軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自慢にもならないでしょ?

ユニバンス王国・北部

女性は膝を着いて自分の腕を小石だらけの地面に向ける。

遠くで見守っているマスターと呼んでいる老人は何も言わない。代わりにその目が『早くしろ』と言っているようにすら見えた。

だから迷わない。ゆっくりと意識を向けて……自分の左腕を、肘から先を砕いて見せた。

パンッと風船が割れるかのように女性の左腕が弾ける。

肘から先を失ったが……出血などはない。額に玉のような汗を浮かべ苦痛に顔を歪めるだけだ。

「次へ行くぞ」

「はい。マスター」

フラフラと体を震わせながら女性は立ち上がる。

必死に足を動かし遠ざかる彼女らが居なくなってからしばらくして……ボコッと地面が揺れた。

まるで割れるように地面にヒビが入り、そしてそのヒビは確実に広がりを見せた。

ユニバンス王国・魔法学院入り口

面倒くさい手続きはミネルバさんとフレアさんがしてくれる。

魔法学院に来たというのにメイドさんが3人も居るとは、僕って本当に貴族様だな。

ただ昔と違い髪を短くして形だけの眼鏡をしているフレアさんだが、そんな簡単な変装を見破り彼女だと気づく人も居るのか、周りの学院関係者たちが軽く挨拶をしてくる。

そしてその軽い挨拶をした人は自分の迂闊さを後悔することになった。

何せこの場には前学院長を含む有名人が居るのです。

老いていてもその顔をひと目見て学院の関係者らしい人がピンと背筋を伸ばし直立する。名ばかりで学院には顔ぐらいしか出してなかったとか言ってたお爺さんの癖にだ。で、前学院長トラップをどうにかクリアーすると、次は国の英雄たるノイエを抱きしめて何かを補充している赤毛の存在に気づいて……二度見してから目を剥く。

王都内、特に学院内ではその噂が持ちきりなのだろう。

術式の魔女とよく似た特徴を持つ人物が前学院長と一緒に居ると言うことは……誰もが理解して全身を震わせ汗を流しだす。

僕らは免疫と言うか慣れているから問題ないが、アイルローゼは人殺しの罪人だ。これが正しい姿勢なのだろう。

また1人フレアさんトラップに捕まり、ひと通りの地獄を見た中年男性がガタガタ震えながら遠ざかっていく。

合流した学院に努める同僚たちなのか何か会話を……聞こえんな。どんな話をしているのかな?

「うふふ。そんな時にはこれ! 集音機的なヤツ~」

「……な~に土下座エモン。それ?」

「うふふ。これはね?」

何故か大きな人の耳の形をした何かを取り出した馬鹿賢者が自分の耳の上に張り付ける。

でっかくなっちゃってる~。

「こうすれば良く聞こえるわ」

「……そうっすか」

借りて片耳に取り付けてみると確かによく聞こえた。

『あれがあのアイルローゼなのか? 学院の中で破壊の限りを尽くしたという?』『らしいぞ』『あれがか? あんな服を着て……バローズ氏が連れて来た娼婦じゃないのか?』『あんな切れ長の目をした美脚の娼婦なんてこの王都のどんな高級店にも居ないぞ。居たら俺は嫁を質に入れてでも行ってくる』『だよな……というかあの足で踏まれたいよな』『そうだよな』

結論。学院の男共は変態しかいないらしい。

先生のあの美脚で踏まれたいだと?

チラリと視線を向けたら僕の心の中で何かが白旗を振った。

認めよう。彼らの評価は正しい。僕も混ざってこの良さを一晩中語り尽くしたいほどだ。

「弟子。さっきから何を見ているの?」

「お嫁さんが幸せそうだなって」

「……言ってなさい」

ノイエの背中から抱き着いているアイルローゼが『フンッ』と鼻を鳴らして顔を背けた。

あぶな~。また先生の足をガン見していたよ。

「そうそうそこの魔女」

「……何よ」

ポーラの姿をした馬鹿が付け耳を外して、ニタリと悪魔のような笑みを!

