軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2【おーまーえーはーだーれーだー?】

歩道橋から謎の光に包まれて、母さんのチョップを食らって見知らぬ世界にいた俺は、改めて自分自身をみる。

年末の寒さに耐えられる黒い普通のダウンジャケットに厚手のジーパン、ハイカットスニーカー どれもリーズナブルなブランドやスーパーのもの。それらを着て座り込んでいた。

暑い。

五月のような?初夏のような気温だ。

スマホを見ても気温を測る機能なんてないよな。

立ち上がってみるかな。

「よいしょ、うわ」

ジーパンがベルトごと落ちた。両手と背中に荷物を持ってて押さえられなかった。

一歩を踏み出そうとしてスニーカーが付いてこなくて脱げた。そのまま前のめりにこけた。けどダウンジャケットがぼふって膨らんで顔を受け止めてくれた。

そのままダウンジャケットのポケットに入ってるスマホを出した。

あ、母さんからメッセージが入ってる。

≪生きてる?怪我はない?≫

見たことのないアンテナマークというかクローバー型の緑のマークが電源マークの位置にある。

≪生きてるし、怪我もなさそうだけど≫

返信してみる。あ、既読付いた。

≪よかった。母さんは先に帰ってるね≫

返信来た、よかった。

じゃない。

どういうこと?十七になって捨てられた?俺はどうやって帰るの?

とりあえず母さんは無事。それはよかった。

顔を一度上げて周りを見る。人影もないし、蝶々は飛んでるけどほかに虫とか動物もいない。

マップのアプリを開いてみる。

・・・ここはどこ?

見たことも聞いたことのない地名だ。外国?みたいな。一応カタカナだったので読めるけど。

二本指で縮小していくがやっぱり日本列島ではない。

大陸? 端っこに海が出てきたけど、反対側は輪郭が出てこない。ガスマニア?

地図を見るのをあきらめる。近くに集落っぽいのがあるみたいだけど、それも見覚えがない。

そして改めてスマホのカメラで自分を確認する。

・・・・・・おまえは誰?

今のショックで白髪になった?っていうか、コスプレイヤーみたいな姿。黄緑がかった白っぽい銀髪は肩甲骨ぐらい結構長め。

最近寒いからちょっと散髪に行くのサボってて、バイト先で後ろにちっちゃい尻尾に括ってたのがばらけていた。でもこんなに長くなかったんだけど。

んで、眉毛やまつげも白っぽい!気持ち悪い。思わず前髪をひっぱって自力で直接見てみる。黒くない。眉毛もちょっとつまんであ、一本抜けた。白っぽい。

もう一度スマホでセルフカメラ。

とくに気持ち悪いのが、目の色が明るい緑。病気?いや、いつもの近眼より良く見えているが。コスプレ用に売ってるカラコンを装着したみたいだ。俺は目に物を入れるのが怖くて眼鏡派だ。今はケースに入れて背中にあるけどな。

確かに母さんほどじゃないけど日本人成分殆どでほんのちょっとクォーター?(父親を写真でしか知らん)な俺だけどさ。髪は染めたことないし、明るめだったけど目も茶色のはずだ。

それよりなによりびっくりするのは 尖った耳。

そして輪郭がまるい。というか、幼い。幼稚園か小学校低学年ぐらいか。でも、俺が小学校の時の写真と似ている。色が違うだけでこんなに印象が変わるって。

やっと、母さんを抜いた身長がまた縮んだのが何よりショック。どのぐらい縮んだかわからないけど、着ている服がぶかぶかだし、背中のバッグは肩からずれて肘のほうでぶら下がっている。

それにしても暑い。

下半身があれだパンイチになりかけだけど、まずはダウンを脱いで乾いた岩に置いてみる。その上に母さんのカバン(持ったままだった)その上にコンビニ袋(チキン入り)。

ベルトを抑えて立ち上がり、ゆるゆるのベルトを締めなおす。あ、一番目の穴でもちょっと緩い。残ったベルトを巻き付ける。ジーパンの裾を滅茶苦茶折り曲げる。……足の長いのちょっと自慢だったのに。

ダウンの下に着ていた長袖も脱ぐ。下には白い半袖のTシャツ。

ハイカットのスニーカーも締めなおす。靴の中はつま先でじゃんけん出来るぐらいゆとりができてしまった。まあ、がばがばだ。

そうして着ているものを整えたら、諸々の荷物を置いた岩の端に腰かける。

「ふう」

俺の心の焦りとは関係なく、広大な風景と穏やかな風が吹いている。草原には色とりどりの花も咲いていて、お花畑っぽいところも所々ある。草花の種類なんて、タンポポとスミレをはじめ片手ぐらいしか知らないけどな。

ちょっと落ち着いてきたかな。

服を整えながら頭の中はぐるぐる考えていた。

これはあれか?今流行りの異世界ってやつか?

