軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだまだ楽しめそうですね

「……叔母様も知っている通りノイエの眼球は魔眼です」

「ええ」

少し考えてから僕はそう切り出した。

ノイエの魔眼はこの国では有名だ。ただ恐ろしいほどの魔法と術式を宿している……そう調査報告をされているが、その中身を知る僕からすれば正解とも間違いとも判定しづらい。

魔眼にはノイエの家族とあの馬鹿賢者が住んでいるのだ。

つまり大半の魔法や術式は住人の物とも言えるし、それ以外にも魔眼自体に取り込まれている物もあるので……厄介である。

「そして義母さんが指摘した通り、ノイエの魔眼はカミューの物です」

「……」

初めて義母さんに逢いに行った時に指摘された言葉……それはノイエの魔眼についてだった。

義母さんはノイエの魔眼を『カミューと同じ』と言った。

その返事は良い感じで有耶無耶にしたはずだ。僕の記憶の上ではそうなっている。

「ならカミューは?」

静かに告げてくる叔母様に僕はどう言葉を返すべきなのだろうか?

事実は告げられない。現在のあれの立ち位置は微妙だ。

ノイエの敵ではないだろうが間違いなく僕の敵ではある。厄介ごとばかり持ってきやがって。

「ノイエがちゃんと名を覚えている人物が3人います。実の姉とカミュー。そして僕です」

ただ僕に関しては『アルグ様』としか最近呼ばない。

ノイエの中でそれが正しいとかになってたらマジで泣くよ? 今夜は帰ってから確認せねば!

「ノイエに名を覚えてもらえるほど、カミューは例の施設で親しく付き合っていましたが、ノイエは彼女がどうなったのかを知りません。グローディアにも聞きましたが彼女も知らないそうです。ただカミューはノイエに魔眼だけを残していきました。僕が知るのはそれだけです」

「……そうですか」

小さく頷き叔母様は静かに目を伏せる。

「ならまだ生きている可能性も?」

「無いとは言いませんよ。何せグローディアを筆頭に、厄介で難儀な人間ほど生き残っているっぽいので」

「そうですね」

軽く笑い叔母様は息を吐いた。

「ごめんなさいねアルグスタ。そろそろ腰が辛くて」

「いいえ自分も長話をしすぎました」

椅子から立ち上がりポーラと2人で挨拶をして叔母様の部屋を後にする。

さあ帰ろうと思っていると、馬車の上にノイエがフワっと着地した。

帰り支度がばっちりなところを見るに、仕事を終えて真っすぐここに来たのだろう。

ただ最近のノイエさんは、迷うことなく王都内をその超機動で横断して来るな。まあそれぐらいで文句を言う馬鹿など簡単にあしらうけどさ。

「なに?」

「もう終わったから一緒に帰ろうか」

「はい」

お見舞いは終わってしまったので無駄足をさせてしまった。

でも嬉しそうに宝玉を乗せたアホ毛を振って、ノイエが僕の隣に来ると腕に抱き着く。

「ねえノイエ?」

「はい」

「僕の名前を言ってみて」

「アルグ様」

即答でした。即答で略称でした。

「フルネームで。アルグの続きをどうぞ」

「……」

宝玉を乗せているノイエのアホ毛が奇麗な『?』を作り出す。

名前ってそれじゃないの的な表情に見えるのは僕の気のせいだろうか?

「忘れたの?」

「忘れてない」

「本当に?」

「はい」

「ならどうぞ」

「……」

負けん気を見せてからの沈黙だよ。流石にちょっとショックかも?

余りのショックで泣き出してしまいそうな僕の様子に気づいたノイエが、慌てて胴に手を回しギュッと抱きついてくる。

「大丈夫。ここまで来てる」

「ならどうぞ」

とんとんと自分の胸を叩くノイエに更なる追い打ちを。

つか胸かよ! せめて喉にして!

「あと少し」

「ならどうぞ」

「もう少し」

「はいどうぞ」

「……お腹が空いた」

「1回押し戻す感じ?」

ノイエと遊びながら馬車に乗って帰宅の途に着く。

ポーラは気を利かせたのか御者席に座り、馬車の中では僕がノイエを攻め続ける。

『ほらほらどうしたノイエさん? 思い出さないと今夜は相手をしないぞ? ん~?』と耳元で囁いてノイエの反応を楽しむ。

実際名前なんてどうでもいいんだけどね。ノイエが僕のことを大好きでいてくれることは知ってるしさ。

無事に屋敷にたどり着き、馬車を降りる前にノイエに問う。

「ノイエ」

「ご飯の後なら」

「じゃなくて」

「ん?」

そっと彼女を抱きしめて耳元で問う。

「僕はノイエにとってどんな存在?」

「……大切な人」

今度は即答じゃなかった。少し言葉を選んだ様子がうかがえる。

「大切な人?」

「はい」

軽くノイエが僕の胸を押して体を離す。正面から向き合い真っ直ぐな目で僕を見つめる。

「大切な人。大好きな人。消えたら嫌な人」

そっとノイエが近づいて僕にキスをした。

「一緒に居たい人」

「僕もだよノイエ」

「はい。アルグスタ様」

もう一度キスしたら……ちょっとノイエさん? もう屋敷だから! 続きは寝室でって! 止まらないのね~!

ギシギシと馬車を揺らして僕はノイエに食べられました。たっぷりと。

立ち去る馬車を見つめ窓際に立つスィークは静かに息を吐いた。

確かに相手の説明には説得力があった。

カミューがノイエに魔眼を残し……行方知れずと聞けば、こちらとしてはそれ以上の追及は難しい。

「本当にあの甥は厄介な存在ですね」

苦笑しスィークは椅子に腰かける。

仮病をネタに呼び出したというのに……収穫は余りにも少なかった。

「ミネルバ」

「はい先生」

「彼の屋敷での様子は?」

「はい」

1人屋敷に残ったミネルバば自分が知る限りの情報を口にする。

曰く……時折あの夫婦は寝室にこもり1日以上出て来なくなることがある。

その場合はポーラ以外の者は近づくことすら許されないという。

食事に関してはノイエという存在が居るから量から何人前か判断するのは難しい。彼女1人で5人前などいつものことだ。

だからこそミネルバが派遣されたのだ。

「貴女が調べた限りでは?」

「はい。時折ご夫婦の寝室内の気配に変化が生じます」

「変化とは?」

「はい。人数が増えています」

気配探知に長けているミネルバの言葉にスィークは『なら間違いないでしょう』と認めた。

「本当に厄介ですね……転移魔法とは」

「はい」

「ですがアルグスタが誰かしらと会い何かをしていることは間違いありませんね」

優雅に紅茶を口にしスィークは思考する。

「それがこの国の害意とならなければ問題はありません。けれど彼にその意思が無くとも害となりえることもあります。ですからミネルバ」

「はい」

スッと愛弟子に視線を向ける。

「これからも今まで以上にあの2人を見張りなさい。あの2人はわたくしたちが考えつかないような秘密を抱えているのですからね」

「畏まりました。先生」

奇麗なお辞儀を返しミネルバは師の元を立ち去った。

残ったスィークはまた紅茶を口にする。

「この年齢で心躍るような展開を得られるとは……本当に老いが悔やまれますね」

自分が若ければ迷うことなく問題の中枢に乗り込み話を引っ掻き回せるというのにだ。

「ですがまだまだ楽しめそうですね」

クスクスと彼女は楽しそうに笑い続けたという。

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