軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21【もしもーし 模試】

八月に入りました。大学生の夏休みだったら何するんだろう。バイトバイト旅行って感じかな。

実際は入学したばっかりか。

俺は生き生きと楽しそうに仕事をしている母親と同じ道に進みたくて、インダストリアル系の進路にしていたんだよな。ノートパソコン預かったままだったんだけど。

六月に一度、取り出して開けてみようとした。

そうしたら、モニター下のメーカー名を隠すように、付箋にパスワードを書いて、テープでしっかり貼ってあって。思わず「パスワードの意味!」ってつぶやいた。

でも、おかげさまで立ち上げることができました。ネットどうしようかなって思ってたら、携帯からテザリングしたら、なんか繋がるっぽい。最近、あらゆるアプリもネットが繋がらないと使えないもんね。で、アプリの本人確認が、俺のスマホで認証できるようになってて?しかも、電池のマークが見当たらないのに光って動くって。

どういう事?母さん。ひょっとして、あなたの手のひらなんですか?ここ。

なんて、聞くに聞けない。だって、まだスマホのほうのイブの日のメッセージの既読が付かないんだよ。

で、パソコンのほうにも俺のメールを設定したんだ。そうしたら、入学予定の大学から着信が来ていて、

「休学届を受け付けました。復学の際には手続きのため、お電話の上御来校ください。あなたの在学証明書は(こちら)からダウンロードください」

手続きしておいてくださったのね。休学届のお知らせで母の存在を感じるなんて!

だが、俺は復帰できるのか。そもそも地球に。

そうやって、本学業の心配をよそに、異世界の入試の準備に取り掛かっていた。

今はドミニク卿の帝都屋敷の執事さんと一緒。

さっきまで、老眼で執務が困難になってきている彼の代わりに、細かい文字の書類を読んであげて、細かい文字の書類を作ったところ。ウエストポーチに入ってた虫眼鏡と中度の老眼鏡をお貸ししました。

母さん、若いと思ってたけど、もう老眼でした?

この国は日本語と同じように文字数が多いから、英語のようなタイプライターなんてないんだ。全部手書きです。この世界は、印刷用の活字は存在しているんだから、和文タイプライターって言うの?大昔はあったそうなんだし、誰か開発したらいいのに。ワープロへの道のりは遠いね。俺にはパソコンはあるけど。

さて、執事さんの補佐が一時間で終わったら、俺はお出かけだ。

貴族のお坊ちゃんの服を用意してくださいました。

なんとドミニク卿の子供の時の洋服だそうで。そんな古着は余計に緊張するぜ。ってか、ギルマスの子供時代が想像できん。お子さんの時の肖像画がありましたけど、

「この画家、下手なんじゃ?」

せめて、可愛くなるように描けよ。きっとご本人よりかなり歪んだお顔になっている。

「辺境伯家の遠いご親戚で、絵心があるって自負している方が描かれたのです。しょうがないです。スケッチの時はそっくりだったんですけど、完成はこれで」

その人、抽象画家に変更した方がいいよ。

一頭の馬が曳く四人乗りの馬車に一人で座る。

「あの、ウリサ兄さん。今日はよろしくお願いします」

馭者兼護衛はなんと彼なんです。革鎧をアンダーに仕込んだ侍従服に剣を佩いている。で、これが似合っているんだ。やっぱりかっこいい!

「あん?気にするな。ちゃんと賃金の出る仕事だ。そんなことより、俺より堂々としろ」

「無理ですよー」

って縮こまる俺にクスリと笑いながら俺の頭を撫でる。

「さて、坊ちゃんいいですか? 行きますよ?」

「・・・はい」坊ちゃんって。

今日、俺は帝都立学園の模試を受けに出かける。

入試の予行練習だ。この模試で合格ラインを大幅に下回っても、入試の本番の試験には関係はない。

俺は、ドミニク卿が、孤児院で見つけた大貴族の嫡男という設定なのだ。入学後もこの設定を貫かなければいけない。と、ギルマスのお達しなのだ。貴族としての威厳があれば、ちびでも級友に舐められないそうで。

つまり、貴族のふりをする練習が今日のメインの目的だ。

・・・そんなのできると思う?無理だよ。

で、このギルマスの無茶ぶりになぜかウリサ兄さんが乗っているのだ。

「いいですか?俺のことはウリサと呼び捨てるんですよ」

えー

「・・・はい」

もう、〈お坊ちゃんごっこ〉と思って割り切っていこう。

なんか、この世界で家族になりかけてくれた人が遠のく感じで、ちょっと寂しいよ。

さて、海岸の屋敷を出発して馬車で二十分ほどで到着したのは、帝宮殿のすぐ近くにある、伝統ありますって感じの建物群。レンガ調に蔦が絡まっていて、上げ下げ窓。某魔法学校よりちょっと不気味さがあるかもです。

学校の中庭は、馬車を乗り降りするためのロータリーになっていて、そこで恭しいしぐさのウリサ(もうやめてくれ)と別れた俺は、ローブを着た魔法使いって雰囲気の職員に連れられて、階段教室に入った。

大学で使ってみたかったあこがれの階段教室だよ。こっちで実現するのか。

ところが、せっかくの階段教室なのに、一番前の席だった。

背か?背の順か?確かに前を遮る人影はないけどな。注意事項の説明が確かにあったけど。階段だから前の人の身長は関係ないでしょ!

まあ、模試は全然余裕でしたけどね。小学校二年生の国語と算数だけだよ。一応見返したけど、まあ、満点でしょ。ちょっと野菜の名前をうっかり日本語のほうで書きそうになったけどね。似てるんだよ、カボチャとカボテって。同じ野菜だから。そういうのは俺だけが引っかかる罠だ。

魔法の模試もあったんだ。

それが笑っちゃうことに氷の蛇口だった。かき氷のために毎日触ってるもんね。本番では全属性の触っただけで何かが出るものを出されるんだって。試験というより、どんな魔法属性があるのかの検査だな。

周りは俺より五歳年上の子供ばっかりなので、トラブルを避けて、用が終わったら、歩くように見えてダッシュで馬車に戻った。

馬車の前で、ウリサが待ってくれてたけれど、ドアが閉まって動き出した途端、馭者席からダメ出しが。

「早歩きがほとんどダッシュでした。貴族はもっと落ち着いて歩きます」

「はい。気を付けます」

なんでウリサが貴族の動きを知ってるんだよ。って聞いたら

「しょっちゅう護衛でいろんな貴族を見るからな」

なるほど、勉強になります。

模試の結果は当然1位で、超安全合格圏内でした。