軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69【ギリギリセーフ】

バジャー子爵領の孤児院の地下の階段を降りると、まっすぐに通路があり、両側には金属でできた格子が並んでいた。

俺は聖属性魔法を発動しながら、檻の中の人たちを鑑定していく。

左手の檻の方が奥が深くて、獣人族の子供ばかりが十二人寝ていた。

右手の檻は少し狭くて、二人のエルフが入れられていた。エルフの方は檻の中でさらに縛られていて、どこかで見たような首輪もしていた。

「よかった、死んでる人はいない」

鑑定のその結果だけが救いだった。

精霊たちに各檻のカギを開けてもらっては中に入って、みんなの様子を確認する。

獣人族は、虎人族と、虎と人間のハーフが多い。

「あの、あなたは?」

「助けに来ました。あなたたちはどれぐらいここに居ますか?」

一番年長と思われる虎人族の男の子と話す。ブリドぐらい大きいかもしれない。

「わからないです。随分長く感じるのです。ここ、三~四日は食事ももらえておりません」

「とりあえずこれをみんなで飲んで」

と、スポーツドリンクのパックを開け方を教えて人数分渡す。

次はエルフだ。

エルフの寿命が長いと言ったって、人生の中で不本意に檻の中で過ごす期間があっても良いわけはない。

俺は、黄色ちゃんが風で開けてくれた扉をくぐる。

拘束の紐をナイフで切る。

そして首輪も〈 隷属解除(ディスペル) 〉

この、拘束の仕方見たことがある。二人を鑑定する。

ほら、エルフだって状態異常〈栄養失調〉は動けなくなるんだ。

母子か。お母さんの名前が〈ナティエ フォン リーニング〉少し黄色がかったプラチナブロンド。女の子の方は〈アイラ フォン リーニング〉ローズピンクのブロンド。うん、二人とも小説の表紙を飾りそうなきれいな色だ。なのに、やせ細って、青あざもある。

俺は発動し続けている聖属性の回復魔法の出力を上げる。

上のフロアで、ポリゴンとの部屋を繋ぎながらだからほんのちょっと怠くなってきた。でも、大丈夫、まだ全然余裕! 瞬間移動(と) べるぜ。魔法を一つ減らすために、変身を完全に解いて翅も出してしまう。