しかし自分の見た目が変わりすぎ。俺自身がファンタジーな見た目とか。背も小さくなってるから転生?荷物持ったままだから、異世界転移?

だけど、さっき母さんとメッセージ出来た。

もう一度メッセージしてみる。

スマホがでかい。持ちにくい。手が小さくなったから入力しやすいかも。じゃなくて。

≪どうなってんだ。なんか俺へんだよ≫

母さんにメッセージ

≪駿ちゃんが焼いてくれたチキンおいしいよ!≫

≪え?もう食ってるの?ケーキはここにあるよ≫

≪食べたかったのに残念。消費期限今日なのに≫

今日中に家に帰られない事ご存じなのね。帰ることができたら聞きたいことあるんだけどいっぱい。

って、帰ってもこのなりじゃ俺って分かるのか?

ため息をつきながらもう一度スマホに入力する。

≪ここはどこ?≫

既読なし。チキンか?チキンに夢中なのか?

俺も自分で焼いたやつだから食べてみたかったのに。まあ、一応少し味見はしていたけどさ。

≪おーい母さん≫

≪田中彩美さーん≫

それっきり俺からのメッセージに既読が付かず、返事のメッセージがない。

あきらめて、スマホを置く。

とりあえず荷物が岩の上にとっ散らかっている。

母さんのと二人分の荷物だから多い。しかも現在子供サイズの俺にはさらに大荷物だ。

まずはパソコンが入ってて重い、サーモンピンク色っぽい、母のとはいえ女のカバンを開けてみる。

ノートパソコンと、小さめの保温保冷兼用水筒なぜか熱湯入り、ポケットティッシュとハンドタオル、小銭入れ。カードは入ってない。最近スマホアプリだからカードいらないよね。

見覚えのある辛子色のウエストポーチ。ベルト通しが付いているだけの、今はただのポーチだ。その中にはリップクリームと冬だったのに日焼け止め(未開封)と個包装の飴が何個か入っていた。

てっきりほかの化粧品もあると思ったけど飴とは。見た目は俺の姉に間違われていたけど、やっぱりおばちゃんなんだな。

見覚えあると思ったら、幼いころ、母がよく腰にこれをつけて、俺と公園とか散歩に出かけてたっけ。

外側ポケットに折りたたまれたメモが。鉛筆で書かれた母さんの字だ。

〈困ったときは、このポーチのストラップを舐める事〉

確かにストラップが付いている。十五ミリぐらいの大きさで球体ではなく勾玉のガラスみたい。黄色と透明が軽く混ざったガラスのような石がついている。

深く考えずにちろっと舐める。

何もない。もう一度メモを見る。

文字の内容が変わってる。

〈もっと舐める。三秒ぐらい口に入れとくの!〉

……どういうこと?

ポーチのストラップを口に入れてしまうなんて、なんて痛い高校生なんだ。

あ、いや今見た目がガキだったな。

意を決して勾玉を口に入れる。味はない、ガラスでもプラスチックでもない食感、いや触感。

……なにも起こらない。母さんのいたずら?

メモの文字がまた変わっていた。

〈これには生き物以外は何でも入るよ。生ものは腐らない。〉

舐めてた勾玉を触ってると顔の左の空間に画面のようなものが浮かんで出てきた。

〈所有者を魔力パターン登録しました〉日本語でテキストが点滅すると画面が切り替わり、

膨大な文字列が表示された。

タイトルは〈リスト〉そしていろんな名詞が並んでいく。

まさかファンタジーものによくある、沢山物が入るバッグか!

俺は周りに人がいない事を見て恐る恐るもう一度ウエストポーチのチャックを開ける。そうしてダウンジャケットの袖口に近づけると、バサッと音がしてチキンの入ったコンビニ袋がずれるとその下にあったダウンジャケットが消えていた。

勾玉を触ると、〈リスト〉の下に〈ダウンジャケット×一〉と表示された。

「ファンタジーだ。異世界だ」

思わずつぶやいてしまった。でも、母さんのポーチってのがちょっと解せん。

俺は邪魔になるダウンジャケットや長袖、パソコンの入ったカバン丸ごとなどをウエストポーチにしまう。

そのうち、リストを整理することもできることに気が付いた。

名前順、入れた順、項目別などに切り替えられる。指で整理出来るし、頭でイメージしてもそれが反映される。まるでパソコンのフォルダの一覧みたい。

名前順にしたときに同じ文字で始まるものが大量にあった。

〈駿ちゃんの産着〉

〈駿ちゃんの乳歯〉

〈駿ちゃんの小1の通知表〉

俺の過去のものが大量に入っているらしい。

待てよ?じゃああれは?

