軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お茶会中

「どうやらあのお茶会以降、執拗に執着されているようで」

「執着?」

「統括宮の扉前での待ち伏せの他にも、毎日のように別宅に手紙と花が届きます」

「手紙と花が……」

「それも、朝と夕の二回」

「それは……」

想い人に好意を示す常套手段ではなかっただろうか?

「統括宮の扉前でシリルとメリアが口論になったとは聞いていたけど」

「口論?自分を優先しないのは何故だと、よく分からないことをぐだぐだと喚き癇癪を起こし、無視すれば腕を掴んで放さずまた喚く、あの話が通じない子供とは口論にすらなりませんが?」

「あー、うん、大変だったね」

「二つや三つの幼い子供ならまだしも、マナー教育を受けている令嬢の行いではありません」

貴族にとってのマナーは、社会的地位や格式を象徴するものなので、公の場や社交場での振る舞いにおいて厳格な規範が求められている。とくにデビュタント前の子息や子女は、自身の教養を示す手段となるので、日常生活から気を付けなくてはならない、のだが……。

メリアは幼い頃からずっと王妃様と王子達に可愛がられ、王女のような待遇を受けてきたのだろう。だからこそ王宮内で働く者達は皆、メリアへの対応は過剰なほど慎重に行い、彼女の機嫌を損ねないよう立ち回っていた筈。

それがメリアにとって当たり前の日常なのだから、男爵家の令嬢が自身を王族と同等だと錯覚してしまう気持ちは分かる。

でもそれが通用するのは、王妃様と王子達の息が掛かった場所だけで、そこから出たらメリアはただの男爵家の令嬢にすぎないのだから、国王から王宮に招かれている伯爵家の子息をどうこう出来る権利はない。

(初めて自分の思い通りにならなかったんだろうなぁ……)

しかも相手はこの一癖も二癖もあるシリル。

「初めの二日ほどは丁寧な対応を心掛けていたのですが、あまりにも聞き分けがなく、話していても疲れるだけなので無視することにしました。あの子が癇癪を起こすようになったのはそれからです。掴まれた腕を振り払うわけにもいかず、あの子の側にいる侍女に対処を求めたのですが、笑っているだけで何もしません」

「うわあ……」

「手紙と花も、こういったことは困りますとお断りの返事を即座にしました」

「ほ、ほら、これでも食べて」

もう完全に目が据わっているシリルを宥める為に、お菓子が入っている籠を彼の眼前に置けば、パチパチと瞬きしたシリルは好物であるプレッツェルを手に取り、深く息を吐いた。

「子守がいればまた違ったのでしょうが」

「子守?」

「第一王子殿下と第二王子殿下のことです。普段はそのどちらかと必ず一緒にいるそうですよ。リスティア様は、第二王子殿下が王子宮の自室に軟禁されていることはご存知ですか?」

知っていると二、三度頷き、白一色に染め上げられた美しい庭園を眺める。

昨日、ソレイルとメリアが荒らした庭園の修復工事が終わった。

母が好きだったという花々は千切られ、踏み潰され、長い間ずっと同じ景色で保たれていた花畑の惨状に、庭師は目を剥き悲鳴を上げたらしい。

芳香のある華やかな花よりも、野に咲いているような花が好きだと口にしたからか、ガゼボから見える範囲は全て、多数の小さな花が密集して一つの花のように咲く可愛らしい白い小花に植え替えられた。

「国王陛下が第二王子殿下に与えた罰は、統括宮への出入り禁止だけどね」

たかが花、子供がしたことに処罰など大袈裟だと、そう普通は思うだろう。

けれどこの庭園は、イシュラ王の許可がなくては入れない特別区画。子供であろうが、王妃や王子であろうが、許可なく入れば処罰が与えられるのは当然のこと。

だから第二王子であるソレイルは、今迄自由に入れた統括宮への出入りを禁止された。

それに加え、ソレイル付きの侍女と王子宮の騎士二名は解雇され、王宮から出されている。

では何故、統括宮への出入り禁止という処罰を与えられたソレイルが軟禁されてしまったのかと言うと、王妃様の独断である。

あの狐様は何を企んでいるのか、ソレイルに与えられた処罰を素直に受け入れ、きつく反省させる必要があると言い、我が子を王子宮に軟禁したのだ。

「第一王子殿下は?」

「あの方は狡猾ですから……」

「狡猾……?穏やかで繊細そうな人だったけど」

「穏やかで繊細?そう装っているだけで、目障りだった次期王候補が一人脱落しそうだと内心ほくそ笑んでいるような人です。現に、妹のように可愛がっている子を放って、距離を置いているじゃないですか」

「忙しいのかもしれないし」

あの年齢なら既に、王位継承をする為の特別教育が始まっている筈。

一般的な教養の他に帝王学もとなれば、遊んでいる時間などない。それに晩餐の席で見たクリスは、ソレイルとメリアに振り回されているお兄ちゃんといった感じだった。

だからシリルの思い違いでは?と首を傾げれば、ふんと鼻で笑われ。

「僕が共存していけると思えるような人ですよ?」

「それは真っ黒だわ」

とても説得力のある言葉だと即座に肯定すれば、ギロリと睨まれてしまう。

自分で言ったくせにと思いながらも、私の分のプレッツェルをそっと差し出す。

「その所為で、あの子が野放しです」

「メリアは叱られただけだろうしね」

ソレイルと同様に処罰されると思っていたメリアだったが、彼女はこの庭園が特別区画だということを知らず、ソレイルの言葉を信じて足を踏み入れてしまっただけ。だからメリアについては、彼女の監督義務を怠った王妃様が咎められ、庭園の修復工事費用の支払いを命じられたそうだ。

「今日は扉前で両手を広げながらずっと喚いていたので、頭を掴んで退かしました」

「……頭を?」

「王子殿下達はあれが可愛いと思えるのですから、凄い感性ですよね。全く理解出来ません」