「今夜は眠れると思わないことね」

「……」

一瞬『何を言ってるの?』と言いたげな顔をした先生が顔を真っ赤にした。

たぶん僕と同じような何かに思い至ったのだろう。

ニタニタと笑う刻印の悪魔が……スッとその表情を正し、僕の耳から耳型の魔道具を回収した。

「お待たせしました」

「ごめんね。手続き任せて」

「いいえ。これぐらい」

フレアさんとミネルバさんが戻って来た。

「王城からの申請書を確認しましたところ、今回の申請が出ているのは私を含めここに居るほぼ全員です」

「ほぼ?」

「失礼ながら私は馬車での待機となります」

説明してくれるフレアさんに問うと、ミネルバさんがやんわりと頭を下げて来た。

確かに魔法使いでもないただのメイドさんなミネルバさんは……ここから先に入るのは色々と問題はあるか。

「それとアルグスタ様」

「ほい?」

「妹様もご一緒にと言うことですが?」

控えめな感じで問うてくるフレアさんの目は疑問に満ちていた。

中身の規格外な存在を知らないとそう思うよな。さてどうするか。

「お仕事です」

僕が言い訳をする前に片目を閉じたポーラが口を開いた。

「グローディア様からこの魔道具で様子を映しておくようにと言われました」

「……そうでしたか。失礼しました」

一礼をするフレアさんはたぶん悪くない。悪いのは水晶のような素材で作られたドクロチックな何かを掲げ持つ馬鹿賢者が全て悪い。

なにあのドクロ水晶? 精巧すぎて見てて引くんですけど?

『んふ~』と笑った馬鹿がエプロンの裏から紐を取り出してドクロ水晶を結んで首から下げる。

もうそのエプロンに対してツッコミは入れないことにした。きっとメイドさんのエプロンは別次元に通じているのだ。

「それとアイルローゼ先生」

「もう貴女の師ではないわよ」

「失礼しました。アイルローゼ様」

染みついてしまった癖なのだろうか、フレアさんはついそう呼んでしまい先生から叱られてしまった。

ただそれは何か酷いと言うか悲しいよね。彼女が先生の弟子であったことは間違いないんだから。

「別にここに居る面々の前ぐらいなら良いんじゃないですか?」

助け舟と言うか何となく口を開いたら、ノイエの肩越しに先生が睨んできた。

「私のような人殺しの弟子なんて……自慢にもならないでしょ?」

「そんなことはありません」

冷たくそう言ったアイルローゼの言葉をフレアさんが制する。

「私は術式の魔女アイルローゼに師事したことを誇りに思っています。思っているんです」

「……好きになさい」

俯き涙声でそう告げて来たフレアさんにアイルローゼは素っ気なく答える。

本当に先生は人間が不器用でいらっしゃる。

「ノイエ~」

「はい」

やはり僕らは最高の夫婦だな。お嫁さんが僕の気持ちを察して良し良しとアイルローゼの頭を撫でだした。一瞬眉間に皺を寄せた先生は、特に抵抗せずにその行為を甘受する。

「すまんな。挨拶が長引いた」

「いいえ。こちらも雑談に花が咲いてました」

「そうか」

学院の関係者らしき人たちと話し込んでいたバローズさんも戻って来て、僕らはようやく目的の場所に向かい移動を開始した。

「懐か~しき~我が~学び~舎だよ~」

フワフワと体を左右に揺らしながら、シュシュはノイエの目を介し外の様子を見ている。

学院長は……やはりお爺さんになっていた。最後に見た時よりも頭髪が真っ白になっていた。

今思い出すと自分たちが学院に居た頃は、彼は薄毛と白髪で悩んでいた気もする。

「魔法学院の地下か~。何か興味は湧かないね」

「そう~?」

「だね。だって倉庫みたいなものなんでしょう?」

「ん~」

横で座り一緒に外の様子を見つめているレニーラの言葉に、シュシュは首を傾げる。

「そうだね~。たぶん~倉庫~かな~」

「たぶん?」

聞き捨てならない言葉を聞いた気がしてレニーラは再度問いかける。

「うん~。ただ~色々と~仕掛けが~あるって~聞いた~ことが~あるぞ~」

「そっか。なら楽しめそうだね!」

胸の内をワクワクさせながらレニーラは外の様子に目を向けた。

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