軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

prologue

「号外、号外だよー!そこのご婦人方、是非一枚お手に!」

昼間の人の多い時間帯。

王都の中心に聳え立つ銅像の前では、キャスケットを被り鞄を斜めに掛けている青年達が、手にしている新聞紙を頭上で振り回し声を張り上げている。

新聞社が号外を出すことは珍しく、何事かと皆立ち止まり青年から新聞を買と、ある者は慌てて家へ引き返し、またある者は近くを歩く者達に興奮気味に新聞を差し出し話しかけた。

「……あ、そこの貴方も、どうぞ!残り少ないし、今なら半額におまけしますよ」

※※※※

王政国家、または絶対君主制であるフィランデル国。

この国を代々統治してきた歴代の王達は、拘束や制約に左右されることなく権力を自由に行使し、王直属の常備軍を支柱として国を拡大させ他国を支配してきた。

その歴代の王の中で最も優れた統治者イシュラ・シランドリア王は、齢十二という若さで次期王候補となったのは記憶に新しい。

更にはその五年後の十七歳。イシュラ・シランドリア王は歴史上最年少で王冠を戴いた。若く力のある王の誕生に国民からの歓喜の声は途絶えることなく、昼夜を問わず祝いの宴が続いたと記録されている。

さて現在、フィランデル国にはイシュラ王の子である二人の王子が跡継ぎとして存在しているのだが……。

最有力候補だと囁かれていた第一王子は、イシュラ王が次期王候補となった十二という歳になっても指名されることはなく、第二王子にもその気配はないという。

では、一体誰が次期王候補になるのかと皆の感心を集めていたが、先日遂に王室から次期王候補が指名されたと発表が出されたのだ。

平民向けである大衆紙。中級から上級貴族向けである我がリオロット新聞社。他にも、各社が一斉に出した号外の見出しは、全て『女王誕生』となっていることだろう。

今これを読んでいる者達の気持ちはよく分かる。

何せ発表を受け、我々も耳を疑ったのだから。

予想外の人物であったのもそうだが、イシュラ王から指名された人物が、存在すら知られていなかった王女だったからだ。

新聞紙の一面を飾った王女の絵姿を見て、皆目を見開き驚愕していることだろう。

イシュラ王が候補となった歳よりも若く、齢十で他の王子達を押しのけ候補となったのは、この輝くばかりにお美しいリスティア・シランドリア王女である。

輝くブロンドの髪と、日の下に出たことがないであろう白磁のような肌。将来は絶世の美女になるであろう完璧な容姿。

そして、王族直系だけが持つバイオレットの瞳。

この絵姿から分かるように、間違いなくイシュラ王の血を引いている王女である。

では何故、今迄リスティア王女の存在を隠してきたのだろうか?

様々な憶測が飛び交う前にと、貴族や民衆に正式に披露する前に我が社が王室から選ばれ王女本人との面会が許された。

それは本当に僅かな時間だったのだが、それはとても貴重で驚かされた時間だった。

王宮の一室で、数人の護衛騎士を従え椅子に座っていたリスティア王女。

私達記者をひたと見据えた瞳には子供特有の好奇心や怯えもなく、既に次期王候補としての貫禄を有していた。

驚くことに王女の護衛騎士の中に、王直属の常備軍で異例の一個師団を任されている伯爵家の子息がいた。それだけではなく、隅に控えていた侍女は私の見間違えでなければイシュラ王の乳母だった方だと記憶している。

私の疑問は益々深まるばかりだ。

他の王子達とは一線を画すほどの寵愛を受けている王女が隠されてきた理由とは?

黙ったまま静かに微笑まれる王女に圧倒されながら、幾つか質問に回答をいただけた。

――公の場や、王宮内、社交界等で、噂の一つもなく、リスティア王女のお姿を拝見した者は誰一人としていないというお話を伺いましたが。

『私はとても静かな場所で愛する家族と質素な暮らしをしていましたから。それに、国王陛下は私の存在をなかったものにしたかったようですし』

恐らくイシュラ王は、リスティア王女を次期王候補に指名することを予め決めていたのだと予想する。だからこそ存在を隠し、発表するその日までは義務も責任も課さず、家族としての時間を持ち、王と次期王候補としてではなく、ただの親として愛情を惜しみなく与えてあげたかったのかもしれない。質素な暮らしは我々民の生活を知る術であろう。

一瞬も悩まず滑らかに動く口元を見ていれば、用意された回答をただ覚えて口にしているわけではないことが分かる。

――社交界では、リスティア王女と同じ年齢の男爵令嬢が王家から寵愛を受けていると噂になっているようですが、それについてはご存知でしょうか?

『いいえ、聞いたこともありません。余程の功績がある者ならまだしも、上級貴族の子息や子女を差し置いて、ただの男爵家の令嬢が寵愛を受けるなんて、もしそれが本当のことであったとしたら、王家はいい笑いものですね』

これはどうだろうかと、若干答えにくい質問にも嫌な顔など一切せず答えていただけた。

首を傾げながらゆっくりと口角を上げた王女の微笑みを目にし、私の背筋に冷たいものが走ったのは気の所為ではないだろう。まるでイシュラ王のようではないかと思ったのは同行していた者達も同じだったと後で知ったことだ。

この方こそが次期王候補なのだと喉を鳴らし、この方以上に寵愛を受けるに相応しい方などいないと歓喜する。

貴族だけでなく平民の間にも流れていた噂話は、誰かが悪意を持って広めた嘘だったのだと確信した。

だが、大切に育てられた幼い王女が大人相手にこうも流暢に会話を行えるものなのだろうか?

この貫禄と聡明さが指名された理由だろうか?

それとも、そうあるようにとイシュラ王が教育をされていたのだろうか?

