軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

泥棒と呼んでも良い

「記憶改ざんの魔法って人体に害とか出ないの?」

「大きく変えればそりゃ不具合は出るでしょうけどね。でもこれぐらいなら思い違いのレベルだから」

そう言ってポーラの姿をした馬鹿賢者がスカートの裏に日記帳を隠した。

再び魔法を使った彼女は、台の上に置かれていた日記を別の本と認識するようにしたらしい。それをした理由は、日記の中身を読まれたくなかったからだとか。

「日本語なんて僕らしか分からないだろうに」

「それでもよ。それに……」

そっと苦笑いを浮かべたポーラが自分のエプロンに触れる。

「日記なんて基本黒歴史よ。他人に読まれるだなんて拷問でしょ?」

「まあね」

たぶんそんな理由じゃないと思うが、追及したところでこの馬鹿は白状しない。

だったら好きにさせておく方が良い。僕に害が無いのなら特にだ。と言うか馬鹿賢者の日記帳一冊ぐらいは可愛いレベルだ。

僕の目の前では底辺の争いが繰り広げられている。

東側・アイルローゼ

西側・バローズ

両者が睨み合い、そして言葉による暴力を振るっている。そう……暴力だ。

「譲れないわ! と言うか私に全部譲る気になったから声をかけて呼び出したのでしょう? 譲りなさいよ! 全部!」

「全部譲る気など最初から無いわっ! この強欲娘がっ!」

「強欲結構! 私はここにある全てを調べたいの! 分かる? 分かれ!」

「分かるかっ! これほどの資料を独り占めする者が何処に居るかっ!」

「居るわよここに! この場所に! 貴方の目の前に!」

「見たくも無いわっ!」

「なら目を瞑ってついでに棺桶にでも入りなさい。死ぬば何も持って行けないのだからっ!」

「それはお主も同様であろうっ!」

「あ~も~煩い爺ね!」

先生もかなり煩いです。

露骨に両耳に手を当てて封をするポーラの姿をした馬鹿の気持ちも理解できる。

酷い戦いだ。余りの酷さにそろそろ取っ組み合いの喧嘩に発展しそうな程度の低さだ。

見なさいフレアさんを。不幸体質が染みつきすぎているせいか、この後の展開を予想して1つ1つの道具をチェックし始めたよ。

「ノイエさんノイエさん」

「むは~。大半が~召喚~魔法~なのは~悲しい~ぞ~」

「諦めろ。召喚の魔女の遺産だ」

「だぞ~」

フワフワしながら資料の類を眺めていたノイエの姿をしたシュシュが戻って来た。

「ん~。旦那ちゃん」

「なに?」

僕に抱き着いたノイエが、スリスリと身を寄せて甘えてくる。シュシュなんだけどね。

「グローディアが全部確保しろって騒いでるぞ~」

「なら自分が出てきてシュニット国王と話し合ってくれと言っといて」

「言うのは良いけどあとで出てきて旦那さんが酷い目にあうよ?」

「それは嫌だな」

可能性は高いけどね。こうやって僕はまた1つ悪事を重ねるのだよ。

せめてもの癒しを求めて抱き着いているノイエをギュッと抱きしめている。ノイエの姿をしたシュシュは抱きしめられているせいでフワフワ出来ない。おかげで口調が普通だ。

背後からもう一度ギュッと抱きしめたら……ふと彼女が静かになった。

「ノイエ?」

「はい」

どうやら本来のノイエに戻ったようだ。

僕に抱きしめられていることを理解したノイエが体重を預けてきて増々甘える。

お嫁さんに甘えられるのは最高の喜びである。ただ最近は加減を間違えるとノイエさんの変なスイッチが入ってしまう危険がある。全ての罪はホリーだと思うが。

「お姉ちゃん」

「ん?」

ジッと先生を見つめているノイエがゆっくりと口を開いた。

「楽しそう」

「そうだね」

片膝を立てて今にも殴り掛かりそうなアイルローゼは自分の服装を忘れているのかもしれない。

結構きわどい角度から下着を晒しているのだけど……見て見ぬ振りが紳士なのだと僕は思う。どうせ隣でドクロ水晶を取り出したポーラの姿をした悪魔が録画しているしな。

「ふと気づいた。馬鹿賢者よ」

「何よ?」

「そんな風に趣味を満喫するために表に出ているから魔力が貯まらないんじゃないの?」

ことあるごとに『使用する魔力が~』とか言っているのをよく耳にする。

その原因がこんな風に表に出ているからだと僕は思うのです。

「馬鹿なの?」

「その心は?」

「私はたとえそれでピンチになったとしても全力で趣味を満喫する女よ! 分かれ!」

「……分かりました」

つまり魔女と名のつく人たちはやっぱり何かが変なんだな。

あっ……とうとう先生が相手の胸ぐらを掴んだよ。

「ノイエ」

「はい」

「お姉ちゃんを背中から抱きしめて暴れないようにしてきて」

「はい」

抱きしめて居たノイエを解き放つと、彼女は姉を背中から抱きしめてこれ以上の暴挙を制した。

僕が間に立つことで話を纏めた。

今日の所は全部を回収し、後日分け合うということで話を終えた。

『どうやってこれらの全てを“秘密裏”に運ぶのか?』問題は、ノイエの異世界召喚と言う名の〇次元ポケットのおかげで解決です。

ノイエの秘密を晒すこととなったが得られる対価を考えれば安いものだ。

ただノイエがポイポイと魔法陣の中に荷物を放り込んでいる姿を見たフレアさんが何とも言えない表情を浮かべていた。

きっと今までに色々とあったのだろう。僕はマゾではないので質問をして苦しみを共有したりとかは絶対にしない。その苦しみはフレアさんに独占して貰う。

「で、今更ながらに言っても良い?」

「何よ?」

師匠との喧嘩をノイエに止められている先生がだいぶ苛立っている。

ただしそれは向こうも同じで、フレアさんが暴れないように大叔父の腕を掴んで制している。

「先生の試作品と資料の回収もあったんだよね?」

「……忘れてたわね」

うん。気付いてた。

「そっちに罠とかは?」

「どうなの?」

「……罠の類はない」

軽く咳払いをしてバローズさんが言葉を続ける。

「問題はその場所をシュシュが封印したぐらいだ」

「軽く大問題だね~」

まあ問題じゃないけど。

「ならさっさと行って回収しちゃいましょうかね」

「だからシュシュの封印があってだな……待ちたまえ」

背後でバローズさんが何か言っているが僕らは無視してさっさと先を急ぐ。

一度今居る場所を出て別の通路からまた地下を目指さないとダメらしい。

ふと背後があまりにも静かな気がしたから肩越しに振り返ると、肩を落としたバローズさんを慰めるように声をかけているフレアさんが居た。

気のせいかあの爺さん……今日だけで少し老けてないか? 大丈夫?

先回りと言うかズンズンと先生がノイエの手を引いて……シュシュを呼び出して封印の解除をしてしまった。どうにか立ち直って追いついて来たバローズさんは、封印されていた扉があっさりと開いているのを見て増々肩を落とす。

裏技のタネを知っているフレアさんが『相手が先生ですから……』と言って慰めている。

もし学院時代から先生がこんな暴走娘だったとか言ったら僕はバローズさんに同情するよ。

先生の試作品や資料などもノイエに預かってもらい、結局僕らは手ぶらで学院を後にすることとなった。

完全に持ち逃げだ。泥棒と呼んでも良い。

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