軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 11

ノイエ様がお仕事に向かうために、食堂で朝食を済ませています。

相変わらずの大食漢です。何でも祝福を持つ者は食事を多く必要となるとか。そのような物を2つ所持するノイエ様は特に食べる方だと思います。

「行ってきます」

「お気をつけて」

フワっと席を立ってノイエ様は音を立てずに歩いていきます。

私たちメイドは奥様の出勤なので玄関まで見送り……そして余りの移動速度に姿を見失いました。

今朝はこれでひと仕事が終わりです。ですがもう1つ残っています。

旦那様であるアルグスタ様と私の真なる主人であるポーラ様が夫婦寝室から出て来ません。

移動し寝室の前で気配を探れば、どうやらポーラ様はまだ眠っている旦那様を待っているご様子。『兄様の寝顔なら1日でも見ていられます』と前に笑顔で言っていましたが、どうやらその言葉に偽りなどなかったのでしょう。

私もポーラ様の寝顔でしたら死ぬまで見ていられそうな気もしますし。

ですが……やはりおかしいです。

何度寝室の気配を探っても3人分の気配を感じます。

ノイエ様がお仕事に向かった以上、この部屋の中に居るのは旦那様とポーラ様だけのはずです。そこに3人目となると、また誰かがやって来ていると考えるのが普通です。

どうやらアルグスタ様の寝室は、王女グローディア様が転移魔法で移動できるようにしているご様子。何度か許しを得て掃除がてら調べていますが、魔道具の類は発見できませんでした。

ですから私の知らない……何かしらの魔法の力で転移して来ているのでしょう。

スィーク先生のお話ですとアルグスタ様はあのアイルローゼの存在も秘匿しているとか。だからこそ『覗かれたくない』と言って夫婦寝室を堅牢にお創りになったのかもしれません。

この寝室の厄介なところは、壁に耳をつけても中の音が拾えません。

何でも壁はノイエ様が寝ぼけて殴っても大丈夫なように分厚く作られ、壁の中には何層もの鉄が仕込まれているとか。扉も特注品で分厚く音を通しません。

唯一音を拾えるのは伝声管と呼ばれる寝室とメイドの待機室とを繋ぐ管のみ。それも寝室側の蓋が閉じられていて音が聞こえてこないのです。

最初からこうなることを想定してこの寝室を設計したのでしょう。

旦那様は皆様方が評価している以上に厄介な御仁だと私はそう認識しています。

ただ今日はポーラ様が中に居ます。

あの御方はメイドですから……必ずや私が思う通りに行動しているはずです。

急ぎ屋敷の外に出て場所を変えます。

かなり無理をする必要がありますが、外からであれば御二階に存在する寝室を覗けるはずです。

助走をつけて私は強く地面を蹴り宙に舞いました。

会話など拾えなくとも中に誰が居るのかを知ることが出来れば……私の企みは無残にも防がれました。ポーラ様がカーテンを閉じているのです。

普通メイドは部屋に日の光を取り込むためにカーテンを開いて回ります。

けれど開いていたカーテンを閉じると言うことは、ポーラ様は私の行動を先読みしたのでしょう。

本当に恐ろしく勘の良い主人です。

「また先生に怒られてしまいますね」

ドラグナイト家に来てから、私は全く自分の任務を全うできておりません。

それもこれも先手先手と私の前を行くポーラ様の存在があるからです。

「私を先輩と呼びながら……本当にポーラ様は」

あの人の先輩で居続けるには私もまだまだ修行が必要なようです。

「負けませんよ。ポーラ様」

《2話目》

「ドーンです~」

「あっどうも」

お昼までに仕事が終わったので、私はのんびりとした時間を過ごしていました。

今日は朝からアルグスタ様も来ていませんし……と言うかあの人は本当に自由すぎます。休むならせめて一声欲しいのですが、その一声が無いおかげで私はこうして朝から真面目に仕事をしてしまうんです。

そんな昼過ぎの時間を過ごしていたら、壁に存在している隠し扉が開きました。

ほぼ王妃様専用の通路です。隠し通路なのに公然の機密と言うかただの近道です。

「あれ~? おにーちゃんが居ないです~?」

「お休みみたいですよ」

「うわ~です~。酷いです~」

ソファーに移動して王妃様はジタバタと暴れだす。

何か約束でもあったのでしょうか?

