軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わたし、は、わるい、こ

「ひどいです」

プンプンとらしくないほどポーラが怒っている。

首を傾げたノイエがそっと手を伸ばして彼女を抱き寄せると、良し良しと頭を撫でだした。その優しさをたまには僕にも見せて欲しいです。お嫁さん。

仕事を終えたノイエも合流して、みんなで一緒に帰宅する。

ノイエが合流するまで僕らの帰宅が許されなかったのは陛下が直接確認したかったっぽい。でもお兄様が呼んだところで、先生を含め誰一人として出てこようとしないのがノイエの姉たちです。僕が呼んでも出ない時は出ないのです。

それから馬車に乗り家路につく。

馬車の中で家族の時間を過ごしているけれど……ポーラの不満が止まらない。

「どうしてふぁしーおねえさまがあんなにもわるくいわれるんですか?」

ノイエに抱かれながら僕に顔を向けてくる。

頬を赤くして本気で怒っている。ファシーに『守るから』と言われたのがよほど嬉しかったんだろうな。

「仕方ないんだよ。ポーラ」

「しかたないんですか?」

僕の言葉にポーラの怒りが強くなる。気に障ったかな?

「ファシーはあの日に人を殺しすぎたんだ」

数としては先生より少ない。どうにか三桁だ。

「先生やカミーラはたくさん人を殺した。でも王都内で一番酷く言われているのがファシーなんだ。どうしてだか分かる?」

「わかりません。わかりたくないです」

怒りすぎて思考を放棄しないの。

そっと手を伸ばし僕もポーラの頭を撫でる。

先生とカミーラ……そしてファシーとの間には決定的な違いがある。

「先生たちは軍に所属している人を殺した。だから貴族や軍の人たちから恐れられている。てもファシーが殺した人たちは全員普通の人なんだよ」

戦うことのできない非戦闘員と呼ばれる一般の人たちを、だ。

それをファシーは笑いながら殺して回った。唯一の救いは彼女が暴れた場所がスラムに近い場所だったことだ。人気の少ない場所で暴れ出したから殺害した人の数が少なかった。

もし王都の人通りの多い場所で彼女が笑いだしていたら……殺害した人の数は先生を超えたかもしれない。

「ファシーは戦うことのできない人をたくさん殺した。だから先生たちよりも酷く言われているんだよ。本人があんなに優しく臆病な存在でもね」

「……」

シュンと俯いてポーラが悔しそうな表情を見せる。

ノイエはポーラをギュッと抱きしめて……何故か僕を見つめて来た。

「泣かせた」

「ノイエさん。結果だけを振りかざすのはズルいと思います」

「ダメ。結果が全て」

たまにズルいな! このお嫁さん!

「……お仕置き?」

「そんな言葉を誰から学んだ!」

「青い人」

「ホリ~さんよ~!」

ノイエを毒しすぎだホリー!

怖い。屋敷に帰るのが怖い。

無情にもガタガタと揺れる馬車は屋敷に向かい真っ直ぐ進む。

ただ僕とノイエの会話を聞いていたポーラは、最後に笑みを浮かべていた。

「喜んでいいのかしら? この状況下で」

「人は素直が一番だとお姉さんは思うわよ」

クスクスと笑うローブ姿の女性に王女……グローディアは自分の髪を軽く撫でて気持ちを抑えた。

強い意志が必要だった。目の前にあの召喚の魔女の遺産が転がっているのだ。それも所狭しと。

いつも通りに通路の隅で魔法の研究をしていたグローディアの元に突如として姿を現した。

刻印の魔女だ。

フードで顔を隠しやって来る魔女は、ただ一言『見せてあげるわ』とだけ告げて付いて来るように促してきた。

喜んでグローディアは従った。

従い案内されたのは魔眼の右目に存在している場所だった。

召喚の魔女が残した遺産が並べられた場所……しいて言えば楽園だった。

「ひと通り調査は終わっているから、好きに遊んで良いわ」

「あら? 遊んで良いの?」

「ええ。持ち出せるのなら」

壁の一部に腰かけ魔女は笑う。

その様子に多少苛立ちを覚えながら、グローディアは好奇心を抑えられずに遺産へと目を向け手を伸ばした。

「これは……どうしたらこんな?」

「それが偉大なる召喚の魔女の実力よ」

驚愕に打ち震える王女に対し、魔女は足を組みその姿を眺める。

「あの子は基本的に戦うことに向いていない性格だった。優しいというか依存の強い性格だったのよ。だから姉か私の後ろに張り付いて……それでも少しは役に立とうと頑張った。結果がそれらの道具よ。あの子は私たちのためにと道具を作り続けた」

