軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

根負けしました

「馬鹿なことを……父上の、オルダーニ侯爵が企てたことだ!」

仲間の裏切りに異を唱えたマルスは、私ではないと必死に首を左右に振り否定するも。

「オルダーニ侯爵とお会いしたことはありません」

「全てマルス様の指示で行ったことです」

予め決まっていた台詞のように、元王子宮の騎士達は自白した。

マルスは驚きと怒り、恐怖でわななき、縋るようにイシュラ王を見上げ「違います」と何度も口にする。

「意図的に払われた捨て石だったようだな」

「……え?」

「王女の暗殺に成功すればそれでよし。失敗したとしても、遊び惚け散財する侯爵家の汚点を処分できる」

「そんなわけ……私が捕らえられれば、侯爵家も痛手を負うことに」

「だから捨て石だと言っただろう。侯爵家の私兵を動かしたわけでもなく、そこの者達はお前が企てたことだと主張している。侯爵が関与したという証拠はなく、次男が勝手にしたことだとしてお前を差し出し、謹慎と賠償金で解決しようとするだろう」

「そんな……」

「悪名高い侯爵家の汚点ならやりかねないと、他の貴族は侯爵に同情する。そこまでが侯爵の計画かもしれないぞ」

「父上はそのようなこと。私を捨て石になどする筈が」

「オルダーニ侯爵はお前が考えているほど甘くも、馬鹿でもない。こうして次男の処分まで策に組み込んでいたのだからな」

「そんなわけ……そうだ、その騎士達が侯爵家を陥れようと謀ったことです!」

「……」

「そうでなければ、父上が私にこのような仕打ちをするわけがない。母上が私を見捨てることも」

くしゃりと顔を歪めたマルスは声を震わせ、何かの間違いではと現状を受け止めきれずにいる。そんなマルスを見据え何やら思考していたイシュラ王は、これ見よがしに深く溜息を吐き「このまま処分か」と死刑宣告を口にした。

「こ、国王陛下……!」

「地位を取り上げることも、交渉にも使えない。お前に何が出来る?」

悲痛な声を上げたマルスは、何が出来る?という言葉に目を見開き、すぐさま口を開いた。

「私は、父上と姉上の弱みを知っております!」

このまま諦めることなく、侯爵家の為に己を犠牲にするわけでもなく、自分が捨て石にされたと知ったマルスは侯爵家を道連れにすることにしたらしい。

「侯爵と王妃の弱み?お前がそれを知っているとは思えないが」

「私は毎晩のように父上の執務室に侵入しておりました!父上が重要な書類や物を隠す場所は決まっていて、そこを常に確認していたのです」

「……」

「お、お疑いのようですが、母上が協力してくれていたので。印章も盗み出せるくらいあらゆることを把握しております!」

次男がこうも愚かなのは、母親である侯爵夫人が甘やかした結果だったらしい。

「ですので、私は使える男だと……」

「……」

「そ、それを今から証明します」

必死なマルスは無言のままのイシュラ王に危機感を募らせ、訊かれてもいないのに侯爵と王妃様の収入源、他国との裏取引、未登録の鉱山など、侯爵家の財政情報をペラペラと喋りだしてしまった。

「連れて行け」

有益な情報があったのか、黙ったまま聞いていたイシュラ王がふっと口角を上げ、アルドおじさんにそう指示を出す。

「陛下……!?」

「王都に戻す。死にたくなければ知っていることを全て吐け」

「わ、分かりました!」

自覚なく頻繁に問題を起こす人の対処法としては、物理的に距離を取る一択ではある。

でも問題を起こす人が家族となれば飼い殺しにするしか道はなく、侯爵家は今迄ずっとマルス・オルダーニを矯正することなくただ生かし続けてきた。

それなのに侯爵家は、次男を奈落の底に叩き落す道を選択したらしい。

(それが貴族だもの)

マスル・オルダーニは、イシュラ王の罠にかかったのと同時に、侯爵家の罠にもかかった。

けれどそれは、マルス自身が選択した道でもある。

「やっと終わった」

もう大丈夫だからとリオルガに下してもらった私は、背中を丸めて連行されていくマルスを眺め、そっと息を吐き出した。

「行くぞ」

そうイシュラ王から声をかけられ瞬きすると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

寝起きでぼさぼさだった髪は更に酷い有り様になり、長い前髪をかき分け犯人であるイシュラ王を睨むと「ん」と腕を伸ばされ、それを無視して周囲を見回す。

(もうお別れの時間)

