軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

犯人はオーガさんですか?

「アルグスタ様」

「何でしょう?」

何も変わらない僕の執務室。

今日も平和なはずなのに……どうしてこうなった?

「本当に言いにくいんですけど……最近突発での休みが多くて困るんです。具体的に言えばこんな感じになるくらいに」

「うむ。由々しき事態だな。考慮しよう」

「そうですか。なら私は」

逃がさないよ?

ペコっと頭を下げて逃げ出そうとしているクレアの頭を掴んで確保する。

気温が熱くなってきたので、今年もクレアは髪の毛をアップにして頭の上を鳥の巣のようにしていた。

うなじを出すことで旦那さんから『大人の雰囲気がするね』とおだてられて調子に乗っている愚か者だ。たぶん奇抜な髪形をどう褒めたらいいのか分からなかったイネル君の起死回生の言い訳だったに違いない。僕には分かる。夫なんて常にお嫁さんに言い訳を重ねる生き物だからだ。

「離してください」

「だが断る」

上司と部下は共に苦労をし友情だか信頼だかを高める存在だと思うのです。つまりは、

「一緒に陛下に怒られに行こうぜ!」

「いやぁ~!」

嫌がるクレアを引きずり共に陛下が待つ部屋へと連行されていった。

「何故お前の部下が居る?」

「陛下に叱られる様子を見せておこうかと」

「どんな理由だ全く」

呆れ果てたお兄様がクレアのみソファーに座ることを許す。

カチコチに緊張したメンタルがお豆腐な彼女は、両手両足を同時に動かしソファーまで移動すると、座ったと同時に置物になった。

流石クレアだ。見ているだけで場を和ませる。

「昨日はどうして休んだ?」

「朝だと思って起きら、何故か夕方でした」

「お前と言う奴は……」

事実を告げたら陛下が頭を抱える。

仕方がない。ノイエの本気によって矮小な僕なんてあっさりと倒されてしまったのだ。

しいて言えば『薙ぎ払え!』で一網打尽にされた感じで。

「こちらも急遽の会議であったがために事前に通知は出来なかったが」

「はぁ」

気の抜けた返事をしたら増々お兄様の表情が渋面に。

えっと……昨日何かありましたっけ? ねえ?

「非公式の報告であるが……帝国の皇帝が崩御された」

「はい?」

今僕のお兄ちゃんは何と言いましたか?

「だからブロイドワン帝国の皇帝が死んだらしい」

ぶっちゃけた。そして投げやりになった。

頑張れお兄ちゃん。弟は違った意味で色々と頑張った結果、昨日ズル休みしたけどさ。

「犯人はオーガさんですか?」

「違う。発表は病死だ」

良かった。あのオーガさんが復讐心に駆られて暴走したのかと焦ったわ。

「で、何か問題でも?」

現状ウチと帝国は戦争状態だ。

軍師さんに奪われた領地を反転攻撃して奪い返している。ついでに言えば帝国側からのユニバンス側への裏切りも多く、兵の数を増やしながら帝国領に侵攻する勢いらしい。

それに加えて王都は戦争特需で経済が回っている。遠い場所での戦争は経済的には歓迎らしい。

物の売り買いが活発になって商人さんは大忙しだ。ただ戦費がかさむ国としては悩みどころだ。税金となって戻って来るのは先の話なので、現在の出費は自腹を切るしかない。

つまり国としてドラグナイト家への借金申し込みですか?

ならば心配無用。ドラグナイト家の散財王たる僕が頑張ってもノイエの稼ぎは莫大だからね。

今回の遠征の経費ぐらい貸しますよ? 良心的な金利で。

総合的に判断して問題は無いね。うん。無いね。

「問題はある」

あるの? おかしくない?

「帝国側から我が国に対し特使が派遣される」

それは僕の想定外でした。

「特使?」

「そう特使だ」

机に肘を置いてお兄様が世に言うゲ〇ドウポーズをとる。

イケメンがこの手のポーズをとるととても似合うから羨ましい。

「帝国は旧アルーツ王国領をユニバンスに引き渡す代わりに、今回の件を手打ちにしたいそうだ」

「……渡りに船ですか?」

「そう言うことだ」

つまりその申し出を抱えた特使がやって来ると言うことか。悪い話じゃないね。

問題はどうして僕が呼ばれたのでしょうか?