〈駿ちゃんの小学校の制服 半ズボン 六才〉

これだ、出てこい!

そう思ったらチャックからしゅっと見覚えのある半ズボンが出てきた。子供の半ズボンなのにちゃんとベルトもできるやつ。

「やった、これはいい」

そうして、恥ずかしいけどネズミーランドのキャラクターの絵のパンツをはじめ、小学校一~二年ぐらいに夏に着ていた服を一揃えだした。ズボンは小学校の制服だけど上のシャツは体操服にした。こういうのは頑丈だよな。

洗って入れてくれていたのか、ちゃんと洗剤の香りがする。でも、今見てみるとかなりくたびれているな。

まあ、ここは動きやすさ重視だ。

もうこれに着替えてしまおう、でかい靴やジーパンは動き辛過ぎる。

もちろんウエストポーチがつけられるようにちょうどよい長さのベルトと、速く走れるとガキの間でめっちゃ流行ってたスニーカーは勿体ないので、上靴にした。そして、他人の前で着替えるためのボタンの付いたバスタオルも出す。他人(異世界人?)の気配はないけど一応バスタオルを装着して、くねくね着替えた。

そして、改めてスマホで身だしなみチェック。

え?これ、大きくね?

確か小五の時はパツパツになったから買い替えてもらってた、小一のズボンが膝上の長さ。

もしや小一じゃなくて、幼稚園サイズ?今の俺。

「ま、いいか、さっきのジーパンより動けるだろ。それより・・・」

・・・ファンタジーな俺の見た目に、平成最後の小学生の服が似合わねえ。ほっぺたが赤いのはさっき、つねったり叩いたりしてみたから。まだ痛いですよ。

六年から中学一年の時に着てた夏物のパーカーも出した。それで頭ごと尖った耳を隠す。耳がある分大きめのをと思って出したから、裾や袖がちょっと長いが、大人サイズを着るよりまし。耳にフードがこすれてなんか変な感じだけど、しょうがないよね。

とっ散らかってた荷物をウエストポーチに入れて、チキンとケーキ(ショートケーキだった)を食べて残りはまたウエストポーチへ。俺が背負ってたカバンの中にあったペットボトルの水を飲んで、そのかばんもウエストポーチへ。水は手に。

そうしてパーカーを着て半ズボン、上履き姿になり、スマホと水を手に持ち、腰にウエストポーチだけで俺は歩き出した。

ガサガサ

風ではない何かの音が森方向の草むらからする。

ビクッとした。

そうだ、ファンタジーな世界は危険がいっぱいだった。母さんのコレクションもいくつかは俺も読んだり観たりしたんだ。着替えてる間に何もなかったのが奇跡なのかもしれない。

見慣れたスマホとか装備に安心していたけど、俺が今ガキの上に丸腰だ。

音のする方を気にしながら、もう一度ウエストポーチを意識する。

なんか身を守れるもの?武器とか?

すると〈リスト〉じゃなくて〈候補〉と浮かんできて

竹刀・日本刀(竹光)・日本刀・脇差・槍(練習用)・槍・剣・・・

とか、いろいろ出てきた。

大中小三種類以上あるのもあった。竹刀も。

俺は幼稚園から剣道やってるからその時のかな?他のは知らない。母さんのものか?そんなコレクションする人だっけ?オタクだった母さんのコスプレ用か?文字だけでは何かよく分からなかったから、馴染みのある竹刀を出そう。とりあえず中で。中じゃ柄が太い感じするけど、大丈夫だな。鍔と鍔止めもついたままだ。

水のペットボトルを収納して竹刀を持ち直したと同時に、ガサガサ言ってたところから何かが飛び出してきた。

「うわあ!」

身構えてたのにびっくりした。心臓がバクバクしているのがわかる。

鹿のような顔の動物が飛んできた。角があって目つきが怖い。鹿のようだけど、柴犬ぐらいの大きさだ。それがこっちに向かってくる。

剣道やってたって、竹刀で防具以外を叩いたことはない!でも!今ガキんちょな俺はこんな小さめの鹿でも相手でも角ごとぶつかられたらヤバイ。

「うぉー」

少々高めの叫び声で体をずらし竹刀を下から振り上げる。

ずしっとした重量感を感じながら振り切る。竹刀なのにバットのスイング。

バサッ

五メートルほど飛んで行った小さいヤツは地面に落ちると動かなくなった。

そうっと近づいて竹刀でつつく。

「あーひょっとして殺しちゃった?。動かない、どうしよ。怒られるのか?」

そうして途方に暮れる案件が増えるのだった。