作品タイトル不明
15歳直前 マリーの進路
「お前、そろそろ15歳だろ。将来はこのまま白神官になって、資料室の魔術師として就職するのか?」
資料室の魔術師……。
でも確かに、このまま流されたらそうなりそう。
前世の年(14歳) を越えて、この私がとうとう成人する。
何も考えず、ここまで楽しく過ごしてしまった。
「どうしましょう」
保護者全員が揃ったおじいさまの家のリビングで、私は 初(・) め(・) て(・) の(・) 進(・) 路(・) に頭を抱えた。
「お前は何に、なりたいんだ?」
みんなでテーブルを囲み、ガインさんが私を正面から見据えて『何でも言ってみろ』と優しく微笑んでくれる。
薬草と回復薬を研究する。これは一生変わらない。
でも、冒険者になって、尊敬するガインさん達に少しでも近づきたい。
戦闘もした事が無いのに、甘いのかな、迷惑かけちゃうかな……。
いや、ここは相談の場。
遠慮せず、全てを吐き出し、聞いてもらおう。
「……甘い考えかもしれませんが、冒険者になりたいです。そして将来は恋愛結婚を……」
パコン。
苦笑いの師匠に頭をはたかれる。
いや、ふざけてないってば。
「恋愛結婚は置いといて、冒険者になりたいってのは本当か?」
ガインさんが嬉しそうな顔で前のめりになった。
「はい。冒険者になって、皆様のような尊敬出来る人間になりたいです。当面の目標は、皆様に見合う程度の実力を付け “黒龍” に正式に加入する事です。また、将来、寿退社した 暁(あかつき) には転職し、資料室の管理、薬草園の管理、回復薬の研究などをしながら、余生を過ごす事が夢です」
みんな目をぱちくりさせて「寿退社?」「転職?」「余生?」などと叫んで、ぐったり脱力する。
ちょっと夢を詰め込みすぎちゃったかな。
むふふ。つい欲張ってしまった。
「ははは。まさか嬢ちゃんが、私達を目指したいと言ってくれるとはな」
師匠が嬉しそうに私の肩を揺らす。
えへへ。ちょっと照れる。
「安心しろ。お前は俺たちのパーティーメンバーのままだ」
「嬉しいじゃないか。僕は応援するよ」
「これからは仲間だな。とうとう父親卒業か」
反対するどころか、みんなは嬉しそうに応援してくれた。
うふふ。また、みんなと一緒に居られる!
冒険者登録もしていないのに、あれからずっとメンバーのままなんだよね。
距離が離れていると経験値が入らないから、あまり意味はなかったのに。
それともう一つ。
私は昔からずっと考えている事がある。
それは、教皇様に本物のステータスを見せて、正直に話す事だ。
冒険者の仕事と回復の仕事。
今の私なら、両立出来ると説得出来るはず。
でもそれは、複数の加護持ちの悪魔として、捕らえられる可能性も。
あまりにリスクが大きいので、ずっと避けてきた。
この機会に全てを話し、ガインさん達の意見も聞かせて貰いたい。
私が何度か言い淀んでいると、師匠が「何でも言ってみろ」と頷いてくれる。
「実は……」
私はこの10年近くの間、教会や教皇様に、どれだけ良くして貰ったか。
そんな教皇様を騙したまま生きて行くのは嫌だ。
教皇様のお人柄を、包み隠さずみんなに語った。
「今の私は教会で “かなりの実績と信用を得ている” ので、リスクが少ないと思うのです。ぜひ、皆様のご意見をお聞かせください」
みんなは押し黙り、それぞれに考え込んでしまった。
おじいさまは難しい顔をして、腕を組んで唸っている。
私はとてもとても緊張しながら、みんなの言葉をじっと待った。
長い長い沈黙の後、最初に言葉を発したのは、意外にもフェルネットさん。
「僕はいいタイミングだと思うよ。どのみち聖女としての活動は成人後だし。教皇様さえ黙認してくれたら、普通の聖女として扱って貰えると思う」
「教会側には、非公開で聖女教育期間中だったと誤魔化せるしな」
続いてハートさん。
「嬢ちゃんにはガインが聖女教育を叩きこんでいたから、問題はないか……」
師匠が唸りながらも、そう言う。
「俺は正直怖い。確かにそれも想定して、困らないように教育した。だが俺たちの娘として育ててきたマリーが、万が一望まない人生を歩む事になったらと思うと恐ろしい」
ガインさんは「教会の力は大きすぎるんだ」と 項垂(うなだ) れて、師匠に肩を叩かれ居心地悪そうに笑う。
そしてみんながおじいさまの顔を見た。
今まで成り行きを見守っていたおじいさまが、重い口を開く。
「わしは……マリーが信じた人を信じるだけだ。心のつかえが取れぬまま冒険者になっても、後悔するだけだと思うぞ」
目を真っ赤にしたガインさんが、私を見て頷いた。
「俺もマリーが信じた人を信じる。すべてお前に任せるよ」
「ここまで育てていただき、本当にありがとうございました」
感極まって涙が溢れ、感情のままに昔の癖で頭を深々と下げてしまう。
そんな私をみんなが抱きしめてくれるから、凄く凄く嬉しいのに、子供のように大泣きしてしまった。
後は全部、私次第。