「アリサねえちゃん!一階の広いところにみんなを連れてとぶから、その扉を閉めて」

「分かったー」

女の子の目が開く。明るい茶色い瞳。うん最近見たことのある瞳の色だ。

「アイラちゃん?よかった」

「おにいちゃま?・・・ごめんなさい、お色が違うわ」

「アイラちゃんのお兄ちゃんはひょっとしてクリス?」

「ええ」

「俺は、クリスとは、これから友達になる予定の、シュンスケと言うんだ」

あ、お母さんの方も起きた。

「ナティエさん。大丈夫ですか?」

この方の目は金色です。

「貴方様は」

「ちょっと、ここから出て、あちらの檻に行けますか?梯子しかないから」

「はい。大丈夫です」

ここに来た時とは違って、少しがやがやしている。俺の魔法でまだ綱渡りな小さな子にエリクサーを小瓶の半分を飲ませて、大きめの子に抱っこしてもらう。

「ではみんな固まって、お互いに手を繋ぐか肩を組んで、大丈夫ですか?いきますよ」

十四人を一気に運ぶ。

一階の大きなフロアに出ると、ドミニク卿が冒険者たちに指示していた。

ポリゴンのシスターもいる。

「シュンスケ、あーそんなにいるのか」

「そうなんですよ。みんな怪我はないけど、他の子と同じで三~四日食事を貰えていないみたいです」

「よし、分かった。そこの食堂に一度座らせよう」

「それから、このエルフの親子なんですけど」

「うん、女の子は先日の子と似ているな」

「クリスのお母さんと妹です」

「なに!よし、二人はポリゴンに移動だな」

「はい」

「そのまま連れて行ってくれ」

「ありがとうございます。

二人とも、クリスのところに行こうね」

「クリスは無事なんですか?」

ナティエさんの目に少し光が差す。

「うん、先日は結構衰弱していたけど、もうかなりマシかな。ではもう一度手を繋いで、行くよ」

三階の扉の前に 瞬間移動(と) ぶ

「この扉を潜ると、ポリゴンっていう東の方の街の冒険者ギルドに行けるんだ。さあ」

また、扉をくぐる。

俺の魔法が効いているのか、ゆっくりなら歩けるようだ。

二人の親子の様子を見ながら階段を下りて、孤児院まで連れていく。

「クリスー」

「はーい。あ、シュンスケさん!」

「お母さんと、妹ちゃんを保護したよ」

「え?あっ、母上!アイラ!」

「クリス!」

「あーん、おにいちゃまー!」

うんうん、いいシーンだ。思わずほろりを貰うよね。

「クリス、俺今滅茶苦茶忙しくて、お母さんたちお願いしていいかな!」

「はい!大丈夫です」

「ナティエさん」

「はい」

「しばらくこの孤児院で落ち着いてもらって、元気になったらこれからのことを考えましょう。それまで、親子三人で療養してください」

「はい。あの、貴方様は」

「うん、詳しくは今度」

「わかりました」

親子三人が纏まっている風景に大満足して、バジャー子爵領に戻った。

バジャー子爵はまだカーリンからのお説教が続いている。

「カーリン。もうその辺で終わりにしてあげて」

「シュンスケ君!」

「シュバイツ殿下」

「あとは、上の人にちゃんと調べてもらった方が良いよ。ここの司祭が、吸血鬼とどんな関係があったのかとか、吸血鬼が捕らえられた途端に、ここの大人が居なくなったこととか、ここの地下室では何のために人を捕えてたのかとか」

「そうね。シュンスケ君、悪いんだけどね」

「ああ、私からも頼む」

カーリンとドミニク卿に頼まれたけど、頼まれなくても同じことをするよね。

「わかった、とりあえず宮殿のダンテさんかな」

「ええ」

ポリゴンに開いていた扉を畳む。とりあえず孤児院の子供は全部あっちに運んだ。

先日に続き面倒を増やしてすみません。

今度は帝都の宮殿の応接に扉を繋げる。

セイラード殿下に、黄色ちゃんに連絡をお願いしたら、丁度、殿下達三人とそれぞれの側近もいるから、先日の応接につなげてと返事があった。

「「やあ、シュンスケ君・それにドミニクも」」

「「すみません殿下がた」」

「大丈夫、俺たちも夏のバカンスどうしようかっていう、どうでもいい話だったから」

「夏のバカンスはどうでも良くないでしょうけど・・・とりあえず詳しくはドミニク卿からお願いします」

「ああ、殿下、実はバジャー子爵領で・・・」

話をドミニクにバトンタッチして、俺はバジャー子爵領に戻り、一緒に付いてきたセイラード殿下も加わって、先に教会と孤児院の掃除の続きをする。

ここの孤児院の子供たちはみんなポリゴン町に保護されたけど、路地裏にいた野良のような痩せた子供たちも何とかしたい。見てしまったから。

もう、外はすっかり日も落ちて、夏の遅い夜が来ていた。

孤児院の会議室でちょっと休憩。空間を繋げる扉を維持したままだから、じっとしてても魔力を結構使っている。魔力が減る感覚は分からないけど、体でぐるぐるしているので、気合を入れないと酔いそうになる。でも眠ったときに変身が解けたように、魔法が途切れたらやばい。誰かを亜空間に放り出すことになりかねないしね。

俺は、 異世界(こちら) に来て初めてお気に入りだったゲームのキャラの描かれているマグカップを出して、インスタントなコーヒーをいれる。久しぶりだからブラックは苦い。子供舌になったから? しょうがない、クインビー達が集めてくれたシュバイツブランドの蜂蜜と牛乳をちょっぴり入れて混ぜませ。

