軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貴方が本来のアルグスタかしら?

「あの~先生?」

2泊3日の温泉旅行も今日でおしまいと悲しみつつ微睡みながら目覚めようとして気づいた。縛られている自分にだ。

瞼は開くので視線で確認すれば、長い髪を赤く染めたノイエが冷たい目をして僕を見ていた。

そんな目をしてくるのは僕が知る限り1人しかいない。術式の魔女アイルローゼ先生だ。

「何故に僕は縛られているのでしょうか?」

「……」

返事はない。ただとても冷たい感じで見つめてくる。

どこか……出会った頃のような冷たさだ。

「魔力の流れに違和感は無いわね」

「はい?」

「そうなると……」

幾分か目元を和らげて先生は僕が寝ているベッドの端に腰かけた。

その手が伸びてきて額に触れる。風邪をひいたときに手を当ててくれるような感じだ。

「って!」

「少し痛いけど我慢なさい」

ピリピリって電気みたいな刺激が頭をっ!

背中を反らしベッドの上で横になったまま震えることしばし……ようやく解放された。

余りにも長く感じた拷問にポロポロと涙が溢れたよ。

「先生っ!」

「煩い」

「説明を求めます!」

「黙りなさい」

取り付く島もないとはこのことか?

顎に手をやり何やら考え込む彼女は僕のことなど見もしない。

ダメだ。これは完全に魔女モードの先生だ。

謎を解明する方を優先して周りのことが目に入ってない。

って今更僕に謎ですか? この温泉旅行だと毎晩ノイエに襲われ、艶々になる彼女はおかしいと思う日々でしたよ? むしろノイエの方が謎でしょう?

寝て回復を図れば、徹夜明けなど気にせずドラゴン退治をして来たノイエに再び襲われ……ノイエの祝福って性欲の方も増大するんですかね?

そっちを調べましょうよ!

「あの~?」

「……」

眉間に皺を寄せて考え込んでいた先生が小さく息を吐いた。

「そう言うことか。私も馬鹿ね」

「はい?」

スッと先生の顔が僕を見る。

「確認よ馬鹿」

「はい?」

「貴方は一度死んでいる。そうよね?」

『そうよね?』と質問されると複雑だけどね。

「それってこっち? あっち?」

「……両方で死んでる稀有な存在だったわね。まあこっちで良いわ。異世界の法則までは私も考えが及ばないから」

確かに地球のことまで僕に問われても困る。

幽霊してましたとかどんなコントかと思うしね。

「こっちでなら死んでるはずだよ? 毒を飲んで死んだとかって話だしね」

パパンの説明ではそうだった。

だから中身を失ったこのアルグスタという存在の器に僕の魂を入れたのだ。

渡りに船って表現であってるのかな? おかげで幽霊をしていた僕はこの世界に来てノイエという素晴らしいお嫁さんとその家族たちと暮らせることになったのだ。

宝くじの一等前後賞なんて霞んでしまうほどの幸運だ。お金で買えない幸せがここにある。

「王城で大規模な術式を使った気配が前にあった。2度ほどね」

「はあ」

先生の言葉に僕は素直に頷く。

「その内1回は異世界召喚。つまり死んでいた貴方をこちらに召喚した魔法よ」

そうですね。確かに呼ばれましたしね。

と、先生が若干冷たい目を向けて来た。

「もう1度は“時戻し”の術式よ。その術式を用いて貴方の蘇生を企んだんでしょうね。けれど肉体は蘇生しても中身は戻らなかった……どうしてだか分かる?」

その手のスピリチュアルなことは良く分かりません。自分幽霊してましたけどね。

「分かりません」

「少しは考えなさいよ。けど……たぶんだけど術式を使った人たちもそれを想定していなかったのよ」

「それ?」

「ええ」

苦笑いにしか見えない表情で先生が口を開いた。

「死ぬ前のアルグスタが作られた存在だったという可能性よ」

「……はい?」

僕の頭の許容範囲外の言葉が聞こえた気がする。

死ぬ前のアルグスタが作られたって何よ? 何なのよ?

「間の抜けた表情しないの。たぶんと言うか仮定の話よ」

「だからって荒唐無稽すぎて」

「そうよね。でもこう考えれば納得できるの……こう考えないと納得できないのよ」

どっち?

