作品タイトル不明
リリーを見つけたテッド
「裏から重症患者を救護室に入れろ。裏のドアと部屋の前には常に誰かを立たせておけ」
「はい」
白神官は一礼をすると 踵(きびす) を返して急いで裏に歩いて行く。
「ハートさんはマリーの事だけ死守して下さい」
「分かった」
ハートさんが私の目を見て 頷(うなず) いた。
これでマリーの安全は保障されたも同然だ。
「聖騎士は少し離れて聖女の前後に二人ずつ付いてくれ。何かあればハートさんのサポートに入れ」
「「はっ」」
聖騎士にはそれぞれ手足になる白神官を付けたし、私は全体を見て自由に動けるようにした。
ハートさんみたいにマリーを守りながら警護の指揮をするのは流石に無理だ。
いざとなったらマリーには、自衛の為に光魔法で閃光を放つように頼んである。
本当の意味で全員体制だ。
私は私の方法でマリーを守る。
お御堂の入り口から祭壇までの中央の通路は、行きと帰りの行列整理の為に縄で区切った。両脇の木製の椅子はそのまま置いて、一時的な休憩場所に。
大きな混乱もなく人々は行儀よく並び、両脇の椅子にはお年寄りが付き添いと共に話をしながら休憩をしている。
好奇心旺盛な子供達は時折、開け放たれた入り口の脇から顔を出す。
よし。表は順調だ。
私が裏の救護室に運ばれた患者の様子を確認し、 再(ふたた) びこの騒々しい表に戻ってくると白神官達が私の元に歩いて来る。
何事だ?
焦る気持ちを抑えて場内に目をやり、その理由を必死に探す。
すると入り口付近で手を振る女に目が留まった。
「なんだ、あの薄汚い女は」
私が眉を 顰(ひそ) めると、やって来た白神官達が困った様子で顔を見合わせて苦笑する。
「実は……。先ほどからハートさんのお名前を何度も呼んでおりまして……」
あまりの理由に私はその場に崩れ落ちそうになった。
ははは。そりゃあ、白神官達もはっきりとは言えないよな。
ハートさんはモテるから大変だ。
「なるほど。騒ぎにならないよう静かに部屋からつまみ出せ」
「はっ」
陽動の可能性も考慮しなくては。ここには聖騎士もいる。
この場はハートさんに任せるのが最善だ。
マリーには「少し離れる」と伝え、ハートさんには「少々問題が」と短く伝えた。
二人共、私の目を見て無言で頷く。
ハートさんはマリーの肩に手を置いて、安心させるように微笑んだ。
聖騎士に「この場を頼む」と伝えると、私は裏の様子を確認する為に奥まで進む。
すると、あの薄汚い女がドアから入って来るのが見えた。
そうか、さっきの騒ぎで警備の白神官が表に回ったのか……。
あんなに持ち場を離れるなと言ったはずなのに。
この程度の陽動にかかってどうする。
ぐっと 拳(こぶし) を強く握り、心の中で舌打ちをしたい気分になった。
いや違う、これは私の落ち度だ。白神官への教育が不十分だったんだ。
この経験は次に生かそう。私は忘れないように急いでメモを取る。
救護室には患者がいるし、ここで戦闘になったらやっかいだな。
周りに敵の気配も無いから、外に出して戦うか。
パン。
戦闘力を探る為に、隠れて水の球を当ててみた。
女は無様な様子であたりを見回している。
ははは。
まるでド素人だな。私の位置すら気付けない。
パン、パン、パン。
「ちょっと! 痛いってば!」
怪我をしない程度に追い詰めてドアの外まで下がらせた。
「何すんのよ! ハートは私の護衛なの! 聞いてくれたら分かるってば!」
ドアを閉めて鍵をかける。
頭の悪い女だな。
ハートさんの依頼人なら何故、白神官に伝言を頼まない?
聖女の前で騒ぐとは命が惜しくないのか?
念の為ハートさんの耳には入れておこう。
急いで祭壇前に行くと、ハートさんに小声で耳打ちをした。
「『ハートは私の護衛だ』と言って騒ぐ女がいます。お心当たりは?」
ハートさんの顔に緊張が走り「マリーには極秘だ」とマリーを横目に声をひそめる。
「拘束せずに追い払え。ガインさんにも報告を。事情は後で話す」
私は目で頷くと、ハートさんも頷いた。
はぁ。やっぱり訳ありか。
ドアを見ながら歩いていると、先ほどの女がお御堂に入って来る。
馬鹿なのかな。
手の空いた神官を集めると建物内の緊急安全確認をさせた。
それが済んだらマリーを救護室に向かわせる。
「聖女様は一旦、休憩に入ります」「しばらくお待ちください」
神官達が叫ぶ中、ハートさんはマリーの視界を遮り女の存在を隠して奥へと連れて行ってくれた。
マリーにはハートさんが張り付く。
聖騎士はマリーがいる部屋の内と外で待機する。
神官も緊急時の打ち合わせ通りに配置した。
後は……。
少し迷ったが、ガインさんには自分の口から伝える事に決めて、白神官に行先を伝えると急いで私は指令室に向かう。
指令室は慌ただしく人が出入りし、とてもじゃないがまともに話が出来る状態じゃない。
ここはいったん出直そうかと考えていると、ガインさんが私を見つけて大きく目を見開いた。
「どうした? 何があった?」
「いえ。報告と、少し聞きたい事が」
私が持ち場を離れてここに来た事に取り乱したらしい。
だが、すぐに平静を取り戻し、もう一度「何があった」と低い声で言った。
「心配いりません。マリーは無事です。救護室で仕事をしてます」
「そうか」
ガインさんがホッと肩の力を抜き、続きを言えと 顎(あご) で 促(うなが) す。
「女がハートさんを訪ねて来ました。ハートさんには『マリーには極秘だ。拘束せずに追い払え』と。お心当たりはありませんか?」
「その女は?」
「追い出しました。今は神官に監視をさせています」
「それでいい。良くやった」
ガインさんはニヤリと笑い、すぐに目の前の地図を指でなぞった。
「誰なのですか?」
「それは後だ」
ガインさんは女の監視をフェルネットさんのチームに任せ、私に持ち場に戻るように指示をする。
すぐに迷子や喧嘩の報告が入り、ガインさんは人の手配や対応に追われていた。
こちらはこちらで忙しそうだ。
情報が貰えない以上、ここにいても邪魔になるだけだな。