軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ボクは君のことが好きらしい

「ん~♪」

軽く鼻歌を響かせながらセシリーンは外の様子を聞いていた。

本日もノイエは絶好調だ。

ドラゴン退治を本当に楽しんでいるのか、心の奥底から喜びを感じられる。

逆に魔眼の中はとても静かだ。

カミーラとジャルスなど外に出て暴れた者たちは満足して寝ている。時折起きては体を動かしているのはもはや習性だろう。そういう生き物なのだとセシリーンは理解した。

ただジャルスが体を動かすたびに胸が暴れ、パチンパチンと余計な音が聞こえてくるのは少し腹立たしいが。

グローディアはまた魔法の研究に戻ったらしく静かだ。

良くあれほど集中できるものだと感心する。

アイルローゼも自分の研究に没頭している。壁に寄りかかるように座り、クスクス笑ったと思うと真面目な顔でまた考え出す。魔女の生態は謎が多いから聞いてて飽きない。

ただ前回のことで何かおかしなことを覚えたのか、不意に横になるとモゾモゾと動いては『弟子の癖に……んっ』と可愛らしい声を上げて動かなくなることがある。

もう外に出て彼を求めればいいのにと、心の底からセシリーンは思っていた。

シュシュやレニーラなどはいつも通りだ。魔眼の中をフラフラしては皆に声をかけて回っている。あの物怖じしない精神は少し見習いたい。

ホリーは『アルグちゃんをこんな感じで縛ったら……ハァハァ』と何やら危ない妄想でもしているのか床に転がり身もだえている。それも最近ずっとだ。

少しは魔女を見習って欲しいと思う。あからさまに1人でするのはどうかとも思う。

違った意味で早く外に出て彼を求めればいいのにと、セシリーンは呆れ果てていた。

ファシーは時折遊びに来るが、大半は1人で外に居る獣魔を操っている。

ただ感覚の共有が強まっているのか、彼がリスのお腹を撫でたりすると可愛らしい声を上げて身もだえたりもしている。そういう声を聞くとあの子も女なのだと再確認してしまう。

エウリンカは見つけられない様子からまだ液体か回復途中なのだろう。

比較的平和だ。皆が距離を取って干渉しあわない程度に生活している。

平和なのだ。平和のはずなのだ。

セシリーンは小さく息を吐いて鼻歌を止めた。

もう耐えられない。

自分の反対側に居るリグのどす黒い感情をずっと聞かせれ続けている日々に、ついぞ我慢の限界に達したのだ。

「ねえリグ」

「……なに?」

普段聞かない低い声に歌姫の背中に冷たい物が走る。

「前回のことは仕方なかったのよ。王女も魔女もちゃんと確認をして」

「分かってる」

ズンと低い声にセシリーンは内心で泣いた。

こんなにも怒り狂うリグなど見たことが無い。何よりこの数日彼女は一睡もしていない。脅威だ。

「ならどうしてそんなに怒っているの?」

当初はアイルローゼの恥ずかしい過去でも聞こうかとセシリーンは企んでいた。けれど腹痛が治まり魔眼の中枢に来たリグの怒りは限界の何かを飛び越えていた。

もう何日と同じ場所に座りジッとしていた。何かを待つように。

「……待ってたんだ」

「何を?」

「アイルがちゃんと謝りに来るのを」

スッと上げた顔に笑みなどない。

普段あんなにも天真爛漫な表情をしているリグがノイエばりの無表情なのだ。

けれどセシリーンにはその表情は見えない。

見えないが相手の気配から取り返しのつかない状況だと察した。

「魔女も色々と忙しいから?」

「魔道具を作るのが、ボクに謝るよりも重要なんだ」

「……」

言い返せない。何も言い返せない。

そんな魔女は現在、クスクスと笑いながら何かしらの何かに思いを馳せている。

日々の観察傾向からしてあれは魔道具に関しての思考だ。彼に対してだったら体温がもっと上昇しているし、最近は1人での行為を覚えたから……やはり愛らしい。

「ねえリグ?」

「良いんだ。もう良いんだ」

「……」

自分の姉のように魔女を慕っていたリグとしては今回の仕打ちが余程ショックだったのだろう。

ゆっくりと立ち上がると……彼女は宝玉で外に出るための石板へと向かいだす。

「あの~リグ? 何を?」

「もう知らない」

足を止めてリグは振り返り歌姫を見た。

相手の目が見えないことを知っているがそれでも見た。

「アイルになんて遠慮しない」

「あの~?」

どす黒い怒りの感情で本心を覆い隠しているリグはそのまま石板に乗る。

スッと彼女の姿が消えた。

最近は中の人たちが静かで助かるわ~。

ノイエも自重を思い出して5日に4日で我慢してくれようになったし……これは我慢と言うのだろうか?

