うふふ。ようやく私の偉大さを理解したようね!」

「ははぁ~」

「良い良い。今までの無礼は許してあげましょう。さあ見るわよ!」

「了解です!」

いそいそと準備をする賢者様は、何故か空中に文字を描いたそれをノイエに向かい押した。

金色のベルトが眠るノイエを拘束する。シュシュの封印魔法にそっくりだ。

「で、何故にノイエを拘束するの?」

「うふふ。それはね? 邪魔されたら嫌でしょう?」

「あ~」

ふと気づいた。このまま一緒になって見ていると、僕は後で先生に殺されるほど怒られるのではないのか?

「見たいけど見たら地獄が待っているような?」

「ふむふむ。そんな貴方にはこれ!」

彼女は空中に文字を描いてそれを僕に押してきた。

ノイエと同じように拘束されて僕はベッドの上に転がる。

「何故このような目に?」

「うむ。仕方ないわよね~。私の手で無理矢理見せられるんだから~」

そうか。そういうことか。無理矢理なら仕方ない。見たくなかったんだよ? でも無理矢理見せられるのだから仕方ない。そう仕方ない。

「さあ! まずは足元からローアングルで撮りまくった映像集を!」

「おおっ!」

無理矢理でも良い。僕は見たいのだ。

「なっなっなぁ~!」

喉が枯れるほど声を上げ、アイルローゼは立ち上がった。

ふと何とも言えない嫌な予感がして魔法でノイエの目と自分の目を繋いだ。結果として……これでもかと自分の足が見えるのだ。

意味が分からない。絵でも写真でもない。自分の、あの日の自分の姿が映り動いているのだ。

それも足元を……下着すら見える角度で!

今着ている服と同じ物ではあるが、今の自分を見られるのとは違った恥ずかしさが込みあがって来る。耐えられない。耐えられるわけがない。全裸を見られるよりも……それはそれで恥ずかしいが今なら全裸を見られる方が耐えられる。

立ち上がりアイルローゼは必死に走り中枢に向かう。

こういう時だけは普段運動をしていない自分の身を呪うことになる。

バタバタと走り続けようやく中枢の入り口にたどり着いた。

「レニーラ。シュシュ。アイルローゼを止めて!」

中から歌姫の切羽詰まった声が聞こえて来た。

あの歌姫は何処か自分で遊んでいる節があると認めていた魔女は、構わず中へと入る。

駆けこめばレニーラとシュシュが何とも言えない目で出迎えてくれた。

そして視界いっぱいに映るモノを見つめ……アイルローゼは完全に凍り付いた。

急いでいたのもあって途中で魔法を解いていた。だから外の様子が分からなかった。

でも今は分かる。ノイエの目を介して全てが見える。それも“音声付き”でだ。

『ダメ……馬鹿弟子……んんっ……そんな……んっ!』

全てが見えた。1人でしているところを客観的な角度で全てだ。

「あ~。アイルローゼ?」

代表してレニーラが声をかける。だが表情を無くしノイエの視界の一点に目を向けている魔女は何も聞こえていない様子だ。

魔女は拘束されてあられもない自分の姿を見せられている彼の姿を見ていた。

そう彼の姿をだ。

「……死のう」

表情を消し幽鬼のようにフラフラと出て行く魔女を誰も止められない。

しばらく耳で追いかけたセシリーンは、魔女と遭遇して慌てるエウリンカの声を聴いた。だが魔女は彼女を無視して少し進むと……腐海の魔法を唱えたのだった。

「良し! 成功!」

魔眼の中枢に向けていた意識を戻し、刻印の魔女は内心でガッツポーズをする。

作戦は成功した。これであの魔女はしばらく何もできない。

そして刻印の魔女は次なる標的を定める。

あの魔剣を作るふざけた存在をようやく見つけたのだ。

『先生が……僕を相手に? マジですか? うわ~これは一生見ていられるかも』

眼福すぎてアルグスタは、その何度も繰り返される映像をずっと見続けていた。

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