軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

メイドランド

セルスウィン共和国・首都ドルランゼ

招かれた異形の存在に立ち並ぶ大臣や重臣たちも眉間に皺を寄せた。

やって来たのはボロボロのフード付きのローブを身に纏った者たちだ。

共和国の北部に位置する山の中で暮らす一族。その名はヤーンの一族とも呼ばれている。

「お初にお目にかかる……国家元首」

「ああ」

ガサガサに枯れた声は聞き取りにくいはずだ。

けれどその声はその場に居る全員の耳にしっかりと届いた。

応じた国家元首ハルツェンは、跪くことなく立ち続けている者たちを見た。

全員で3人だ。今回の高額報酬に対し派遣して来たのがその3人だった。

「一つ聞きたい」

「何でしょうか?」

「あのユニバンスの小娘は信じられないほどに強い。それをお前たち3人のみで殺せるのか?」

3人では頼りないと聞こえてくる言葉に、ヤーンの一族の1人が一歩足を進めようとして制された。制したの声を発している男だ。

「我らは一族最強の者たちばかり。この3人で残りし一族の者たち全員を屠ることも簡単だ」

「口だけなら何とでも言えるな? 本当にできるのかと聞いてっ」

恐怖に駆られた重臣の1人が開いていた口を強制的に閉ざされた。

彼は突然自分の周りを見渡し胸を抑え苦しみだすと、床の上を転がり回り……そして絶命した。

「この通りですが」

静かに告げる人物に皆の視線が向き、そして床の上へと戻る。

目から血を流し口から舌を出して死ぬ者を見つめ、大臣や重臣たちはゴクリと唾を飲み顔色を悪くした。

余りにも唐突すぎる死だ。何よりそれは魔法ではないという。

「……そうか」

噂に聞きし人外の力を目撃し、ハルツェンはどうにか返事を返すので精いっぱいだった。

他の者たちは改めて恐れ口を閉ざし視線すらも外す。

「ならば今一度問おう。出来るのだな?」

「はい。容易く出来ましょう」

狩れた声の男はフードで隠した頭を縦に動かす。

「ですが我ら一族の力は外法邪法と呼ばれる類の力……一度使えば標的となりし国は悲惨な末路を迎えますが宜しいか?」

「悲惨とは?」

「はい」

ゆっくりとフードが動き、ハルツェンはその奥で笑う骸骨の頭部を見た気がした。

「人も獣も植物も……ありとあらゆる存在に死をまき散らすのが我らの法。解き放たれれば確実に全てを殺し消し去ることとなりますが?」

「構わん。むしろあんな国……跡形もなく消し去るが良い」

「御意」

クツクツと笑い3人はその場を去っていく。

その背を見送ったハルツェンもまた笑う。狂気にその顔を歪めて。

ユニバンス王国・王都

「たいへんです。にいさま」

「ん?」

夕方となり山と積まれた資料に対し強制的で一方的な別れを告げることにした僕は、コソコソと帰り支度を進めていた。

後ろめたいわけではない。後ろめたくないぞ!

クレアとイネル君は先に帰った。

何でも変顔を晒してトイレに駆け込んで以降、クレアはイネル君にべったりらしい。

周りの目が自分のことを笑っているように見えるとかで……むしろ旦那さんに甘えている様子をみんなが生暖かく見守っているだけだと言うことを彼女は知らない。

それにクレアの奇行や生き恥を晒す姿勢は有名だしな。

最後に軽く積まれた自治領に関する報告書に目を向けスルーした。

『今日はもう終わりにするの!』と強い意志を持ってだ。

すると丁度執務室を出ていたポーラが慌てた様子で駆け込んできたのだ。

普段なら動じないポーラが頭に付けたカチューシャを少しズラしているぐらいだ。余程のことだろう。

「で、何事?」

「はい」

自分の胸に手を当ててポーラが一度呼吸を正す。

「せんせいがたおれたと」

「……」

んん? ポーラが先生と呼ぶのはあの鋼の女性と呼び声高いスィーク叔母様とノイエ小隊の待機所に巣くう残念ニートの2人ぐらいのはずだ。その内1人が倒れたという。

「イーリナか。食べ過ぎたか?」

「そっちではなくて」

「……あっちが倒れるの?」

あっちの意味を察したポーラがコクンと頷いた。

マジか? あのメイド神が倒れることがあるのか?