「今日は何かあったのですか?」

「無いです~。でもおにーちゃんが居ないとケーキを頼みにくいです~」

「……普通に頼めばいいかと」

何より彼女はこの国の王妃だ。

共和国との仲は良くないけれど、王妃キャミリー様は自分の生まれ育った国を捨てて完全にこの国の王妃となることをお選びになりました。

私も夫の家であるヒューグリム家に嫁いでいるけれど、それでも定期的に王都に存在する実家の王都屋敷には顔を出している。今ならお屋敷には両親も居るから。

それなのに生まれ故郷と決別した王妃様は凄いと思う。

見ている限り幼い女の子が癇癪を起してソファーで暴れているようにしか見えないけど。

「きっとあれです~。またおねーちゃんと一緒に楽しんでいるです~」

「ノイエ様でしたら、朝からドラゴン退治をしていますよ?」

「本当です~?」

口を閉じて少し待てば遠くから地響きが。きっとノイエ様がドラゴンを地面に叩きつけた音かな?

「本当です~!」

王妃様は納得してソファーの上で暴れる。

「ならおにーちゃんはどうしてお休みです~?」

「分かりません」

あの人の行動原理は基本ノイエ様が中心です。

『お嫁さんのことが好きすぎて止まらないのだよ!』と良く豪語していますが、何が凄いってその言葉が嘘でないことでしょう。

本当に好きすぎて……この国の上級貴族たちの半数以上を敵にしています。

実家も嫁ぎ先もアルグスタ様と敵対することは選ばないのがせめてもの救いです。

そんなノイエ様が朝から元気でアルグスタ様がお休みと言うことは……たぶん。

「またおねーちゃんの相手をして腰砕けです~?」

「分かりません。分かりたくありません」

王妃様と答えが同じでした。

あのご夫婦は本当に後継ぎが欲しいのか、何でも毎晩のように頑張っているそうです。

それを聞くとちょっと羨ましくもなりますが、でも毎晩は無理です。凄く疲れるし、何より寝不足になります。

それに私たちの住まいはパン屋さんの二階を借りているので、下にパン屋さんをしている老夫婦が住んでいます。結構気を使ってくれるのですが、奥様の方が『昨夜はどうでしたか?』とか朝食のパンを買いに行くと聞かれることが。

音と言うか振動が伝わりバレてしまうみたいです。

「……出来たら小さくても良いからお屋敷が欲しいです」

「何か言いましたか、です~?」

「何でもありませんっ!」

全力で否定して私は仕事に戻ります。

とは言っても今日の仕事の大半は終わってますし……することがありません。

すると王妃様がムクッと起き上がりました。

「決めたです~」

「何がですか?」

ソファーから離れ私の机に嚙り付きます。

「お風呂に行くです~」

「えっと……それは?」

「はいです~。小さなメイドには負けられないです~」

「……」

王妃様の言う小さなメイドとはアルグスタ様の義理の妹です。

気づけばメイドとなり、そして大変優秀なメイドに成長している。

そんな存在に私たちは負けているのです。主に胸が。年下のメイドに。

「今日もお風呂でマッサージです~」

「えっと私は仕事中ですし」

パンパンとを手を叩いた王妃の姿に私は諦めます。

長身のメイドさんが姿を現し、私たちは王城内のお風呂へと移動しました。

「今日こそは大きくするです~」

「あはは~」

もう笑うしかない。

こうして今日も王妃様と2人、お互いに胸を揉み合って成長を促しました。

まだ育つはずだと私も信じているので続けられることです。

……たぶん育つはずです。たぶん?

(C) 2021 甲斐八雲