「特使は皇帝陛下の国葬に対し、ユニバンス王国から王族を招きたいとある。つまり」

「僕ですか~」

そう言うことね。

現状ユニバンスで王族と名乗れるのは2人しかいない。僕とイールアムさんだ。

ただし皇帝陛下の葬儀ともなれば、前王の血を引く僕に方が適任となる。

ちなみにグローディアは現時点で“王家”の人間だ。手続きの都合で彼女はまだグローディア・フォン・ユニバンスが正式名称だからだ。

変更に関する類の書類は届いているけれど、当の本人が姿を現さないせいで全てが止まった状態だ。本当に困ったちゃんである。

「ただそうなると……分かってますよね?」

「ああ。ノイエであろう?」

それ正解。ノイエが僕と離れて……うん無理。最近のノイエは甘えが強いしな。

「だから魔女に頼みたい」

「何をですか?」

「1回使いきりの転移の魔道具の作成をだ」

告げてくるお兄様の意図は読めた。

1回使いきりで、出来たら使用後に消滅するような魔道具なら、何か起きた際にそれを使って逃げて来れる。

魔道具が消滅していれば再利用されたり模倣される心配も生じない。そんなところか。

「お前を派遣するとなると色々と問題も生じるのだがな」

「あはは。馬鹿な貴族が大騒ぎですか?」

「ああ。元気に騒いでおるよ」

頭を抱えてお兄様が深い息を吐く。

「多くは古くからこの国に仕えている者たちだ。だが古くからの悪しき風習で多くの貴族が腐り果てている。腐っていない貴族も居るが大半は腐っているのだ」

「それは仕方ないですね」

どんなに立派な巨木も内部は腐っている場所があるとか何とか。

「どこかで膿を出し切れればいいんだがな」

「あはは~。僕の居ない時にしてもらえると助かるんですけどね?」

「……諦めろアルグスタ」

それはつまり何かあれば内部の粛清をするってことですか?

国が荒れる可能性もあるけど……帝国とは手打ちにできるとなれば、あとは動けない共和国だけ。逆に仕掛けるなら今とも言える。

「知恵熱が出そうなので帰っていいですか?」

「諦めろアルグスタ」

マジか~。つまりその話し合いをするってことか~。

仕方なく陛下と場所を変えようとして気づく。

クレアとか言う置物が邪魔だな。

と言うか何で居るの? この子は? 空気読めよ?

だから全身振るわせて顔を真っ白にするような話を聞く羽目になるんだぞ?

「イネル~」

「どうしたのクレア?」

色々と話し合いをして執務室に戻ると、山のような紙の束を仕分けしていたイネル君にクレアが泣きながら抱き着いた。もう周りの目なんて気にせずに全力だ。

ただそんな周りの目……メイドさんたちの目はとても暖かい。真冬の囲炉裏の火のように暖かい。

「もうあの上司嫌だ」

泣きながら失礼なことを言う奴だな? その頭の鳥の巣にゴミでも植え付けるぞ?

慣れた感じでイネル君はクレアを抱きしめて良し良しと頭を撫でる。

「ダメだよクレア。アルグスタ様は色々と助けてくれるんだから」

「でも~」

「はいはい。不満は帰ってから全部聞くからね」

「も~」

甘えてくるクレアに呆れつつもイネル君が『このまま帰って良いですか?』と言いたげな視線を寄こすので、軽く手を振って帰宅を許す。

残った仕事は明日すれば良いし、何よりイネル君は優秀なので自分である程度判断が出来る子だ。何せあの陛下が部下として欲しがるほどの逸材にまで育った。

うむ。僕はきっと部下を育てる卓越した何かしらの能力があるに違いない。

決して反面教師にしているとかそんな事実はないはずだ。彼らは僕の背中を見て大きく育っているのだ。

仲良く並んで腕を組んで帰る2人の様子を見つめていると、待機しているメイドさんたちが『ほふっ』と生温かなため息を発していた。

見てて妄想の尽きない2人ではあるが……この国のメイドさんたちは本当に大丈夫なのか?

総本山はスパルタの殿堂だけどね。

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