「あつー」

夏はホットはきついな。魔力をちょこっと流して冷やしていく。湯気が出ていたカップの外側にだんだん水滴が出来てきたのを殿下に見られてしまった。

「シュンスケ、それはどうやってるんだ?」

同じく休憩中のセイラード殿下に聞かれる。

「えっと、火属性を逆作動させると、氷を入れなくても冷えるんだよ。あんまり急激にすると割れちゃうから、ちょっとずつやるんです」

「そんな使い方は図書館には無かったけどな」

「普通は冷やすのに火属性を使うなんて思いつかないですよね」

「ああ、水属性の上位魔法の氷でやるな。でもそうか、服に掛ける空調の付与には火属性の魔法陣が入っているな。なるほど、冷やすにもあっちが作動するのか」

ぶつぶつ言う殿下に、俺と同じコーヒー牛乳を出す。

「どうぞ、ただしこれを飲むと、寝られなくなりますよ」

「シュンスケ殿、お疲れ。もう扉を消しても良いぞ」

しばらくして、第二皇子のボルドー殿下が俺の頭を撫でて声をかける、

「え?でも殿下達まだここに」

「俺は、卒業したから、まずは 皇太子(あにうえ) の補佐をと考えていたんだ。ちょうど良い案件だから、もう少し徹底的に調査するよ。滞在用の荷物と人手が明日出発してこちらに向かってくる。夏休みだしセイラードにも手伝ってもらう」

「それは良かった。では」

宮殿の応接室直結の扉なんて、ずっと繋げていられないよね。

「それにしても、やはりシュンスケはすごいな」

ボルドー殿下の侍従と他の侍女が何人か、この会議室を食堂に整えていく。

おれが扉を消す前に、宮殿から夕食をワゴンで持ち運んだみたいだ。

「?」

「宮殿の中は普通、魔法が使えないように施されているんだよ」

「私でも、体内での魔力循環しかできないんだ」

セイラード殿下が言う。

え?俺は全然使えたし、さっきも扉を・・・。

「ただ、ある程度以上の聖属性魔法を持つ者の魔法は通用するらしい。もしものことがあった時に治療さえしてもらえなかったら、何のために魔法を制限しているか分からんだろう?」

「なるほど。でも聖属性魔法以外も使えますよ?」

「ああ、聖属性を持つ者の魔法なら使えるという事だ」

「今日はかなり魔力も使っただろうけど、明日は教会でまた癒し演奏会をしてくれるんだろ?」

「ええ、孤児院以外も皆さん大変そうでしたから」

「では、食事をしたら、シュンスケたちは一度帝都の屋敷に帰りなさい。その魔力はあるのか?」

ボルドー殿下がありがたい言葉をくれる。確かに慣れている枕のほうが疲れは取れるはず。

「はい、往復できますよ。そうですね。お言葉に甘えます」

「ウリアゴの皆さんはどうします?」

セイラード殿下が俺の頭上に視線を向ける。

俺の後ろに立っているのはウリサだけだ

「妹だけ一旦帰らせて、俺たちはこちらに留まって、もう少しここの片付けのお手伝いをします。明日の準備もしておきたいですし」

「わかった。じゃあ君、ウリアゴのアリサ君を呼んできてくれるかな」

ボルドーが自分の後ろの侍従に指示を出す。

“セバスチャンに俺とアリサとミアが今夜はいったん帰るって言って”

俺も黄色ちゃんに指示を出す

“わかったー おうじのごはんは、なしで、おふろをおねがいなのね”

“さすが!”

“へへーん”

精霊の筆頭侍女は黄色ちゃんだな俺には・・・なんてさ。

“せばすちゃんが、ありさのごはんできたって”

“オケー”