そう思うと寂しくて、お店の片付けをしているエドを見つけ駆け寄ろうとすると、ぐいっと襟首を掴まれ「うぐっ」と変な声が出た……。

こんなことをするのは一人しか居らず、襟首を掴んでいる手をベシッと叩く。

「どこへ行く?」

「どこって、エドやアルドおじさんに挨拶をするんです」

「……挨拶?」

「もう村に戻ってこられないかもしれないので、お礼とか健康に気を付けてとか。あ、リュシーおばさんにも……もしかして、挨拶をする時間もないのですか?」

「時間はある」

「それならエドに挨拶をして、アルドおじさんとリュシーおばさんを待ってもいいですか?」

「後にしろ」

「後?まだ何か他にやることがあるんですか?」

「いや」

「それなら先に挨拶を」

「だから何故挨拶をする?」

「今迄ずっと助けてくれていた家族のような人達なので、お別れの挨拶は」

「それなら不要だ。暫くこの村に滞在するからな」

「……え?」

そんな話は初耳だと驚きながらリオルガを仰ぎ見ると、どうやら同じく初耳だったらしいリオルガは額に手を当て項垂れている。

「でも、行くぞって……」

「……?」

「そんな訳が分からないといった顔をされても、それは私の方ですから!」

王都から村までどれほど急いで往復しても、絶対に一月以上はかかる距離。

少数の現役常備軍とリオルガ、引退した元常備軍という、ただでさえ国王の護衛にしては手薄なのに、警備のけの字もないこの小さな村に滞在すると言う。

――しかも。

「それで、家はどこだ」

まさかとは思ったけれど、やはり目的地は我が家だった……!

「駄目です」

「……」

「我が家は村の外れにある古びた家です。玄関の柵は押すと壊れて防犯の意味をなしていません。それに室内の床は歩くと軋むし、寝具も硬くて寝られないと思います」

「……」

「あと食べ物も、固いパンと野菜くずが入ったスープくらいしか……あ、エド!」

「お、おお」

「確かまだパンと食べかけのチーズがあったんだけど、それって」

「片しておいたから平気だ」

「よかった!腐っていたら勿体ないもんね」

「あーうん。それより国王陛下を……」

「ん?」

笑みを引きつらせたエドが私の真後ろを指差す。それに眉を顰めるとエドは声を出さず「早くしろ」と口をパクパクさせる。

「どうした……の……」

エドに促されるままに振り返ると、ぐぐっと眉間に皺を寄せたイシュラ王が床を見つめていた。

「えっと、リオルガ?」

「無力さを嘆いているだけですよ」

「おい……」

「リスティア様の暮らしていた環境を改めて知り、落ち込まれているのかと。違いましたか?」

「……」

「私、落ち込ませるようなことを言いましたっけ?」

「……」

とてもよい笑顔のリオルガと床を睨むイシュラ王を見て、首を傾げる。

煌びやかな王宮と比べるととんでもなく貧相に感じるかもしれないけれど、普通の平民の暮らしとはこういったもの。ただ倹約なだけで、祝祭のときには身綺麗にして少しだけ贅沢だってする。

仲の良い家族がいて、衣食住にも困らないのだからとても幸せなことだと思う。

「兎に角、贅沢に慣れた……んんっ!偉大な国王陛下が滞在するようなところではありません」

「……」

「睨んでも駄目なものは駄目です」

「……」

「エドを睨むのも駄目です!ほら、迷惑をかける前に帰りますよ」

頑なに滞在するといった姿勢を崩さないことに呆れながら、腰に手を当て「駄目です」と再度強く言うと、イシュラ王はぷいっとそっぽを向き。

「……嫌だ」

と呟く。

「どのように生活し、何を好み苦手とするのか、俺は何も知らない。そこの親子のように、お前の体調も分からず、食事を作ってやったこともないだろう?」

「えっと……」

「王宮に戻れば、国王と王女として互いにやるべきことがある」

「それはそうですけど」

「だから暫く滞在する」

要はアルドおじさんやエドのように、私と家族として過ごしてみたいと、そういうことなのだろう。

「お前の家族で父親は俺だ。エドガルドやアルドではない」

拗ねている。これ、絶対に拗ねているよね?

そっぽを向き続けるイシュラ王の腕を掴み引っ張ってみたが、微動だにせず。背を向けると肩を掴まれくるりと戻される。

「もー、分かりましたよ!」

駄々をこね拗ねるイシュラ王に根負けし、祖母と母と過ごした我が家に向かうことにした。