軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どうしたものでしょう?

「わざわざありがとう。アルグスタ」

「いいえ。大恩のある叔母様が倒れたと聞けば、このアルグスタ直ぐにでも参りますとも」

「そう。そう言ってくれるのは貴方ぐらいね」

ベッドに横たわり上半身を起こして座る叔母様は……とても元気そうだ。そもそもこの人の形をした化け物が病気に罹るとか信じられない。たぶん病原菌の方が全力で逃げ出す。

「失礼ですが叔母様。今回はどうして?」

「ええ。恥ずかしい話ですが、足の具合も良くなったので若い者を相手に鍛錬をと思いましてね……近衛の中隊を全員殴り倒した所で腰がビキッと。わたくしももう若くない証拠です」

「……」

は~い注目。今の発言の中に老い云々が関係ない言葉が混ざっていました。

「中隊をですか?」

「ええ。若い頃なら大隊規模を何個か相手できたというのに……老いたくないものですね」

しれっと恐ろしい言葉が止まりません。ですがこの部屋の中に居る人たちは全員狂っているのか、僕以外の誰もが驚きもしません。

ラーゼさんやミネルバさんはまあ納得できるが、何故ウチの可愛い妹までもが当然のようにスルーしているのでしょうか? 近衛の中隊だよ? ゲームに出てくる初期の町の傍に現れるスライムの類じゃないんだからね?

「ですのでこうしてしばらく安静にと」

「そうですか」

つまりはギックリ腰だ。なら納得だ。

叔母様を倒せる病気がこの世にあるのなら僕はその病気を褒めてやりたい。手放しで。

「それにしても」

ついでとばかりに話を変える。

と言うよりもこの質問はするべきだろう。

「この屋敷ってメイドしかいないのですか?」

「居りますよ」

「ですよね~」

少なくともイールアムさんのお嫁さんとか居るはずなのです。

ああ。いい機会だから一度ぐらい挨拶して行こうかな? 聞いた噂だと正妻と側室が3人ぐらいとか。

叔母様の意向とは言え一気に増えて大変だな。僕も気づけばノイエの姉たちを娶りまくっているけれど。

「出来ればイールアムさんの細君にご挨拶などしたいと思うのですが」

「ならこの場ですればいいでしょう」

「はい?」

「ラーゼ」

「はい。スィーク様」

スススとラーゼさんが歩み寄って来る。

「改めてご挨拶を。自分がイールアム様の妻であるラーゼ・フォン・ハルムントにございます」

「……アルグスタです。改めてどうも」

よく声を絞り出せました。

えっと……つまりこの屋敷ではメイド服の着用が義務付けられているのでしょうか?

「でしたら他の側室の方々も?」

「ええ。それぞれ役割を持ち仕事をしております」

「そうっすか~」

呆気に取られる僕に一礼し、ラーゼさんが待機列に戻る。

もう何をどこからツッコめばいいのだろうか? 何よりこんな完璧メイドを妻にしたイールアムさんを僕は心の奥底から尊敬します。いやマジで。

「えっと叔母様?」

「何か?」

「どうしてラーゼさん以外にも側室を?」

確かこの叔母様はある時期悩んでいた。

イールアムさんのお嫁さんに自分に匹敵する人物を付けたいと。

だがそんな化け物はこの世に2人と居ない。居たら困る。色んな意味で。

結果として僕の一案『叔母様のような完璧な女性は2人として居ないのですから妥協は大切です』が通り、イールアムさんは初老……経験豊かな女性たちと結婚しなくて済むようになったのだ。

ただこんな完璧メイドさんがいるなら問題なかったのでは? 若干御歳があれな気もするが、頑張ればまだいけるはずだ。高齢出産もキルイーツ先生が存命ならば乗り越えられるはずだ。

僕の質問に対し叔母様がうんうんと頷いた。

「彼女は下級貴族の出で礼儀作法などメイドとしては何処に出しても恥ずかしくない逸材でしたが、唯一わたくしが定めた条件に達していない部分がありました。それは攻撃力です」

「はあ」

嬉々として語る叔母様に対し僕の口から気の抜けた声が出たよ。出るだろう?