――国民は皆、次期王候補に指名されたリスティア王女に注目をしています。他の王子達ではなく、何故一番幼い王女であったのかと。

『国王陛下のお考えは私には分かりかねます。そこまで親しくはありませんので』

王の考えていることは候補であったとしても真意を図りかねるということか。

いや、上手くはぐらかされたのかもしれない。

普通は分からなくて当たり前だと思うものだが、何故か王女なら全て知り納得しているのではないかと思ってしまうのだ。

この辺りで護衛に就いていた騎士が動き、面会終了の時刻となってしまった。

――年齢以上の聡明なお姿を拝見し、大変感銘を受けました。リスティア王女が女王となられる日をとても楽しみにしております。

緊張していたのか額に滲む汗を布で軽く拭き、締め括りの挨拶として口から出た言葉は私の本心だ。

退出する為に王女の言葉を待っていたのだが、なにやら考え込まれていたのか数分の沈黙のあと軽く頷かれた。

それを合図に立ち上がったのだが……。

『三度目だから』

――三度目?

私の耳に入った、リスティア王女が呟かれたお言葉。

その言葉の意味を質問することなく面会は終わってしまったが、三度目という言葉にはどのような意味が込められていたのか。

後日、同行していた者達と色々考察してみたのだが、これといった答えはなく謎のまま。

この記事を読んだ者達の中に、リスティア王女の言葉の真意が分かる者はいるだろうか?

もし何か分かったら、是非リオロット・タイムズ社に一報を。

※※※※

「どうだ?中々面白く書かれているだろう?」

「絶対君主制というのは凄いですね。何を言っても見当違いに良いほうへと解釈していただけるのですから」

「当然だ」

読んでいた新聞から顔を上げ、正面に勝手に座っている自称父親に皮肉を混ぜて答えれば、何が楽しいのか笑みを浮かべている。

「それで、コレがどうかいたしました?」

朝食の席に現れるなり新聞を寄越し、それを読み終えるまでジッと待っているのだから、何か用があるのだろうとは思っていたが。

「三度目とはどういう意味だ」

やはりソレだったか。

あれは年齢以上にという記者の言葉に反応して思わず口からポロリと零れてしまっただけで、意味などない。

まさかあんなに小さな声を拾っていたとは……記者って凄いわ。

「覚えておりません」

「たが、ここに書かれている。もしこれが記者の虚偽だとしたら、処罰しなくてはならないな」

「緊張していたのでそのようなことを口にしたのでしょう」

「緊張?お前に緊張している様子はなく、とても立派に堂々と対応していたと、乳母からそう報告を受けているが?」

「そう見えていてなによりです。それよりも、他に目を向けることがあるのでは?」

「ないだろう?」

三十過ぎた男が首を傾げて可愛く見えるのだから、腹が立つ。

その無駄に美しい顔を手に持っているフォークで刺してやろうかと殺意が湧き、一瞬浮かせた腕を下ろし深呼吸した。

駄目、コレでも国王だから。刺したら反逆罪で捕まる。

「あの男爵令嬢のことは、どうされるおつもりですか?」

「あれは俺の管轄ではない」

じゃあ、誰の管轄なのよ!

マナーをかなぐり捨てお皿の上のハムにフォークを突き立てると、自称父親は真似をするかのように自身の皿の上にあるハムを同じように刺して見せた。

「気にすることはない。あれはあいつらの玩具のようなものだ。飽きたら興味をなくす」

「飽きれば……の話です」

興味をなくす?

開かれている窓の外から聞こえてくる楽しげな声に気付いていないわけがない。

男爵家の令嬢と兄達が、すぐ下のテラスで仲良く朝食を摂っているのによくそんなことが言える。

王族でもないのに王宮内に部屋を貰い、王族が揃った貴重な夕食の席に当たり前のようにいた男爵家の令嬢メリア・アッセン。

彼女は六年後にこの国の王族の後ろ盾を得て他国に遊学し、そこで王女並みの扱いを受けながら、婚約者のいる王子と恋に落ちる。

だからこのまま傍観していても、少なくともあと六年は飽きられないということで……。

「あとで叱られるぞ?」

並々と水の入ったグラスを手に立ち上がると、私の行動を先読みした自称父親から一応注意はされるが、笑いを堪えられていない時点で同罪である。

そのままテラスまで出て、腕を外へ伸ばしながら落下地点を確認し。

「私を叱れる人は、国王陛下だけですよ?」

自称父親に微笑みながら、グラスを持つ手をひっくり返した。

――バシャッ。

「……っえ、きゃあ!」

「何だ!?」

「メリア!」

メリア・アッセンには、恨み辛みが山ほどある。

一度目のことで復讐しようなどとは思っていないが、三度目の私の世界を脅かすと言うのであれば容赦しない。

「お前っ、リスティア!」

大して濡れてもいないのに大袈裟に騒ぐメリアを囲み、グラスを手に下のテラスを覗き込んでいる私を睨む兄達。彼等も敵となるなら排除するまでだ。

「煩いわよ。誰に向かって吠えているの?」

「何だと!」

「勘違いしないでください。次期王候補は私ですよ、お兄様」

次期王候補という魔法の言葉に黙り込む兄達に手を振って席へ戻った。

「絶対君主制とは、本当に素敵なものですね」

指名が覆ることはない。

王妃や王子であっても、正式に決まった次期王候補である私に害をなせば処罰を受ける。

「それを与えた俺に、三度目とやらの正解を教えてもよいと思わないか?」

「全く思いません」

悲痛な顔をしていても、内心では腹を抱えて笑っているような人なのだから無視するに限る。

何度問われようが誰にも答えるつもりはない。

これが、三度目の人生だということを。