軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

心と体は正直なんです

「お前という人間は本当に身を削るな?」

「あはは~」

事実だから笑うしかない。

呆れ果てるキルイーツ先生が抜き終えた糸を丸めてゴミ箱に放り捨てた。

僕の頭の傷を縫っていた糸だ。戦場で縫って貰った物だと傷跡が目立つからと改めて先生が縫い直してくれた。ただし何故か傷口を一度開いて傷跡を成型してから縫い合わされた。

治っていた怪我を悪化させて治すという斬新な治療だ。

そんな先生を師匠としているナーファは、僕の頭の傷をスケッチしてまで学んでいる。

真面目な感じは悪くないけど怪我を悪化させて治す方法は学ばなくても良いと思う。

先生は椅子に腰かけるとナーファにあとの手当てを一任した。

傷口をガーゼで覆い包帯で固定するのは異世界でも変わらないらしい。

ただ傷口に塗られているのは薬草をベースに作られた軟膏だ。地球だってその昔は薬草とかが主体だったんだから問題はない。

「洗濯物を取り込んできます」

「ああ」

手当てを終えてナーファが部屋を出ていく。

僕も帰ろうかと思ったんだけど何故か先生がお茶を淹れだした。

長くなるのか? 今日はもう帰って寝たいんだけど?

可愛い妹を生贄にして逃げてきた意味がなくなる。

「なんすか?」

「……スィークが来てな。探りを入れていったぞ?」

「それはそれは」

「軽いな」

苦笑して先生が紅茶を啜る。

あの叔母さんの情報網は凄そうだからな。

たぶん僕があの日のことを調べていたことを不審に思い再度洗い出しぐらいするな。

「それで何と言ったんです?」

「ああ。『リグのことを知りたければ協力してください』と脅されたと言っておいた」

「おい」

「そう言えば、あれはそれ以上追及してこないからな」

「おかげで僕がまた問題を抱えることになるんですけどね」

やはり僕より周りの人たちが勝手に問題を増やすのです。

おかげで可哀そうなアルグスタ君はこうして苦しむのです。

今夜はノイエに自重を思い出してもらってのんびり甘々な時間を過ごそう。

「お前は秘密を抱えすぎなんだ」

「否定できませんけどね」

秘密は確かにいっぱいだ。そのおかげでノイエの家族たちと楽しい日々を過ごせるのもまた事実。

問題は向こう次第で僕がハラハラするんだけどもね。

「ただあのアイルローゼか」

「知り合いでしたっけ?」

「ああ……学院時代は色々とあったよ」

自称苦学生だったらしい先生が、ザックリと過去の話を聞かせてくれた。

何でも真面目な先生はアイルローゼから酷いいじめを受けていたらしい。

寮に盗人などが入らないように確認していたら盗人と勘違いされて殺されかけたとか。

奴隷だったリグを引き取れば『犯罪者』扱いされて酷い目を見たとか……頷ける言葉と首を傾げる言葉をたくさん聞けた。

「でもまあ……今となれば良い思い出だがな」

「そうっすか」

「ああ」

優しく頷いて、彼はまた紅茶を啜る。

「出来ればナーファにもう1人の娘を逢わせたいのだがな……難しいだろうな」

「どうなんですかね」

ナーファは基本良い子だと思う。けれどその胸の内までは分からない。

彼女の両親を死に至らしめたのはリグだ。

それを知っていれば……憎んでもおかしくはない。

普段のリグはあっけらかんとしているけれど、自分の目の前で明確な拒絶を示せれたらどんな反応をするか。

「急がなくて良いと思いますよ」

「そうか?」

「ええ。何よりリグが生きているのかどうかも分からないですしね」

「……そうだったな」

苦笑し先生は紅茶を飲み干した。

「あの馬鹿娘が元気に……寝て過ごせていれば幸せなのだがな」

あっそれなら現在進行形で実行していると思いますよ。

基本リグは寝てばかりいるらしいしね。

「……」

目が点とはこのことか?