「じゃあ、明日の朝宜しくお願いします!」

「お先に失礼します」

殿下達に声を掛けて、アリサとミアと屋敷に教会の納戸の扉をくぐって帰る。

強引にアリサに風呂に引っ張られた。

一度大人に変身してから一緒のお風呂は逃げていたんだけどな。

「いいからいいから」

でも、気持ちよく頭を洗ってもらっているうちに押さえつけていた睡魔に襲われた。

ザバーって上からお湯をかけられている感覚はあるけど、もう動けなかった。

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潮風に乗ってカモメの声が聞こえる。

気が付けば朝になっていた。

目を開けると視界は谷間だった。

「うーん、アリサねえちゃん。暑い」

「むぅ」

夏に添い寝はきついぜ、って思いながらも、熟睡出来てすっきりしているのも確かだ。

まあ、谷間に挟まれて眠れるなんて、ありがたいことかもしれないね。ははは。

歯を磨きながら部屋をうろうろする。

燃えカスになっている蚊取り線香の灰をゴミ箱に捨てる。

蚊取り線香は、箱ごとミアに渡しているので、セットしてくれたんだろう。彼女も昨日は激務だったのに、夜見回ってくれたんだな。

口をゆすいで、顔を洗って少し前髪もセット。

今朝からカッコいいエルフだぜ。なんてな。

エルフの耳で横向きに眠れたのはアリサねえちゃんの腕枕のおかげだった。うん。

カーテンを開けながら、今日やることの段取りを頭の中で整理。

「うーん」

テラスに出て肺いっぱいに海の香りを吸い込む。

“おうじ、かずかぞえてきたよー”

窓に見えている葡萄の蔓から、緑色ちゃんと黄色ちゃんが顔を出す。

“はい、ぶどう”

赤色くんも加わって重たそうな葡萄の房も一つずつ取ぶら下げている。

おれは、ガラスのボウルをだして、ロックアイスをカラカラと入れると、そこに置いてくれる。

精霊ちゃん達の朝ごはんを用意。

小さくちぎったパンに蜂蜜をかけて

「で?」

“あかちゃんはいない”

“さんさいまでが ごにん”

“おうじぐらいまでが じゅうにんぐらい”

「うん、六歳位までが十人ぐらいね。それで?」

メモを取りながら聞く。

“せいらーど ぐらいまでが さんじゅうにんぐらい”

「十歳までが三十人か、一気に増えたな」

“それより おおきなこどもは にじゅうにんぐらい”

この世界では十歳を超えたら冒険者や店の丁稚などの仕事が出来る。

なのに、それさえできない子は何かあるのかもしれないな。

「よし、わかった。ありがとう!」

テーブルのベルを鳴らす。

「シュンスケ様おはようございます。朝ごはんはもう出来てます。ってあっ、アリサ!またこの部屋で寝てる!もう起きて!」

「おはよう、ミア。アリサねえちゃんは俺が起こす。

それより今日、沢山子供がこの屋敷に来るから、服と、タオルと、お風呂の用意をお願い。食べるものは今から作るのは大変だから・・・」

と、ウエストポーチやアイテムボックスなどにしまっておいた柔らかめのパンと、たくさんの茹で卵と、二リットルのペットボトルの水やお茶を半ダースのケースで置いておく。あとは、紙コップ。この際栄養バランスは後回しだ。

「はい。わかりました」

「サイズと男女の数はこれ、余裕をもって多い目に準備をお願い。と、お金は取りあえずこれを預けておくよ」

俺が買い物しやすいように大銀貨をテーブルにばらばら出している後ろで、長くなってる緑銀色の髪を結わえてくれるミア。

彼女にやってもらうと、不思議とばらけてこないからさすがだぜ。あ、今日は三つ編みですか。三つ編みは武器になりそうで好きです。

「はい、十分です。ところで、シュンスケ様はどうやってアリサを起こすのですか?」

「ふふーん、こうやって」

「アリサねえちゃん起きてー」

手を魔法で冷たーくして、ほっぺにペタリ。

「きゃっ、つめた」

「ね?一発でしょ?」

「さすがです」

くすくす笑うミアも結構可愛いんだ。

侍女さんの笑顔も俺の朝ごはんです!

「では、私はセバスチャンにも伝えて、出かける支度をしてきます」

「っていうわけで、アリサねえちゃんはミアと買い物と、子供たちを受け入れる準備をお願い。お風呂が終わったらまたバジャーに返すけどね」

「わかったわ」

アリサもメイド服になって、でも一緒のテーブルで朝ごはん中。

このお屋敷は大きさに違いはあるけど、大きな風呂が二つもあるし、人手はあっちの冒険者でいいだろう。女の人もいたしね。

そうして、今朝は俺一人がバジャー子爵領に戻った。