作品タイトル不明
それに夫に甘えるのは普通
「あの……にいさま?」
「良いの。そっとしておいて」
「はい」
ベッドの上で蹲る僕にポーラが何とも言いようの無い声をかけてくる。
分かっています。分かっていますとも。その視線が何を見つめているかだなんて!
チラリと横に目をやれば……小さいのに大きいと評された存在が丸くなって寝ている。
褐色の肌に紺色の刺青が鮮やかに映えるリグだ。
こう日の光の下で見ると本当に奇麗だ。芸術的とも言える。
本人は気にしているが傷跡も結構間近で見ないと目立たない。一度発見すると『ここに傷があるんだ』と認識できるようになるが、意識しなければ気にならない程度だと思う。
問題はそんな特徴的な女性が僕の横に居るのです。
お嫁さんは朝から元気よく出勤してドラゴン退治をしていると言うのに、その夫は自宅の寝室にお嫁さん以外の女性と一緒に居るという事実。
王都に住まう敵対貴族が知ればこれでもかと文句を言ってくるであろうシチュエーションだ。
ただ我が屋敷の機密保持力は半端ない。唯一の難敵はミネルバさんだが、彼女は僕の許しが無ければこの部屋に入れない。と言うか普通にこの部屋に入って来れるのはポーラだけだ。
唯一の存在であるポーラがジッとこっちを見ている。
あの純粋で真っ直ぐな目が痛いです。僕の良心を抉ります。
分かっています。ええ分かっていますとも!
リグに求められて彼女をお嫁さんにしましたとも。そうしないとグリグリと物凄い凶器が僕を襲うのですから仕方なかったんだ!
ただ唯一の裏切りがあったとすれば、それは僕の愛しいお嫁さんだったわけです。
ノイエは僕がリグをお嫁さんにすると、『する』と言って襲い掛かって来た。
最初はリグに僕を取られたくないのかと思ったんだけど、時折『お姉ちゃんも』とリグを誘い続ける。顔を真っ赤にして僕らから離れて観察していたリグだったけれど、途中から医者魂に火が付いたのかもう食い入るように間近で観察し始めた。
決して覗きではない。あくまで医学的な観点からだと僕はそう思った。思いって……裏切られるんだけどね。
ノイエに手取り足取り色々と話を聞きながら、観察から実技へと移行していったリグと結局してしまった僕が一番ダメなんだろうね。
分かっています。分かっていますとも! けれど言いたい! 主張したい!
あれほどの暴力的な武器を持つ相手を前に好奇心が湧かない男がこの世にどれほど居ようか?
僕はクビレ派だがリグのモノを見ていたら派閥など関係なしに色々としたくなる。したくなったんだよ……。
「にいさま?」
「……大丈夫だから」
「はい」
自己嫌悪から頭を抱える僕にポーラは本当に優しい。
けれどその優しさが何よりも辛い時があるのです。
頭を抱えると薄皮になっている頭の傷に気づいた。
もう大丈夫だけどリグが居るしね。
「リグ。ねえリグ?」
「ん~。もう無理」
「……にいさま?」
半眼チックな目で兄を見ないで! 何より僕はリグの肩を揺すっただけで、自己主張の激しい彼女の胸が勝手に揺れただけですから!
そっと自分の胸に手を当てて沈黙する妹から視線を離せば、目をグシグシと擦りながらリグが起きだした。
ん~と大きく背伸びをすると、バルンと暴力的な胸が揺れた。
凄いよ。リグの胸は絶対に重力に縛られていない。
「朝か……朝日なんて久しぶりだね」
柔らかな表情で窓の外を見たリグに言いたい。あれは朝日ではない。時刻はもう昼だと。
「ノイエは?」
「お仕事に行きました」
「そっか」
もう一度背伸びをして……改めてリグがその存在に気づいたらしい。
ベッドの傍に立つ我が家の愛らしい妹であるポーラにだ。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶をし、そして流れる動作でリグは僕に抱き着いて来た。
「おやすみ」
「って寝るな~!」
早速寝ようとするリグを無理矢理引き剥がして肩を揺さぶる。
眠そうに眼を開いた彼女が鬱陶しそうに口を開いた。
「もう少し寝たい。初めてのことで体の節々が痛いし、まだ何か入っているような……」
「細かい説明は必要ありません。リグに見て欲しいの」
「……何を?」
視線を下に向けるな、下に!