キルイーツ先生の所で話し込んでいたら帰宅するのが遅くなった。

先に戻っていたノイエは食事とお風呂を済ませて寝室に居るというポーラの話だったので、僕も両方済ませて向かった。

向かったら確かに居た。それも2人だ。本当にこっちの都合など無視して姿を現す。

「ノイエったら」

「……」

彼女の膝を枕に横になっているノイエが、アホ毛をフリフリさせている。

可愛らしい姿を晒しているお嫁さんを撫でているのは目を閉じた大人しめの女性だ。

奇麗な銀髪は長く彼女の体を覆うように流れている。ノイエの姉たちが基本装備しているワンピースのように見える服を着ている。

美人ではあるが柔らかく暖かな感じのするお姉さんオーラが強い人物だ。

名はセシリーン。

あらあらうふふと笑いながら最終的に僕を味わっていく歌姫さんだ。

「聞いてノイエ。旦那様から不穏な気配がするの」

「……喧嘩はダメ」

ムクッと起きてノイエが僕に不満げな視線を向けてきた。

無表情だけでその目は雄弁だ。素人だと違いが分からないらしいが、僕ほどのノイエマスターだとその虹彩の違いから全てを理解できる。

何となく怒りの色彩が多い。多いの。

「喧嘩はしてないよ」

「そうね。喧嘩は」

口元に手を当ててクスクスと歌姫さんが笑う。

絶対に良からぬことを企んでいる。僕の心のアンテナがそう告げている。

「それで何でセシリーンさんは出て来たんですか?」

ベッドの端に座り僕は彼女に問いかける。

またノイエの頭を太ももに戻した歌姫さんが優しく笑う。

「愛しい旦那様に逢いに来たのに酷いですね」

「……」

「何かしら?」

どうも嘘くさい反応に沈黙してしまった。

それを見逃さないのが歌姫さんだ。目は見えないけれど。

この手の姉キャラは本心を見せないから恐ろしい。

「で、本心は?」

「……うふふ」

笑いながら彼女がノイエの背中に指を這わせている。

1度ならずも2度目があると思うなよ!

慌てて手を伸ばし、ノイエが立ち塞がった。

裏切るのか我がお嫁さんっ!

「本当だ」

「でしょ?」

「はい」

僕には分からない会話が行われ、ノイエが僕をベッドの上に転がす。

「ノイエに何をした?」

「あら? ただこうして甘えていれば、貴方が襲い掛かって来ると教えてあげただけよ?」

「何て周到な!」

うふふと笑うセシリーンを無視して、やる気満々なノイエさんが馬乗りして来た。

「落ち着けノイエ」

「本当だ」

「……何が?」

予言者でも見ているかのような目でノイエが姉を見つめている。

「彼は恥ずかしがると『落ち着け』と言うって教えてあげたの」

「何て先読みを!」

恐ろしい存在だ。僕の行動を先読みするなんて……。

「旦那様はノイエを前にすると言動が限定されますしね」

「……自分の愚かさを知りました」

結果として僕はノイエの下に居るわけですしね。

だが甘い。いつまでも僕がノイエに負け続けると思っていたのか?

「ノイエ」

「はい」

「旦那様が貴女の髪を狙うから気をつけなさい」

「……分かった」

もうほとんど予言だろう?

「何故にそんな先読みをっ!」

僕の悲鳴に彼女は笑う。

「心と体は正直なんです」

告げて彼女は自分の耳に触れる。

「だから音となって聞こえるの」

「卑怯な」

「あらあら……私にばかり気を取られていると大変なことになるわよ?」

「なっ!」

気づけばノイエが服を脱ぎ捨て臨戦態勢に……。

「ノイエ」

「はい。お姉ちゃん」

「あまり頑張りすぎないでね」

「はい」

そんな注文をノイエが聞くわけないやんか!

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