「一番秀でていたのが召喚魔法だった?」

「と言うか移動手段で悩んでいた私たちの為に彼女はそればかり研究したのよ」

思い返せば召喚の魔女は子犬のような存在だった。

姉であるユーアと瓜二つの容姿をしていたが、引っ込み思案で依存が強く……だからこそ必死に学んでいた。少しでも役に立ち愛されようと努力していた。

「……同じ血を引いているのになんであんなにも性格が変わるのかしらね?」

「それを私に聞く理由は?」

「ただの愚痴よ」

目を爛々と輝かせて遺産を漁る王女に、魔女は愚痴を吐ていた。

違った意味で一途な部分は同じなのかもしれない。一途すぎて性格を病んでいるとも言えたが。

「ねえ魔女」

「何かしら?」

「これとこれを外に出したいのだけど?」

王女が選んだのは2つの巻物だ。

それを見た刻印の魔女は薄く笑う。召喚に関する魔法においてこの王女の実力は本物だと再確認した。

「その2つなら表に同じ物を置いてあるわ」

「……」

一瞬大きく目を開いた王女は、少し拗ねたように頬を膨らませた。

「試したのかしら?」

「ええ」

「……本当に嫌な女ね」

「でしょう?」

クスクスと笑い刻印の魔女は立ち上がる。

「でもここにある物を任せるに値する人物だと確信を得たわ。だから好きになさい」

「それはここで調べても良いと?」

「好きになさい。戻りたいときはそこの鏡を使えば普段貴女が居る場所に戻れるわ」

ツンツンと壁に引っ掛けている鏡を指さし刻印の魔女は部屋を出ていこうとする。

「使い方が分からないのだけれど?」

出て行こうとする魔女にグローディアはそもそもの質問をした。

「あら? 何もかも教えてもらわないと何もできないの? 王女様は?」

「……要らないわ。さっさと出て行ってくれるかしら」

「ええ。分かったわ」

クスクスと笑い魔女はその姿を消した。

「ね、た」

「寝たね」

ノイエの姿をしたファシーが優しくポーラを撫でていた。

膝枕をし、猫のように丸まっているポーラは穏やかな顔をして幸せそうに寝ている。

悪く言われたファシーのことで機嫌を悪くしていたポーラの為に、セシリーンにお願いしてファシーに出てきてもらった。呼んですぐに出て来たところを見ると近くに居たっぽい。

それからポーラを呼んだら、彼女はずっと不満を言ってファシーに甘えた。

自分のことを良く言ってくれたポーラをファシーはずっと撫で続けていた。

まあもう寝たから良いかな。

「ねえファシー」

「は、い」

「どうしてそんなに困った顔をしているの?」

「……」

僕の声にファシーの表情が少し柔らむ。

笑いだす前に優しく撫でて予防線を張る。

「言いたくないなら良いんだよ。と言うか酷い質問をしたかな?」

「だい、じょうぶ」

フルフルと震えながらファシーは僕に目を向けてくる。涙が浮かんでいた。

「……わた、しは」

「うん」

「わたし、は、わるい、こ」

ポツリポツリとファシーが語る。

「たくさん、ひとを、ころした」

「うん」

「わるい、こ」

「そうだね」

もう一度頭を撫でる。

ポロっと涙がベッドシーツに零れた。

「でもファシー」

「は、い?」

ゆっくりと顔を上げる彼女に僕は正直に告げる。

「ファシーなら償えるよ。そんな気がする」

「……」

何も答えず彼女は小さく笑った。

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