「彼女はその部分だけが至らず……それさえクリアーしていればわたくしも迷いませんでした」

「失礼ながらラーゼさんってどの程度なのですか?」

「ええ。近衛の騎士数人をどうにか鎮圧できるくらいかと」

「……」

もう声が出ません!

「ですが出来れば小隊規模を鎮圧して欲しいのですよ。それが最低条件でした。それさえ出来れば……ですからわたくしは彼女を正妻に定め、あとはアルグスタの意見を受け入れて二・三才能の足らない者たちを側室にし、生まれる子を立派に育てる方向に切り替えたのです。

乳飲み子の時から立派に鍛え、将来はこのハルムント家を背負うメイドを……コホン。跡取りを育てようかと」

何か今恐ろしい本音が迷うことなく溢れ出てたんですけど? やっぱりメイドなの? ハルムント家は武闘派メイドを育成してこの国を乗っ取る気なの? ねえ?

「微力ながら……僕も手伝えることがあれば……」

もうこう言うしかないわ!

「ええ。でしたら貴方の家の」

「それはお断りします」

フラフラとメイドさんに近づいていかないように確保しているポーラをガッチリホールドです。

まだこの叔母様はウチのポーラを狙っているのか?

手放さないよ。何故ならポーラが育てば僕が楽をできるからだ!

「そうですか」

僕の様子に叔母様があっさりと引く。これはこれですごく怖い。

「なら一つ聞きたいことが」

「……答えられることなら」

無理難題を言ってきて、それを下げる代わりに本命の質問を投げかけてくる。

こっちは一度断っているから連続で断るのは……と嫌な心理戦だな。本当にこの叔母様が一番の強敵だよ。

スッと笑ったスィーク叔母様が口を開く。

「カミューは生きているのですか?」

真っ直ぐな眼差しが僕を見た。

あの狂暴で何かあるとすぐに拳を振るってくる馬鹿者をどうやら叔母様は気にかけているらしい。聞く話によれば当初は前王妃を暗殺するために送り込まれた暗殺者だったとか。

けれど直ぐに身バレしてそれからはずっと義母さんの傍に仕えていたという。真面目に忠実に……ただあの日、彼女は義母さんを襲い殺そうとした。

魔眼を使い凶悪な呪いをかけた上で刃物で殺そうとしたのだ。

『最後まで仕事をしようとしたまでです』

残っているカミューの調書に記載されていた彼女の言葉だ。

何も知らなかった頃は『うわ~』と思ったけれど、けれど全てを知ってから読み返せば納得できた。

彼女は確かに最後まで“仕事”をしようとしたのだ。

義母さんを守るために呪いなどと言う単語を使って戻せる希望を周りに抱かせ、そして自分はその罪を背負い処刑台へと昇った。内容だけ見れば立派な人だろう。

けれどあれは僕の敵だ。具体的にはグローディアと同率で敵だ。

いつの日か全力で殴り飛ばす。方法は現在も模索中であるが。

「叔母様。知ってどうするんですか?」

「そうですね」

ピンと背筋を伸ばし叔母様が静かにたたずむ。

ギックリ腰の割には痛がる素振りを見せないのは、流石叔母様だと思う。

その昔知り合いのおっちゃんなんて農作業中にギックリになって、顔面から地面に顔を突っ込んだぐらいだ。その場所は数分前に自分が鶏糞を撒いた場所だと言うのに……あれを見て僕は腰の大切さを学んだんだ。

「わたくしらしくない言葉だとも思いますが……たぶん謝りたいのでしょうね」

ザワッと立ち並ぶメイドさんたちから音がした。

余りの言葉に反応して服とかが擦れて発した音だと思う。

けれど待て。待って欲しい。

さっきの中隊云々はスルーしても『謝りたい』には反応するの? ねえ?

ウチのポーラなんて普段から白い肌をさらに白くさせ、小声で『お医者様を』とか言ってるよ?

そんな騒めきは一瞬だ。

叔母様が軽くひと睨みしたら全員が直立不動だ。ポーラまでもが直立不動だ。

「あの子は最後までわたくしの命令に従い仕事をし続けました。けれどわたくしは彼女の過去を危険視し心のどこかで信じていなかったのです。恥じるべき愚かな行為と言えるでしょうね」

「そうですか」

暗殺者だったあれを簡単に信じるのはどうかとも思いますけどね。

さて……どうしたものでしょう?

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