軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

またたたかいですか?

「……にゃ~」

「あらあら猫が拗ねてしまったわ」

「にゃん」

外から戻って来たファシーは猫に戻ってセシリーンの足を枕にした。

甘えるように……猫ならば好きに甘えても良いという相手の気配を感じ、セシリーンは手を伸ばし優しく頭を撫でてあげる。

「大丈夫よ。彼は貴女を嫌ったりしない」

「なぁ~」

「本当よ。嫌うとするなら最初から付き合わないでしょう?」

頭を撫でていた手を動かし優しく顎の下をくすぐる。

軽く顎を伸ばしてファシーは仰け反った。

「彼は優しいから……だから貴女に怪我を負わされても怒ったりしない。優しく抱きしめて泣き止むまで傍に居てくれる。平気よ」

「……」

猫は鳴かずに両手でセシリーンの手を掴んだ。

「でも、わたし、は、わるい、こ」

「それを言えば私たち全員がそうよ」

この場に居るのは全員が人殺しだ。咎人の罪人だ。

それを理解していても彼は全てを受け入れる。恐ろしいほどに鈍感なだけかもしれないが。

「貴女が彼を夫として慕う限り決して見捨てたりしないわ。いいえ。彼は慕われなくても見捨てたりしないから」

「……ほん、とうに?」

「ええ。それが彼の良い所なのだから」

笑いセシリーンはファシーを撫でる。

改めて歌姫の手を受け入れた猫は、そっと腕を伸ばし正面から抱き着いて来た。

「あら? 珍しいわね」

胸に顔を押し付けてくるファシーはらしくないほど感情を発していた。

それはどれも……覗き見た歌姫は自分の背筋が凍り付くかと思った。

想像していなかった。ファシーが、彼女の胸の内がこれほどまでも深い闇で満ちていることを。

《だからこの子は迷い続けているのね》

頭を撫でて甘える猫を抱き寄せる。

胸に挟まるファシーはゆっくりと顔を上げた。

「……ノイエ、の方が」

「はい?」

「ノイエの、方が、大きい」

「……」

黙って歌姫は無礼を働く猫を胸で挟んで黙らせた。

《王女は封じた。あとはあの宝塚と術式の魔女ね》

クスリと笑い足の長い椅子上の物に腰かけ刻印の魔女は足を組む。

《宝塚の方は私と考えが近いから話して餌を与えれば分かってくれそうだけど》

だからこそあの魔女が厄介なのだ。

強い力を持つ助っ人など物語の後半に姿を現し手助けすればいい。それなのにあの魔女は何かあれば外に出て手を貸してしまう。彼と妹に対して優しすぎるというか甘すぎるのだ。

《性格が良すぎるのよね。不器用な割には……》

だからこそ難敵ですらある。

あれを黙らせるには……最終手段を使うしかない。

『ししょう。ここですか?』

「……着いたのね」

思考を止め、目の方へと意識を向けた。

乾いた土が広がる荒野にはヒビが走り、土の中から良くない気配が溢れていた。

所々部分的に姿を現している気もする。正直見るに堪えないので指を動かし魔法を綴り、全体的にモザイク処理して見えないようにした。

たとえ三大魔女でも我慢できないものはある。

「もう数日と言った感じね」

『なにがですか?』

「今は気にしなくても良いわよ。もう数日すれば分かるのだから」

弟子の言葉を軽く受け流し、体の操作を完全に奪う。

小さなメイド服姿の体を操り、刻印の魔女は座っている箒を上空に向けた。

スルスルと昇り上空から地面の様子を見つめる。

場所は古戦場だ。歴史書によるとこの地でユニバンス王国は共和国軍と戦った。血で血を洗う酷い戦いを繰り返した場所は長い月日を得て自然が支配する土地となっている。

けれどまたその地が荒れだしていた。

「異世界魔法って言うのは厄介よね。私も詳しくは知らないし……でも面白い」

クスクスと笑い、もう一度確認をして回り……魔女は箒の先を王都へ向けた。

『ししょう』

「何かしら?」

『またたたかいですか?』

心根の優しい弟子は泣きそうな声を伝えてくる。

「そうね。人はどうして戦いたがるのかしらね?」

答え魔女は苦笑する。

自分もまた戦うために準備を進めているのだから……本当に酷い話だと理解した。

「ポーラ様がぁ~」

「はいはい落ち着こうか?」

お昼になり執務室で真面目に働く僕が軽食を求めていたら、ミネルバさんが駆け込んできた。

滂沱の涙から魂の叫びに全てを理解する。

またウチの妹が行方不明らしい。そろそろ本気で発信機を取り付けたくなってきたな。

「ちょっと待ってね」

色々と崩壊しているミネルバさんの様子に圧倒され、僕は頭を掻きながら開かれた窓に近寄る。

「ノイエ~?」

「……はい」

無音でお嫁さんが姿を現した。

窓枠の下に乗っかり上の部分を掴んで体を固定している。手慣れたものです。

「ポーラを見なかった?」

「……」

こらこら姉よ? 軽く首を傾げて『誰?』って顔をしない。妹の名前ぐらい覚えてよ。

「小さいメイドです」

「……あっち」

理解してくれたのかノイエが後ろを振り返り指さす。

この方角は北ですね。屋敷にでも戻っているのか?

「あっちに居るの?」

「居る」

「お屋敷?」

「違う」

「ならどこ?」

「……」

振り返ったノイエが少し首を傾げ、何故か僕に手を伸ばしてくる。

何だろうと迎え入れたら首に腕を回してキスして来た。

「ノイエさん?」

「もう一回?」

何故かまたキスして来る。

これは何だ? ノイエは何をしたいのだ?

「もしかしてノイエ」

「もう一回?」

続けて三度キスしようとするノイエの頬を両手で挟んで動きを止める。

「む」

「誤魔化そうとしているでしょう?」

「それ、知らない」

フワフワとアホ毛を揺らしてノイエが視線を逸らした。

ウチのお嫁さんが下手糞な誤魔化しを覚えたようです。誰だ犯人は? ホリーか?

「誤魔化さないで答えなさい。ポーラは?」

「……分かった」

「何が?」

ノイエが腕を離してそっと動き出す。

窓枠を蹴って矢のように飛んでいくと……しばらくして戻って来た。

箒を掴み目を回しているポーラの片足を掴んで吊るしているノイエ。

空中移動していたポーラを確保し、そのまま連れ戻すとは無茶をするお嫁さんだな。

「ミネルバさん。見つかったよ~」

室内に振り返ると、ヘナヘナと腰を抜かしたように床に座り込むミネルバさんの姿が。

うむ。ワンハンドキャッチで運ばれてきたポーラの姿は衝撃が強かったのかな?

「にいさま。たすけてください」

天地が逆になっているポーラが涙しながら助けを求めてくる。

助けを求めるのは良いんだけど、君にはまだ紫の下着は早い気がします。兄としての意見ですが。

「うむ。最近色々とやりすぎな気がするから少し罰です」

「はう~」

ウルウルと泣き続ける妹の様子に気づいたノイエがあっさりと手を解く。

頭から床に落ちるポーラが石床と激突とかはない。サッと床に手をついてトンボを切って奇麗に着地した。

本当にウチの妹は……将来何になりたいのだろうか?

(C) 2021 甲斐八雲