「頭の怪我」
「ああ」
思い出したかのように頷いたリグが、そっと体を起こしてベッドの上に立つ。
何故か頭の傷を見られるはずなのに僕の肩が彼女の胸置き場と化した。
これはただの事故である。だからポーラさんや……そんな捨てられた子犬のような目で兄を見ないでください。
「流石父さんだ。本当に奇麗に処理をする」
「大丈夫そう?」
「うん。少し髪の毛が挟まっているけれど場所が場所だからね」
告げてリグは視線をポーラへと向けた。
「ハサミが欲しい。それと奇麗な布とあれば酒精の強いお酒も」
「じゅんびします」
一礼をしてポーラはトコトコと歩いて部屋を出ていった。
「君は自分の妹をメイドにするのか?」
「そんな叔母様みたいな趣味はありません」
「ならどうして?」
「……何でもかんでもメイドにしたがる叔母が居るんです」
「それは大変だね」
何故かリグに同情された。
しばらく傷口を見ながら僕に胸を押し付けてくるリグは何を考えているのだろうか? こんな時間に僕は欲情しないよ?
相手がノイエなら……こっちではなくあっちが襲い掛かってきそうだな。うん。
色々な欲に負けそうになっていたら、ポーラが言われた物を運んできてくれた。
我が家の妹様は兄がピンチだと颯爽と現れる。マジ天使か?
道具を受け取りリグはすぐに手当てを開始した。
傷口に巻き込んでしまったらしい髪を切り、抜いては消毒をする。
興味を持ったらしいポーラもその様子を見つめ……しばらくして治療が終わった。
「これなら目立った傷跡にはならない。何より傷跡は髪の毛で隠れるしね」
「消せないの?」
「もう少し早くに治療していれば奇麗にできたけど……」
軽く考えてポンとリグが手を叩いた。
「傷口を抉って傷ごと肉を取って僕の魔法を使えば」
「このままで良いです」
「それなら完璧に傷跡が消せる」
「良いです。大丈夫です」
何よりこの義理の親子は傷口を抉れば良いと思っていないか? 痛いんだよ? ビックリするほど痛いんだからね?
抵抗するなら仕方ないと言いたげにリグはポーラから受け取ったタオルで手を拭く。
と、トコトコとポーラが歩きだして……何故か部屋のカーテンを閉めた。
「どうかしたの?」
「ししょうが『しめなさい』と」
命令に従いましたと言いたげなポーラの様子に僕は頷き返す。
何かしらの理由があっての行動なら目くじら立てる方がおかしいしね。
「ってリグさんや?」
「仕事はした」
「そうだけど」
「ならあとは寝て過ごしたい」
裸族と化したリグは僕にべったりと張り付いて寝ようとする。
確かに治療して貰ったからこれぐらいは良いんだけど。
「……それに夫に甘えるのは普通」
「何か言った?」
「何でもない」
フルフルと頭を振るってくるだけで、僕の体にリグの凶器がぶつかって来る。
結局リグを放置することも出来ずそのまま寝室のベッドて1日を過ごすことにした。
こんな感じにゆっくりとした時間を味わうのも悪くない。僕は確か晴耕雨読な生活に憧れていたはずだ。貴族たるものこんな風に時間を過ごすべきなのだ。
甘えるリグの相手をしながら1日過ごしていると、仕事を終えたノイエが全速力で帰って来た。帰ってきてしまった。
寝室にやって来るや僕らを見て『する』と宣言し襲い掛かって来たのだ。
魔力が尽きてリグが宝玉に戻る僅かな時間……僕は2人の実験台にされ、そしてノイエ1人となってからも彼女の実験の成果確認に付き合わされた。
腰も抉って治療をしたら……新品同様に動くようになったりとかするのかな?
最近本当に自分の腰が壊れないか不安になるのです。
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