「どうしますか?」

「どうもこうもないよ。とりあえず」

止めていた帰宅の準備を進める。

「まずは叔母様が何処に居るのかを確認して顔を見に行こう」

「はい」

返事を寄こすポーラもどこか不安そうだった。

メイドさんに聞いて回ったら、どうやら叔母様は自身の屋敷に居ることが分かった。

ミネルバさんも合流し、僕らはハルムント家の屋敷へと向かう。

1人日没までお仕事のノイエは後から合流だ。

付き合いはあるのに訪れるのは初めてだ。

上級貴族ハルムント家の屋敷は貴族区の中に存在しており、王弟屋敷から徒歩15分くらいの場所だった。こんなに近いとは知らなかった。

アポ無しだが、馬車で乗り付けた僕らが門前払いとかは無かった。

まずこの屋敷で拷問……長き修行を得ていたミネルバさんが御者席に座っている。それを見ただけで勝手に門が開きました。

門を潜り屋敷へと向かう。こじんまりとしたお屋敷だ。派手さは全くない。

代わりにとにかく庭が広い。所々に穀物の類が植えられているのは先代当主の趣味だろう。

「静かでいいお屋敷だね」

「はい」

教え子であるポーラも実はお屋敷に来るのは初めてらしい。

だから2人して窓に嚙り付いて外の様子を眺めていた。

広い敷地と言うか、庭にはメイド服を着た人たちがチラホラと見える。

誰もが武器を持って……きっとあれは武器の形をした掃除道具に違いない。

あっちの方だと真っすぐに立てられた棒を垂直に登っていくメイドさんが居る。

向こうの方だと弓に矢を番えたメイドさんが的に向かって放っている。

……何か見ちゃいけない物を見た気がして来た。

エントランスで馬車が止まり開かれた扉を潜って僕らは外に出た。

ズラッとメイドさんが並んでいる。左右に15人ずつぐらいズラッとだ。

気づけばその列、右側の列にミネルバさんまでもが並んでいた。普通に違和感無くだ。

クイクイと僕のズボンを引くポーラに目を向けると、彼女は『私も並んだ方が?』と言いたげな目を向けてくる。

落ち着き給え我が妹よ。君は最近普段着がメイド服だけどドラグナイト家のお嬢様だからね? 家系図的には叔母様の姪だからね?

フラフラとメイド列に進んで行こうとする妹の手を掴み僕は彼女の行動を制する。

「失礼ながら。ドラグナイト家御当主様」

「はい?」

1人のメイドさんが進み出て来た。

妙齢のメイドさんだ。ぱっと見、隙が無い。叔母様ぐらいに隙が無い。

「自分はこのハルムント家のメイド主任を任されているラーゼと申します。本日は何用でハルムント家に」

「連絡もせず失礼をしました」

まず軽く謝罪をする。

「自分がドラグナイト家当主アルグスタです。本日は叔母であるスィーク氏が倒れたと聞いて急ぎ様子を見に来ただけなので、手土産等は後日改めてお送りします」

「アルグスタ様のご配慮に主人スィークに変わり感謝いたします」

やはり全く隙の無い奇麗なお辞儀をされた。

と言うか、この屋敷の主人って……一応イールアムさんじゃないの? 名ばかりなの? 実質の支配者は叔母様なの? ねえ?

「それで叔母様は?」

「はい。現在は自室にて」

「そうですか」

流石に女性の部屋に真っ直ぐ行くのは抵抗が……と言ってメイドの巣窟っぽいここでポーラを1人にするのは危険な気がする。良く分からないが僕の勘がそう告げてくる。

だってポーラの目がネズミのランドに初めて来た子供のようにキラキラとしている。

このメイドランドで目を輝かせる妹を放置プレイとか危なすぎてできない。

ここは挨拶だけして帰るべきか?

内心悩む僕を前に、ラーゼと名乗ったメイドさんの元にメイドさんが。ああ。メイドだらけだな!

「失礼ながらアルグスタ様」

「はい?」

「主人がお会いになりたいそうなので、良ければお部屋まで」

「……」

有無を言わせない相手の様子が若干怖い。

何より圧が凄い。叔母様ばりの圧を発するこのメイドさんも凄いな。

「でしたら挨拶だけでも」

屈したわけじゃないけど素直に従うことにした。

もしかしたら僕は罠に誘い込まれたのか? この数の……しまった! ここのメイドの大半は武闘派か!

最終手段、ノイエを緊急召喚を視野に入れて置かないと。

案内されて歩き出す僕らの後ろを総勢30人のメイドが続く。

退路を断たれている気がする。

何よりポーラさん? どうして君はそんなに笑顔なの? 初めて遊園地に来た子供のような顔をしているよ?

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