作品タイトル不明
それ、知らない
ミネルバは最後に屋敷の内外を確認して自室へと戻るはずだった。
今日も見張っていたが夫婦以外の気配が増える様子は無い。何とはなしに日数を数えれば、最低でも5日以上間隔が開くことが分かって来た。たぶん魔法の使用に使う魔力の関係か、魔道具の関係なのかもしれない。それが分かれば見張りの回数も時間も減らせる。
先日気配が3人だったから、今夜は速く引き上げて問題ないはずだ。
だから最後の見回りをしていたら、調理場で調理人が首を傾げているところに出会った。
何でもお店……菓子店であるブロストアーシュから届けられた新作菓子が無くなったらしい。
詳しく聞けば貴族たちからの強い要望で、風味や匂いが目立たない酒精の残った菓子を作って欲しいとのことで作られた物だとか。
何に使うのかは言うまでもない。貴族とはそういう生き物だとミネルバは理解している。
そのどうでも良い菓子が消えたらしい。
たぶんメイドの誰かが主人からの贈り物と勘違いして持って行ってしまったのかもしれない。
屋敷の主人はお菓子の類を自由に持って行って良いとしている。
おかげで体重増加を不安視するメイドたちは一生懸命に仕事をして脂肪を消費している。嫌な意味で上手い手法とも言える。
見回りを再開し、最後に本当の主人と定めているポーラの部屋の前へと来る。
室内から気配がしない。手洗いかと思い確認するが気配がない。考えられるのはただ1か所……速足で屋敷の主人が使う寝室へと向かった。
「あっちょうど良かった」
メイドさんを呼ぼうかどうしようかと悩みつつ、もしかしたらと思って部屋の外を覗いて見たらミネルバさんが速足でこっちに来ていた。
てっきり今日も外で待機しているかと思っての行動だったのに悪いことをしたかな?
「ミネルバさん」
「はい」
「何かポーラが変なんだけど……理由を知ってる?」
ハリセンチョップが会心の一撃だったらしく気絶したポーラをそっと彼女に差し出してみる。
恭しく受け取った先輩メイドさんは、何故かその鼻を妹の口元へと。
「微かにお酒の匂いがします」
「お酒?」
ポーラはお酒なんて飲むような悪い子ではありません。
なら犯人は馬鹿賢者か?
「調理場から新作のお菓子が無くなったと聞いています。特徴からしてもしかしたらポーラ様が食べたのかもしれません」
「そうなんだ」
ポーラは我が家の一員ですから好き勝手にお菓子を食べても怒られない存在だ。
でも寝る前にお菓子を食べるような子じゃないんだけどな?
「何かあったの?」
「たぶんですがメイドの1人が体調を崩していまして……それでもしかしたら」
「ああ納得」
風邪でも引いたメイドさんの為に、ポーラが祝福を使って氷水を作ったのだろう。
それでお腹が空いて新作のお菓子を食べて……お酒入りとはウイスキーボンボン的な物かな?
ただハリセンチョップからの気絶は心配だな。出来たら今夜一晩ぐらい様子を見てて欲しい。
「ミネルバさんはもう休む感じ?」
「はい。最後に見回りをしていまして」
真面目か!
「なら今夜だけポーラについててもらって良いかな?」
他のメイドさんだとポーラを溺愛し過ぎてて色々と心配になる。
けれど目の前に居るミネルバさんはポーラを大切にしてくれているが、メイドさんみたいに一線を越えるような不安はない。
ミネルバさんは驚きポーラの様子を伺う。
「……私がですか?」
「頼んだよ。命令ね」
「……畏まりました」
恭しく一礼をして、彼女はポーラをお姫様抱っこして運んで行った。
これでこっちの問題は良い。明日の朝にでもポーラにちゃんと謝れば良いはずだ。
問題は……こっちか。
扉を閉めて部屋に戻ると、椅子の上で先生が丸くなっていた。
両足をギュッと抱えて顔を真っ赤にしている。ノイエの姿だから普段の3倍は可愛い。
僕の視線に気づいた先生は、増々顔を真っ赤にして膝で隠そうとする。
「あの~先生?」
長い沈黙に耐えきれずとりあえずで口を開いた。
膝で顔を隠す先生が、膝頭の隙間から片方だけ瞳を出してこっちを見てくる。
何この可愛い生物?
「まあリグとはそのね……」
言葉が続かね~!
しちゃいましたよ。確かにリグとしましたよ。
でもそれは流れと言うか勢いというか……はい。あの胸の誘惑には勝てませんでした。だって僕は健全な男子ですから!
あんな大艦巨砲主義のような胸を見て反応しない不能じゃないのです。反応しまくりなのです。だって目の前に男のロマンがあったのだから手を伸ばしたさ!
言葉が続かずに頭を掻く。
気づけば今の僕って浮気を告白するような亭主の状態なのは何故でしょうか?
確かに先生との関係はあまり進展していません。と言うか先生自体が恋愛が良く分からないからと言ってるんで、僕も無理に突き進めようとか思わないしね。
変に求めて関係が壊れるのが嫌と言うか、求めすぎて周りの不評を買うのが怖いという一面もあります。具体的に言えば現在リグはあの胸を削がれているとか。
ノイエの魔眼の中だと傷の治りは速いらしいし、液状化しても生き返るらしいから問題無いらしいけど。
「……ねえ」
「はい」
チラッと見てくる先生がまた顔を隠した。
「……できない女は嫌?」
何て言う質問を投げかけてくるんですか!
「別に発情した犬でもないので大丈夫ですよ?」
「……本当に?」
「はい」
と言うかしたいのであればノイエが居ます。
彼女の場合はもう最近当初の目的を見失っていないかと思うほどにウエルカムです。気を抜けば毎日です。
「人それぞれの付き合い方と言うか距離感があっても良いんだと僕は思います。ただ最近のノイエとかホリーとかは少し自重を覚えて欲しいかなって思いますけど、それが個性だと言うならまあ仕方ないですよね。僕の腰が壊れそうですけど」
「……そう」
呟いて足を抱きしめたままの先生が隙間からこっちを見る。
「……でもね」
「はい?」
「嫌ってわけじゃないの」
また顔が真っ赤になったね。
「ただ……恥ずかしいの……」
「そうっすか」
何この純情路線は? 乙女か!
最近忘れていた何かを僕は思い出すことが出来た気がします。
ありがとう純情の神様。神殺しの魔女によりここは神様が居ない世界らしいけど。
心の中で何かに感謝していると、スッとノイエが両膝を離した。
色が抜けていて普段の彼女に戻っていたのだ。
「する?」
「……」
乙女は消えていつもと変わらないお嫁さんが目の前に。
「やる」
「ってノイエさん? もう本当に自重を思い出そうか?」
「それ、知らない」
お嫁さんが自重を闇に葬り去りました。
「……」
周りの視線にアイルローゼは身を丸めコソコソとその場を離れていく。
もう見てて視線が生暖かくなってしまう。
「アイルは~本当に~可愛い~ぞ~」
「うむ。旦那君にはあっちの方が受けが良いのかな?」
「レニーラには~無理だ~ぞ~」
「何おう? 私だってちょっと本気になったらあれぐらいのこと出来るんだからね!」
「無理~だぞ~」
フワフワと踊るように歩いていくシュシュをレニーラが追う。
そんな2人の様子に耳を向けていたセシリーンは、そっと自分の足を枕にしている少女を撫でた。
「あんな風が良いらしいわよ?」
「にゃん」
我関せずと言った様子でファシーは小さく鳴いた。
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