その1日はポーラを呼んで家族3人で仲良く過ごす時間にしている。

ノイエも最近はポーラを膝枕して甘えさせるという、お姉ちゃんっぽいことも出来るようになってきた。頑張ってノイエの自制心を育てていこう。

色々と再確認をしつつ、本日の僕は自宅の金庫に寄ってから寝室へと向かうこととした。

あれほど散財しているのに不思議と現金が増える謎。

そして金庫の隅に『手出し無用』と書かれた謎の金庫が置かれていた実情。

鍵が存在しない金庫は誰も開けられない。つまり犯人はあれだ。なら無視だ。

まあそれは良いんだけど、その横にポツンと『ポーラ様専用』と書かれた手提げサイズの金庫の存在が。

屋敷の管理を丸投げしているミネルバさんに視線を向ければ、『ポーラ様の正当な仕事に対し支払われた給金にございます』との言葉を得た。知らぬ間に妹が給金を得る仕事をしていた事実にお兄ちゃんはビックリだよ。もう本当にあの子は日々何をしているのかね?

ただ正当な仕事への対価なら文句はない。それはポーラの稼ぎである。

それに僕なんてここ最近ずっとただ働きだしね!

ユニバンス王国史上最も罰金を支払う王族の者として僕は歴史に名を残せるだろう。

もうそろそろで月の罰金額が支払われる給金を上回りそうなんですけど? 僕って何か悪いことをしたっけ?

そんなわけで確認するのはノイエに支払われた給金だ。と言うかドラゴン売却による利益ともいう。

これがある限り我がドラグナイト家の経済基盤は盤石である。

ザックリと確認して細かい硬貨は……適当に壺に流し込んでおく。

小銭を瓶に入れておく感覚だな。

確認を終えたのでミネルバさんにウチの屋敷で働いている人たちのお給料の準備を丸投げする。最初は抵抗必死な彼女だったけど、ドラグナイト家の家訓として『優秀な人材はとりあえず使え』を設定した。つまり僕の行いは間違っていない。

『叔母様の愛弟子を信じていますので』と告げて強引に任せることにしたのだ。

金庫を出て寝室に向かう。

扉を開けて中に入れば……ノイエが部屋の隅で震えていた。

何事ですか?

ノイエの視線を辿れば彼女はベッドを見ている。ベッドの上だ。

そこにはリグが居た。ブスッとした感じでリグが座っていた。

「あの~リグ?」

「なに?」

らしくないほど低めの声で彼女が僕を見てくる。

不機嫌そうだ。手に取るように良く分かる。

「何かあったの?」

「……」

この上ないくらいに不機嫌そうなリグがゆっくりと立ち上がった。

ベッドの上を歩き、床に降りて……真っすぐと僕の元へと来た。

「ねえ」

「はい」

「君に言いたいことがある」

「はい?」

リグが僕にですか? キルイーツ先生に会いたいとかかな?

出来なくないが……まさかナーファに会いたいとかか? それは色々とハードルが高すぎる。だが望むのなら舞台はセッティングするよ?

身構える僕にリグはさらに前進して来て……何故か抱きついてきた。

あっ凄い。リグが抱きついて来ているのに何故か大きなクッションが2つほどが密着の邪魔をする。密着しているのに邪魔をしている。難しい哲学だな。哲学か?

「遠慮なんてもうしない」

「はあ」

「だから聞いて欲しい」

「えっと……どうぞ」

僕に対しクッション越しに密着しているリグが顔を上げた。

褐色の肌がほんのりと赤い。

「ボクは君のことが好きらしい」

「……はい?」

「どうもそうらしい」

増々抱きついてくるリグと僕との間で2つのクッションが大変なことに。

もうこのクッションは暴力だろう? クッションなのに吸収せずに大暴れしているよ?

「あの~リグさん?」

「分かっている。でもそうらしい」

「そうなんですか?」

「そうみたい」

完全に顔を赤くしてリグが僕を見る。見つめる。

「本当はアイルに遠慮して黙っている気でいたけれどもう知らない。あんな裏切り者に遠慮なんてしない」

勝手に盛り上がらないでください。先生が裏切者って何ですか?

「だからボクはもう遠慮なんてしない」

と、リグは背伸びをして……迫って来た顔が手前で止まった。

ん~と背伸びをして彼女は頑張るけれど届かないね。

「ノイエ」

「はい」

呼ばれたノイエが何かを察してリグの背後に立つと、彼女の脇に手をやり持ち上げる。

改めて迫って来たリグが僕にキスをした。

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