先生の難しい言葉選びに僕の頭はますます大混乱です。

「分かっていないから言っておくわ」

「はい」

「あの日……帝国軍師に襲われた日のことはどこまで覚えているの?」

「あの日は……」

確か軍師の部下っぽい護衛と戦っていた背後から襲撃されて吹っ飛んで気絶しました。

その時の頭の傷はキルイーツ先生に治療して貰ったけど『リグにでも見てもらえ』とか皮肉を言われたな。

たぶんアイルローゼとかの話を聞いてあの先生は察したんだろうけどね。僕がリグを匿っているという可能性にだ。

「あの人なら真実を告げても大丈夫よ。研究馬鹿だけど義理堅いから」

「そうっすか」

僕の説明を聞いてアイルローゼがどこか懐かしそうに呟く。そして数度頷いた。

「その攻撃の犯人はノイエよ」

「はい?」

僕はお嫁さんの手によって殺されそうになったんですか? どこのミステリー小説ですか?

「助けようとして石を蹴ったら……そう言うことよ」

先生の助け舟が途中で走行不能となった。

分かっている。ノイエなりに頑張った結果、僕は死にかけたんだ。

実際は頭を打って気絶していただけだけどね。

「それであの子は貴方を失うと思ってまた封印が解けたの」

「はい?」

「見たでしょう? ジャルスよ」

「ああ。納得……」

つまりノイエは僕を攻撃してしまい、僕が死ぬと思って大暴走。

アホ毛の封印を解いてジャルスを呼び出して……大暴れしたってことで良いのかな?

「ならあの死屍累々の惨状はジャルスが?」

「半分はね」

「半分?」

と、先生が僕を指さした。

「もう半分は貴方よ」

「はい?」

軽く頭を振って先生は言葉を続ける。

「私たちはあの時、刻印の魔女の妨害に遭って外に出れなかった」

うおい! アイツ……僕を殺す気か?

「だからノイエが封印を解いた。何故解けたのかは分かっていない。エウリンカはまだ液体だし」

何故エウリンカが液体なのかも気にはなるのですが?

「外に出たジャルスは軍師を標的にした。貴方を無視して」

「……で、僕はどうやって助かったの?」

話を総合すると、信じられないけれど?

「自分で立ち上がって敵を斬って殺して回ったのよ」

「……冗談?」

「事実よ。私は拘束されてて見れなかったけど、シュシュやレニーラ、ファシーなど見てたわ」

少し頬を赤くしてモジモジとする先生の態度も気になるが、ファシーの名を聞いて頭の中で何かが引っかかった。

確か僕がキシャーラのオッサンの屋敷に戻ってから彼女が出て来た時に何と言った?

『偽者』とか何とか言っていた。たぶん彼女なりに確認したのだろう。

もうファシーったら言葉が足らないんだから……今度出てきたら甘い吐息をこれでもかと吐かせて発声練習をしてやる。これは教育です。

「で、僕が帝国の騎士たちを斬って助かったと?」

「記憶には無いのでしょう?」

「全然無いです」

無自覚です。これだけ聞いたら夢遊病の類を疑います。違うか。この場合は二重人格か?

「それで話が最初に戻るのよ」

「最初?」

「ええ。死んだアルグスタが作られた存在で、魔法か何かで封じられていた本来の存在だと思われるアルグスタが外に出たという可能性よ」

「……そんな物語のようなこととかあるわけないでしょう?」

「それを言ったら私たちなんてその物よ」

納得です。何より色が変わらなければノイエは多重人格者扱いされてもおかしくないしね。

あれ? 何だかとっても……意識が遠くなってきた。何か……眠い。

「どうかしたの? 馬鹿弟子?」

不意に意識を失った存在に魔女は相手の顔を覗き込む。

と、閉じた瞼がまた開いた。

「正解だよ。術式の魔女」

開いた口から綴られた声は彼の物だ。けれど言葉には不思議と違和感を覚えた。

節々に上から……支配者たる者が扱う響きを感じたのだ。

「貴方が本来のアルグスタかしら?」

警戒し魔女は相手を拘束しておいた自分を内心で褒めた。

立ち上がり襲い掛かられでもしたら……反撃は難しいからだ。

「そういう言い方が正しいのであれば、な」

軽く笑う存在に術式の魔女はグッと身構えた。

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