軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あんな小娘に説教されるだなんてな

旧アルーツ王国領・現ユニバンス王国自治領

「将軍」

「何だ?」

「はっ! キシャーラ様から『引き返せ』とのご指示です!」

伝令としてきた兵はその顔から血の気を失っていた。

貧乏くじを引かされた……そう思うのには理由がある。

自身の家族のようなに付き合っていた上司を失ったオーガが指示を受けるわけがない。誰もが彼女は真っすぐ帝国帝都に殴り込みに行くものだと信じていたからだ。

だがその報告を聞いたトリスシアは、ガリガリと頭を掻いて立ち上がった。

「アタシに戻れと?」

「はい」

「……」

目の前に来た巨壁のようなオーガに対し、伝令は死を覚悟する。

「……そうか。分かったよ」

あっさりと受諾した。

見ている者たちがビックリするほどにあっさりとだ。

「戻るよ。支度しな」

告げて彼女は武器である金棒を担いで天幕を出た。

彼女を前から知る部下たちは顔を見合わせ……何とも言えない表情を作り出す。

失ってからその大きさを理解したのだ。

あのオーガがこうなってしまうほどに、彼の存在の大きさを。

外に出たトリスシアはガリガリと頭を掻いて空を見た。

このままの勢いで帝都まで殴り込みに行くのは簡単だ。

大国であり強国であった帝国はもう過去の存在になりつつある。小国ユニバンスを攻めきれず、ついには皇帝の弟にまで反旗を翻され挙句虎の子の軍師を失った。

帝国に攻められていた国々はその報を知ると一斉に奮い立った。結果として帝国は全方向から攻められている。

自業自得とも言える状況であるが、最悪なのはこのタイミングで皇帝が死んだらしい。

決定的とも言えた。

「復讐する相手が居ないんじゃ……行く必要もないしな」

気の抜けた声を出してトリスシアは苦笑した。

分かっている。あの時に言われた言葉がずっと頭の中に残っているのだ。

『早く帰って』

あの日だって父親と喧嘩などせずに帰っていれば失わなかった。

先日も全てを抱えず戦闘で無茶をしていなければ失わなかった。

引き際を見極められない自分が愚かな存在なのだとトリスシアは理解していた。

「あんな小娘に説教されるだなんてな……本当にダメな娘だよ。なあヤージュ」

握った拳で自分の腹を叩き、トリスシアは今一度空を見上げる。

また胸の内が張り裂けそうなほど痛くなったからだ。

ユニバンス王国・王都内貴族区

「狙うのであればやはり王弟か?」

「無理だろう。彼には常に近衛の騎士が傍に居る」

「ならばやはりアルグスタか?」

何度も開かれる会合で、最近の議題となのは誰を狙うかだ。

国王であるシュニットは特に守りが固い。

挙句に魔道具である『身代わり』を持つという噂もある。身代わりとは致命的な一撃を引き受ける魔道具だ。それがある以上最低でも2回は国王に致命的な攻撃を繰り出さねばならない。

「アルグスタの周りは?」

「これと言った護衛は居ないとか。何でも本人がそれを嫌っていると言います」

「そうか」

腕に自信のある王弟ハーフレンがそれを言っているのであれば誰もが納得する。しかしアルグスタの実力は底辺だとその王弟が言っているのだ。

つまり彼は自分を囮にしていると考えるべきだろう。

「南部の貴族の恥さらしだ」

「ああ。ルーセフルト家が健在だったら我々はここまで窮せずに済んだものを」

口々に不満をするのは南部に属する者たちだ。

大貴族であったルーセフルト家を滅ぼしたのは王家の者たちである。特に王子でもあったアルグスタが王家の手助けをしたのが原因だと誰もがそう思い込んでいた。

その証拠に彼は国でも有数な金持ちになり、その権力を好き勝手に振るっているのだから。

怨敵アルグスタと勝手に恨み妬みを重ねる南部の貴族は多い。

「問題はあれをどう殺す?」

「あれには凶悪な化け物が居るのだぞ?」

化け物……国の貴族たちはノイエのことをそう呼んでいた。

単身でドラゴンを退治して回る化け物。

その気になれば誰でも簡単に殺せる化け物。

何よりどんな罪でもなかったことに出来てしまう化け物……これ以上に厄介な存在を彼らは知らなかった。

「だが案ずるな。我々にはあの化け物を死に陥れられる存在が居る。その者たちの手を借りれば……あの化け物を屠ることすら可能だ」

会合を重ねる者たちは気づいていない。

自分たちの当初の計画では、怨敵アルグスタを排除することを目標に掲げていたことを。

その際邪魔になるノイエには一時的に戦線離脱をしてもらう程度に考えていたことを。

けれど今の彼らは違う。確実にアルグスタの暗殺が主眼になっていた。

その為の話し合いであり、その為の会合となっているのだ。

誰もが理解できていない。それが普通であることを。

誰もが気づいていない。そこに第三者の存在が居ることを。

不毛な話し合いが終わり、彼は人の流れに従うように部屋を出た。

久しぶりに行使している魔法は順調に作用していた。おかげで誰も気が付かない。

順調に話が進めば全員が元王子を狙うことだろう。

《老骨に酷い仕事をご命じになる陛下だ》

苦笑しながらも彼は屋敷を出る。

王都に住まう上級貴族の屋敷からだ。

この秘密裏に繰り広げられている会合に参加するには貴族の地位が必要だった。

彼は一度それを返上していたが抹消はされていなかった。おかげでこうして普通に参加できるのだ。

本来ならもう2度と王都には足を運ばない気でいた。

再三再四、国王陛下からの出頭要請も断り続けて来たのだ。

けれど少しだけ話が……風向きが変わった。

生きていたのだ。彼女が。

それを知ったら一度だけ姿が見たいと思ってしまった。

故に王都からの要請に応え、ついでにあれを全て渡せればと思いやって来たのだが……

《本当に人使いが荒い陛下であるな》

自身が率先して無茶をするから周りも出来ると思ってしまっているのだろう。

働きすぎの弊害でもある。

《多少恩を売っておけば……こちらからの申し出も断りにくくなるのは道理》

ゆっくりと足を動かし彼は歩き出した。

貴族区に存在する一族の屋敷ではなく、王都内でも中ぐらいの宿に向かってだ。

《会えるだろうか? 我が弟子に……》

心の内で呟き彼はゆったりと歩を進める。

その昔……ユニバンスの宮廷魔術師と魔法学院の学校長を務めた人物が。

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